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第58話 魔法学園㉘

それ以上この話を続けても終わりが見えないと思ったのか、梓紗は満足そうに笑って再び夕飯へ戻る。話題も自然と別のものへ移り、さっきまで中田の話をしていたはずなのに、いつの間にか全然違うことで笑い合っていた。


そんな他愛のない時間は思ったより早く過ぎる


気付けば皿の上はすっかり空になり、食器を重ねる音が静かな部屋へ響いた


「ごちそうさま」


「ごちそうさまでした」


三人が席を立つ


梓紗が皿を持ち上げようとしたところで、葵は先に手を伸ばした


「それ、持ってく」


「え、大丈夫だよ?」


「いいから」


そう言って皿を受け取る


梓紗は少しだけ驚いたような顔をしたあと、小さく笑った


「ありがと」


「別に」


そのまま流し台まで運び、水道へ皿を置く


後ろから梓紗もついてくるが、片手だけではまだ少し勝手が悪いらしく、食器を重ねるだけでもぎこちなさが残っていた


葵は何も言わず、そのまま残っていた皿もまとめて受け取る


「なんか最近そういうの増えたよね」


「何が」


「そういうの」


梓紗は葵が持っている皿へ目を向ける


「前はこんなことしなかったじゃん」


「そうだったか」


「うん。前だったら『自分で持てるだろ』って言ってたと思う」


言われて少しだけ考える


確かに、昔の自分ならそう返していたかもしれない。


「まぁ」


「今は右腕ないし」


その一言に梓紗は少しだけ目を丸くした。


「そのうち治るけどね」


「治っても持つよ」


何気なく返しただけだった


深い意味なんてなにも無い


けれど梓紗は少し黙ったあと、小さく笑う


「……ありがと」


さっきより少しだけ優しい声だった


向こうではリリスがそんな二人を横目に見ながら小さくため息をつく


「食器を洗う前にそこで止まらないでもらえるかしら」


「あ」


「ごめん」


慌てて二人で流し台の前を空ける。


リリスは呆れたように首を振りながらも、その表情はどこか柔らかかった。

 

――――――――――――――――――――


部屋へ戻った葵は静かに扉を閉め、そのままベッドへ腰を下ろした


家の中はすっかり静かになっていて、さっきまで聞こえていた梓紗の笑い声も、リリスの呆れたような声ももう届かない


窓の外では風が木々を揺らす音だけが小さく聞こえ、昼間とはまるで別の世界のようだった。


「……あ、そうだ」


ふと思い出したように呟き、葵はゆっくりと目を閉じる。昼間から一度も確認していなかった補助干渉リンク


暴走のあとどうなったのか、それだけは確かめておきたかった。


意識を静かに沈めていく


あの時のような圧迫感は無い


頭の奥へ触れるように意識を向けると、見慣れた感覚がゆっくりと返ってきた


視界の端へ淡い光が滲み、そこへ文字が浮かび上がる。


【補助干渉リンク 接続中】


その表示を見た瞬間、胸の奥で張っていたものが少しだけ緩んだ。少なくとも壊れたわけではないらしい


昼間は半ば強引にリンクを切り離したせいでどうなっているか分からなかったが


今は以前と変わらないほど安定しているように見える。


「戻ったのか……」


小さく息を吐きながら、そのまま表示へ意識を向ける


見慣れた項目が一つずつ並んでいく


【状態】


【適性】


【思考補助】


【対象転移】


【座標転移】


どれも今まで何度も使ってきた機能だ。確認するように視線を下へ流していくと、その途中でふと動きが止まる。


見覚えのない項目が、一つだけ増えていた。


【検索】


「……なんだこれ」


思わず声が漏れる。


何度も開いてきた補助干渉リンクだ、見落とすような場所でもない


それなのにこんな機能があった記憶はどこを探しても出てこなかった


昼間の暴走が原因なのか


それとも、風属性の適性が変化したことと関係しているのか


少し迷ったあと、葵はその項目へ意識を向ける。


表示が静かに切り替わった


【検索対象を入力してください】


「入力……」


キーボードなんてあるわけがない。


試しに頭の中で一つの名前を思い浮かべる。


――中田。


その瞬間、表示がゆっくりと書き換わっていく


【検索中……】


「反応した」


思わず身を乗り出す。


画面はしばらく動き続け、何かを探すように文字が明滅する


見つかったのか。


そう思った次の瞬間、その表示は止まり、新しい文字へ切り替わった


【対象情報不足】


「情報不足……?」


思わず眉をひそめる


検索できないわけではない


反応はしたけれど何かが足りない


最後に会った場所なのか、それとももっと別の情報なのか


理由は分からないが、少なくともこの機能は完全に使えないわけではなさそうだった。


葵はもう一度表示を見つめる


昼間の暴走


風属性の変化


そして今まで無かった新しい機能


偶然とは思えないことばかりが続いている。


「……まぁいいか」


小さく息を吐き、表示を閉じる


どうせ今ここで考えても答えは出ない。


それなら明日、実際に中田を探しながら試した方が早い


そう結論を出すと葵はベッドへ体を預け、静かな天井をぼんやりと見上げた。時計の針だけがゆっくりと時を刻み、さっきまで賑やかだった家の中も、今は穏やかな夜の静けさに包まれている。


目を閉じると不思議と昼間の暴走よりも、明日梓紗と歩き回る光景の方が先に頭へ浮かんだ


少しだけ面倒で、それ以上に少しだけ楽しみな気持ちを抱えたまま、葵の意識はゆっくりと眠りの中へ沈んでいった

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