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第60話 魔法学園㉚

二人は補助干渉リンクが示す方向へゆっくりと歩き始める。入口を抜けると外の空気はすぐに遠ざかり、ひんやりとしたダンジョン特有の静けさが辺りを包み込んだ。何度か通ったことのある道だ、景色も覚えている。それでも今日はどこか違って見えた


「なんか静かだね」


梓紗が周囲を見回しながら小さく呟く


「ああ、前はもっと魔物がいた」


葵も辺りへ視線を向けるが、それらしい気配は感じられない。足音だけが通路へ反響し、補助干渉リンクだけが黙ったまま進むべき方向を示し続けていた


しばらく歩いていると、視界の端の表示がふっと切り替わる。


【残留反応:強】


葵の歩みが少しだけ速くなる。


「何か出た?」


「たぶん近い」


それだけ答え、表示が示す方へ進んでいく。角を一つ曲がり少し開けた場所へ足を踏み入れたところで

矢印はゆっくりと消えた。


代わりに表示されたのは、短い一文だけだった。


【目的地】


「ここ……?」


梓紗が辺りを見渡す


何もない。


魔物も、人影も見当たらない


補助干渉リンクが間違えたのかと思ったその時、葵の視界に小さな違和感が映る


通路の端


岩陰に何かが落ちていた。


「……あれ」


近寄ってしゃがみ込む


土埃を払うと、小さなキーホルダーが姿を現した


少し傷は付いている


それでも、その形だけは忘れるはずがなかった


「それって……」


梓紗も隣へしゃがみ込む


葵は何も答えず、手の中のキーホルダーをじっと見つめる


見覚えがあるなんてものじゃない


何度も見てきた


学校へ行く時も、帰る時も、鞄にぶら下がって揺れていた


「あいつのだ」


小さく漏れた声に、梓紗の表情も変わる


「じゃあ……」


「ああ」


それ以上言葉は続かなかった。


中田はここへ来ていた


少なくとも、この場所までは


それだけで十分な収穫だった


葵が静かにキーホルダーを握り直した、その瞬間だった


視界の端で補助干渉リンクがもう一度だけ淡く光る。


【残留反応:消失】


表示はそれだけだった


矢印は戻らない


新しい案内も出ない


まるで、この場所まで導くことだけが役目だったかのように静かに沈黙する


「終わり……なのかな」


梓紗がぽつりと呟く


葵はしばらく無言のままキーホルダーを見つめ、それをポケットへしまい込んだ。


「いや」


「ここからだ」


補助干渉リンクは止まった


でも、自分たちの足は止まっていない


中田はまだこの世界にいる


その証拠を手にした今、昨日までとは違う確信だけを胸に抱きながら、二人は静かなダンジョンの奥へもう一度視線を向けた


そのままもう一度周囲を見て回った


壁際も、岩陰も、少し離れた通路まで確認してみたが新しい手掛かりは何一つ見つからない。補助干渉リンクも最初に反応したきり静かなままで、視界の端には変わらず【残留反応:消失】の文字だけが残っていた


「……やっぱりこれ以上はここに無さそうだね」


梓紗が小さく息を吐く


「んー、一回戻るか」


このまま闇雲に奥へ進んでも意味はない


中田がここへ来ていたことは分かった


それだけでも今日は十分な収穫だった。


二人は来た道を引き返し、静かな通路を並んで歩いていく。行きは何か見つかるかもしれないという期待があったが、帰り道は不思議なくらい静かだった。足音だけがダンジョンへ反響しやがて遠くから差し込む外の光が少しずつ近付いてくる


出口を一歩越えた、その瞬間だった


視界の端で補助干渉リンクが小さく揺れる。


「……?」


葵は思わず立ち止まった。


さっきまで何も表示されていなかったはずなのに、新しい文字がゆっくりと浮かび上がっていく。


【検索対象を再設定】


「再設定……?」


聞いたこともない表示だった


その文字は数秒だけ明滅すると、今度は矢印がゆっくりと動き始める。


葵は反射的にダンジョンへ視線を向ける


違う。


矢印はそこを向いていない


ゆっくりと回転し、そのまま街の方角で止まった


【進行方向:維持】


「どうしたの?」


隣で梓紗が不思議そうに覗き込む。


葵は表示を見つめたまま、小さく首を振った


「どうやら……ここが終わりじゃなかったらしい」


「え?」


「さっきまでダンジョンを指してたはずなのに、今は違う場所を示してる」


梓紗はその言葉を聞いて街の方を見つめる


もちろん何も見えない。


補助干渉リンクは葵にしか見えていないのだから


「じゃあ次はあっち?」


「ああ……たぶん」


理由は分からない。


けれど補助干渉リンクは迷いなく同じ方向だけを示し続けていた


二人は顔を見合わせる


そして今度はダンジョンではなく、街の奥へ向かって静かに歩き出した。

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