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ヘルミッショ・ネルズビーイングァ、独身、ロックミュージシャン

マニに「アデュー」と見送られながら、次の三号室の前へと移動する。もらったサンダルも手にしたままだ。マニがドアを閉じるのを見届けて、アーシェスが石脇佑香(いしわきゆうか)に向き直った。


「三号室のヘルミは、このアパートの中では一番、種としてあなたに近いかな。ただ、気が合うかどうかって言ったら、どうかなって感じかも」


アーシェスのその言葉に、彼女はまた不安を覚えた。ここまでそんな言い方はしてこなかったのに、どうして急にとも思った。これまで会った人達以上に変わった人ということなのだろうか…。


コンコンとドアをノックし、


「ヘルミ、アーシェスだけど、今いいかしら?」


と声を掛けた。かちゃりとドアが開いて出て来た姿に、石脇佑香はこれまでで一番、ビクッと体をすくませた。


「…あ?」


うわぁあぁぁ、怖い人だ~…。


それはもはや本能的な反応だった。七号室のメジェレナは見た目は怖かったが実際には温和な人だったのに比べて、こちらは恰好こそは茶髪でベリーショートのウルフカットにTシャツとジーンズという実に普通なもので胸のふくらみを見る限り女性だと思えたが、もうその目が明らかに攻撃的だった。全身から攻撃的なオーラが発せられてる気がした。これこそ彼女が最も苦手とするタイプだった。


しかし、アーシェスは平然としていた。もし殴られたりしたらそれこそ反対の壁まで吹っ飛びそうなくらい体格が違うのに、こんなに怖そうなのに、まるで気にしてなさそうだった。


「なに?、またケンカしてきたの?。いい加減にしなよ。まあいいわ、そのことは後で。とりあえず今は八号室に入ることになったこの子、イシワキユウカを紹介しに来ただけだから」


ケンカ…?。後で…?。いったい何の話をしてるの……。


完全に怯えてしまってほぼ思考停止状態の石脇佑香は、頭を下げることすら思い付かない程に固まってしまっていた。暴力的な雰囲気を前にするとこうなってしまうのだ。今にも泣きだしそうな顔までしている。


「…なんだよそのツラ。何ビビってんだよ。俺がお前になんかしたかよ。被害者ヅラしてんじゃねーよ」


あわわわわわわ……。


これ以上何か言われたら漏らしてしまいそうってなった彼女の前で、アーシェスはヘルミをキッと睨み付けた。


「ヘルミ、いい加減にしなさい。過去を引きずるのは構わない。だけど、それで他人に当たり散らすのは自分の傷を広げるだけよ。これは、先輩としての忠告」


アーシェスのその穏やかにも拘わらず毅然とした態度に、ヘルミと呼ばれたその女性は、視線を逸らして「チッ!」と舌を鳴らした。


「彼女は、ヘルミッショ・ネルズビーイングァ。ロックバンドのボーカルなの」


石脇佑香の方を向きそう言ったアーシェスの顔は、にこやかなものに戻っていたのだった。


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