第67話 魔道具
「お前ら、ここへ来る途中で妙なものを見なかったか?」
その言葉に、葵と梓紗は顔を見合わせる。
「妙なものって?」
梓紗が尋ねると、中田は少し考えてから口を開いた
「俺たちの世界にあったようなものだ。こっちの世界には、本来存在しないはずのもの」
葵は少し考え、資料館を出てからここへ来るまでの道を思い返す。
「……電柱は見たけど、それ以外は特に」
「そうか」
中田は一度頷き、背中を預けている電柱へ目を向ける。
「じゃあ、やっぱりまだこの辺りでは見つかってないのかもしれないな」
「何が?」
「元の世界から飛ばされてきたものだよ」
中田はそう言って、周囲へ視線を向ける。
「俺はさっき話した通り、学校だけじゃなくその周辺にあったものまで一緒に転移したんじゃないかと思ってる。もしそうなら、電柱だけじゃなく、本や瓦礫みたいなものもどこかに落ちている可能性がある」
「世界中のどこかに……?」
「ああ。全部が同じ場所に飛ばされたとは限らないからな」
葵は横倒しになった電柱へ視線を落とす
この世界にあるはずのないものが、こうして目の前にある。
それが一つだけなら偶然とも考えられる。けれど、中田の言う通りなら、世界のどこかにはまだ自分たちの知っているものが残されているのかもしれない。
「……それを探してたんだね」
「ああ。もしかしたらそこからみんなを探す手掛かりが見つかるかもしれないからな」
中田はそう言って、ゆっくりと立ち上がった
「それと、もう一つ」
そう言って中田は懐から小さな石を取り出した。手のひらに収まるほどの大きさで、表面には細かな模様が刻まれている。
「……なにそれ?」
葵が尋ねると、中田は石を軽く掲げた
「連絡用の魔道具だ」
「連絡?」
「ああ。二つで一組になっていてな。片方に魔力を流せばもう片方が反応する」
中田はそう言いながら、石へわずかに魔力を流す。すると表面の模様が淡く光った。
「これなら、離れていてもお互いの方向と大まかな距離が分かる」
「じゃあ、これを持ってれば……」
「もう俺を探し回らなくて済むな」
中田が少し笑う。
「俺も同じものを持ってる。何かあったら魔力を流せばいい」
葵は石を受け取り、手の中でじっと見つめた。
「……便利だね」
「ただし、遠すぎると反応しなくなる。それに正確な場所まで分かるわけじゃないから、そこは覚えておいてくれ」
「分かった」
葵は小さく頷き、石を大事にしまった
これなら、もう中田がどこにいるのか分からなくなっても、今までのように手掛かりを探して歩き回る必要はない。
――もっとも、葵はまだ知らなかった。
この小さな石が、後に自分の言霊によって少しずつ形を変えていくことを。
「これで、次に何か分かった時はすぐ知らせられるな」
中田はそう言って、葵のポケットにある連絡石へ視線を向けた。葵も改めて石を眺めながら、これがあれば次に中田と離れることになっても今までのように手掛かりを探して歩き回る必要はなくなるのだと思った。
「こういうのって、他にもあるの?」
梓紗が尋ねると、中田は少し考えてから頷く。
「似たような魔道具ならいくつかある。ただ、これは俺が使いやすいように調整してもらったやつだ」
「へぇ……」
梓紗が興味深そうに石を眺める横で、葵もその細かな模様へ視線を落とした。魔力を流すことで反応する仕組みらしいが、どういう構造になっているのかまでは分からない。それでもなぜか妙に気になるものだった
「まあ、難しいことは考えなくていい。何かあったら魔力を流せばいいからな」
「分かった」
葵はそう答えて、石をポケットへしまった。
それから三人はその場に残されたものについて話したり、これまで互いに何をしていたのかを話したりしながら、しばらくその場で過ごした。中田がここへ来るまでに見つけたものや、葵たちが資料館で聞いた話など、話題は自然と次々に変わっていき
「そういえば、お前らは今どこにいるんだっけ?」
「私たちは――」
葵が今いる場所について話すと、中田は少し驚いたような顔をした。
「そうか、そんなところにいたのか」
「中田は?」
「俺は宿を転々としてる。ここを調べ終わったら、また別の場所へ行くつもりだ」
「大変じゃない?」
「まあ、慣れたよ」
そんな何気ない会話を続けているうちに、梓紗がふと空を見上げた。
「……あれ?」
「どうしたの?」
葵も梓紗の視線を追うように空を見上げる。木々の隙間から見える空は、いつの間にか夕焼けに染まり始めていた。資料館を出たときにはまだ十分に明るかったはずなのに、話しているうちに思っていた以上に時間が過ぎていたらしい
「もうこんな時間なんだね」
「話し込んじまったな」
中田も空を見上げながら苦笑する。
葵はポケットの上から、先ほど受け取った連絡石へそっと触れた。
今日は資料館で新しい手掛かりを見つけ、中田とも再会することができた。まだ分からないことは多い。それでも、少しずつ前へ進んでいるような気がしていた。




