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第57話 魔法学園㉗

「そういえばさ、またお菓子減ってたよね」


梓紗が何気ない調子で言う。


葵はご飯を口へ運びながら少しだけ視線を向けた。


「知らない」


「まだ誰が取ったか聞いてないんだけど」


「どうせ俺になる」


「まぁなるね」


「なるのかよ」


あまりにも自然に返されて思わず突っ込む。


すると梓紗は悪びれた様子もなく肩をすくめた。


「だって一番可能性高いじゃん」


「証拠は」


「無い」


「じゃあ無実だろ」


「でも怪しい」


「それはただの偏見じゃないかしら」


リリスが横から口を挟む。


助け舟かと思ったが違った。


「偏見ではなく経験ね」


「味方じゃなかったか」


「最初から味方ではないわよ」


酷い話だ


梓紗は楽しそうに笑っているし、リリスも本気で責めているわけではないらしい。最初の頃なら考えられなかった光景だなと思いながら葵は箸を進める。


家の中は相変わらず騒がしい、だがそれがいいのかもしれない。


誰かが喋っていて、誰かが笑っていて、たまにリリスが呆れた顔をしている。いや、リリスはいつも呆れてる。


まぁ別に特別なことをしているわけじゃない。夕飯を食べて適当な話をしているだけなのに、そういう時間がいつの間にか当たり前になっていた。


「そういえば」


葵はふとテーブルの端へ置かれた本を見る。


「その本まだ読んでるんだな」


昨日も見た気がするしその前も見た気がする。正直いつ読み終わるのか分からない。


「まだ読んでいるわね」


「終わるのかそれ」


「終わるから読んでいるのだけれど」


「終わる気がしない」


「あなたが読む本じゃないもの」


「失礼だな」


「事実よ」


リリスは平然と返す。


「でも本当に読まないよね」


梓紗が興味深そうにこちらを見る。


「読むだろ」


「漫画以外で?」


「……」


「ほら」


返せなかった


リリスが小さく笑う


それを見て梓紗も笑う。


なんだかんだで楽しそうだった


葵は小さく息を吐きながら窓の外へ目を向ける


外はすっかり暗くなり始めていた


こうして家で過ごしていると昼間の出来事も少しずつ遠く感じてくる。訓練場のことも、補助干渉リンクのことも、頭の奥で聞こえたあの声のことも、今はだけは少し現実感が薄れていた


ふとガイの顔が頭に浮かぶ。


昼間の騒がしい声を思い出し、そのままリオの顔も浮かんだ


学校へ行けば当たり前みたいにいて、気付けば話している連中


そしてそこから自然と別の顔が浮かぶ。


中田。


そういえば最近あいつのこと全然思い出してなかったな、と考えたところで葵の箸が少し止まる。


魔法のこと、言霊のこと、学校のこと、毎日のように何かが起きていて中田について考える余裕も無かったのかもしれない


「どうしたの?」


梓紗が気付いたらしい。


「いや」


葵は少し考えてから口を開く


「その...中田って今どうしてんだろうな」


その名前を聞いた瞬間、梓紗が懐かしそうな顔をした。


「あー、中田君か」


「知り合いなの?」


「葵の昔の友達だよ。学校行ったらだいたいいたし、帰りもよく一緒だったらしいし」


「勝手に説明するな」


「間違ってないでしょ?」


「まぁ」


否定はできなかった。


学校へ行けばだいたい顔を合わせていたし、帰り道もよく一緒に帰ったりした。特別仲が良かったのかと言われると分からないが、気付けば隣にいるのが当たり前だった相手ではある。


「そういえば最近聞かないね」


「だろ」


「連絡とか取ってないの?」


「どう取るんだよ」


「あ、確かに」


梓紗は少し考えるような顔をする。


そのままご飯を口へ運び、何か思い付いたみたいに顔を上げた。


「じゃあ探しに行けば?」


あまりにも軽い言い方だった


葵は少しだけ動きを止める


「探すって言ってもな」


「会いたいんでしょ?」


「別に」


「んーじゃあもう明日一緒に行こうよ」


「は?」


葵が顔を上げると梓紗は当然みたいな顔で頷いた


「だから探しに」


「なんでお前まで行くんだ」


「暇だから」


即答だった


理由が軽すぎる


けれど梓紗は全く気にした様子もなく続ける


「それに私も中田君知ってるし、ちょっと気になるじゃん」


「最後の方が本音だろ」


「まぁねー」


隠す気すら無かった。


向かいではリリスが小さくため息を吐いている


「あなたはもう少し遠慮というものを覚えなさい」


「リリスだって気になるでしょ?」


「別に」


即答だった。


「絶対嘘だ」


「嘘ではないわ」


「でも後ろからついてきそう」


「それは少し分かる」


「なぜ葵までそちら側なのかしら」


「なんとなく」


「なんとなくで納得されたくないのだけれど」


リリスは呆れたように額へ手を当てる。


すると梓紗がすぐ笑いながら口を挟んだ


「でも絶対来るよね」


「行かないわ」


「じゃあ私と葵だけで行くー」


「それで妙なことに巻き込まれたらどうするの」


「その時その時」


「ほら見なさい」


リリスがこちらを指差す


「この楽観的な生き物を」


「生き物って言った」


「聞こえてるからな」


二人から同時に突っ込まれてもリリスは全く気にしていない。


むしろ当然の評価だと言わんばかりだった


梓紗はそんな様子を見てまた笑っている


最近よく思うが、本当に表情が増えた


前の世界ではこんな風に笑うことも少なかった気がする


少なくとも今みたいに、くだらない話だけで楽しそうにしている姿はほとんど見た覚えがない


「で?」


梓紗が箸を持ったままこちらを見る。


「結局どうするの?」


「何が」


「中田君」


葵は少し考える


探すと言っても当てがあるわけじゃない


最後に会ったのもかなり前だ


今どこで何をしているのかも分からない。


それでも一度思い出してしまうと妙に引っ掛かる


学校へ行けば当たり前みたいに顔を合わせていたやつだからかもしれない


気付けば隣にいて、気付けば話していて、気付けばいなくなっていた


それだけなのに妙に気になる


「まだ決めてない」


そう答えると梓紗は露骨に疑うような顔をした


「それさっきから何回も聞いた」


「何回も答えてるからな」


「でも絶対行くじゃん」


「なんでそうなる」


「だって気になってる顔してるし」


「顔で分かるのか」


「分かる」


即答だった、しかも妙な自信まである。


向かいではリリスまで小さく頷いていた


「分かるわね」


「なんでだよ」


「あなた分かりやすいもの」


納得はいかなかった


けれど否定する材料も無い


実際、中田のことを考えているのは事実だったのだから


そんなことを考えていると、梓紗が楽しそうに笑う


「じゃあ明日でいいじゃん」


「話が早いな」


「休日なんだからいいでしょ」


「まぁ暇だけど」


「ほら」


勝ったみたいな顔をされた


納得はいかない。


けれど反論するのも面倒だった


「何時にする?」


「まだ行くって言ってない」


「でも行くんでしょ?」


「たぶん」


「ほら」


「たぶんだからな」


「はいはい」


絶対信じていない返事だった

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