表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/18

第9話 要するに地獄

 11/6



「それでは今日は人生ゲームをしてみようかと、思いまーす!」



 原のガッツポーズに反応はない。初っ端から空気と胃が重たかった。

 第3回自己探究の会。本日の参加者は6人。 

島野が体調不良で欠席とのことだった。

 

「じゃ私が銀行をやりましょう…かね!他の皆さんは車とピンの方を準備お願いします」


 どこか不自然に間を開けた後、原は俺たち6人に視線を送った。各々が…いや正確には石塚を除く5人が掌サイズの車のコマを取り、ピンを刺した。岡部はさておき、佐々木に関してはこの手の企画は絶対に向いていないと踏んでいた。前回のトランプは4人という少人数グループに分けたにも関わらず、手すら見せなかった。

 故に必然的に6人の視線が集中してしまう人生ゲームなど、佐々木のような極度の人見知りは苦痛に悶え苦しむことになるのは分かりきっていた。


 そんな予想とは裏腹に佐々木が今、ボード上に設置されたルーレットを回そうとしている。


 俺は夢でも見ているんだろうか?


 その驚愕の光景に、俺の肉体が拒絶反応を示すように唇が痙攣し始めた。佐々木もまた、ルーレットを回している時、耳元がますます紅潮していき、手は演技かと思うほど震えていた。その姿は一世一代の大博打に挑むような、歴戦の賭博師に見えなくもない。


 佐々木は摘み部分を持ったまま中腰で10秒ほど硬直した後、ルーレットを漸く回した。


 カラカラカラ、と回る音が耳によく響く。


 これは開催3回目にして気付いたことだが、この部屋は普段の猿が犇く講義室と違い、あまりにも静かだった。というのもまず大前提として、話す人間が原しかいないので、大体それ以外の機会で会話の種が生まれない。加えて仮に誰かが口を開いたとて、それに呼応するような奴は倉井しかいない。本人もそれを承知しているのか、自発的に会話をするような事は殆ど無かった。



「おー!7ですね佐々木くん!ラッキーセブンだ!」



 その祝福に佐々木は遠慮がちに無言で頷いた。その顔はもう悔い無しというか、何か壮大な事を完遂したような表情だった。

 前提を認知している人間として言わせてもらうが、観葉植物が、1週間でルーレットを回すに至るまで進化したのは、プロフェショナルとかで放送してもいいんじゃないだろうか?



「4,5,6,7!」



 力尽きた佐々木の代わりに原が代理でコマを進める。マスに到着すると身を少し乗り上げ、文言を読み上げた。




『えーひったくりに遭う。…所持金-2000円』



 


 場の空気がまた更に重く、のしかかるような威圧感へと悪化した。



「あー…、佐々木くんじゃあ、えっと…ねっ、2000円頂戴しようかな」



 流石の原も気まずそうに、おずおずと所持金を頂戴した。当然なのだが、この金はゲーム内の金であり決して佐々木が恫喝されているだとかそんなことではない。が、佐々木の顔はまるで今から断頭台へ向かう様な悲痛な表情を浮かべていた。



「ぐっ…くふ」



 ふと机の端から息の吹き出す音が聞こえた。見ると、石塚が腕で口元を隠しながら、ただでさえ細い眼を線のようにしながら冷笑していた。まるで仏のような顔だ。倉井はその邪悪さに耐えかねたのか、軽蔑の視線を送る。が、ツボにハマったのか石塚は笑うのをやめない。


 俺はてっきり『拒む』という行動を選択できる分、"人間"としてはまだ佐々木より石塚の方がマシだと見做していたので、これは想定外だった。


 石塚おめでとう、多分お前はあれだよ。twitterとかでよく見る、情緒不安定で捻くれた暴言を送ってるような捨て垢の擬似化だよ。


 視覚的なクズ要素に加えて、聴覚でも外道さを伝えてくれるなんて、ホント大した才能だな。


 お前は神性のクズだ、石塚。

 人じゃない。




「あ、じゃあ…俺回しますね」


 無駄に張り詰めた空気を入れ替える様に倉井が声のトーンを少し上げながら言った。

 ルーレットの出目は4。そのままコマを動かしていき、淡々とマス目のイベントを済ませていく。無駄に注目させると、またクズが人の不幸の匂いを嗅ぎ付けてイキがるからだろう。


 そして倉井は何事も無く終え、手番は岡部へと移った。


「あ、じゃあ、私ですね、うっへへ」


 昔行った遊園地のアトラクションのゴブリンがこんな感じの鳴き声だったな、と思いながら俺はルーレットが回るのを見つめた。

 出目は8だった。

 


「えーっと、舞踏会に招待される。+5000円」



 止まったマスを何故か原が代理で読み上げると、岡部が顎を前に出しながら頭を下げる素振り的な何かをする。


「あっ、舞踏会って言ったらこの間ホタ君の同じグループのサメ君の新曲が公開されましてたしかタイトルがナイトマスカレードパーリーって言ってもう私その時だけ講義あったんですけどね、講義抜けて外で聞いてて、あ、もうイヤホン持ってればよかったなぁって思ったんですけどいやプレミア公開中でコメント打ててホント嬉しくてその後グッズサメ君のも買って確か来週末くらいに届く予定なんですけど」



 再三言ってきたが、何度でも言おう。

 日本語か?これ?



『グッズ買って現実はお金減っちゃいましたけど、ゲームでは増えたー』的な事を言いたいのか?


 何を話してるんだ?


 いや、そもそも何故話してるんだコイツは?


 どう見ても今お前が独唱する時間じゃないって事ぐらい分かるだろ。


 基礎的な状況把握すらできないのか?



「あー…じゃあ、次、山内くんやってもらおう…かな?」



 2分ほどの詠唱に原が無理やり区切りを付けて、俺に手番が周ってきた。





 この地獄が少しでも早く終わってほしい。

 そう切に願いながら俺はルーレットを回す。

 





 







 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ