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第6話 止まらないものと、ずれ始める日常

気づけば見慣れた曲がり角まで来ていた。

いつも通っているはずの道なのに、途中の記憶が曖昧だ

中田と別れたあと、何を考えていたのかも思い出せない

そのまま歩いて、

気づけば家の前に立っていた。


玄関のドアを開ける、見慣れたはずの景色なのにどこかずれている気がする。

「……ただいま」と呟いても返事はない。分かっているのに誰かに聞かれている気がしてしまう。


部屋に入る、...静かすぎる。ベッドに腰を下ろした瞬間机の上のペンがわずかに転がった。


カタン。


息が止まる。

触れていないのに動いた。


「……やめろ」


思わず声が出る。次の瞬間ぴたりと止まる。


……今のは、俺か。


考えた瞬間背中が冷える。


――ピンポーン。


インターホンが鳴った。体がびくっと跳ねる。もう一度鳴る。


玄関に向かい覗き穴をのぞく。そこに立っていたのは中田だった。


「いるんだろ」


いつもの声、でもどこか違う気がする


ドアノブに手をかける


その瞬間。


「開けるな」


背後から声がした、体が固まる

振り向くが誰もいない。


なのに確かに聞こえた、あいつの声。


「……なんだよ」


小さく呟く


もう一度ドアを見る、中田はそこにいる。

普通に立っている何もおかしくない。


「開けろって」


ドア越しの声。


現実の音が、こっちを引き戻す。

……どっちだ。


手が震える。


数秒がやけに長く感じる


「……今開ける」


そう言ってしまう


ゆっくりとドアノブを回してドアを開ける。


そこにいたのは中田だった。


「やっとかよ」


少し呆れた顔で言う、制服も表情もいつも通りだ。


「どうしたんだよ」


なんとか声を出す。


「ほら忘れ物」


そう言ってシャーペンを差し出してくる。見覚えのあるやつだ。



「あ,,,それ俺のシャーペン?」


「そう、机にあったぞ」


……それだけか。


中田からシャーペンを受け取る。手が少し震えている。


「ほんとに大丈夫か?手、震えてるけど」


「大丈夫、平気」


なんとか答える。


「ならいいけど」


中田は軽く手を上げてそのまま帰っていく。

その背中が角を曲がって見えなくなるまで見送る


静かになる。

ドアを閉める。カチ、と鍵をかける


深く息を吐く……何もなかった。そう思った


そのとき。


「開けなくてよかったのに」


背後から声がした。

振り向くと、あいつが立っていた。


「……なんなんだよ、お前」


あいつは少し目を細める。「気づくの、遅いな」と軽く言う。


「もう、自分で止められないだろ」


図星だった。


「最初はそうなる。思う前に起きる」


言葉が落ちてくる。


「……これ、なんなんだよ」


「言葉だよ、現実に出てるだけ」


「止め方はあるのか?」


「あるにはある、でも今のお前じゃ無理だな」


「じゃあどうすればいい」


「使うな」


そんなの無理だ。


「だから言っただろ。止まらないって、壊れるよ?」


背中が冷える。


「……壊れるって、なんだよ」


「お前だよ。先に壊れるか、世界が壊れるか、どっちかだな」


息が止まる。


「まぁ」


あいつは振り返る。


「まだ先の話だ」


そう言って歩き出す。


「ちょっと待てよ」


呼び止めると、あいつは一度だけ足を止めた。


「……ああ、そうだ」


思い出したみたいに言う。


「次に会うときはここじゃない」


どういう意味だ。


「場所が変わる」


それだけ言って、視線を外す。


「それと」


少し間を置いて。


「死んでもらっちゃあ困るから、お前に師匠つける」


軽い口調。


「あんま壊れる前にな」


そう言って、消えた。


音もなく最初からいなかったみたいに。

部屋にはまた静けさだけが残る。


――止まらない。


その言葉だけが、頭の中に残り続けていた。

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