第54話 魔法学園㉓
風はさらに強くなっていく。
葵は反射的に手を下ろした。止めるつもりだったけれど風は消えない、それどころか手を下ろした後も周囲の空気は流れ続けていた。
「……え?」
思わず声が漏れる。
今までの能力なら分かる、言霊も転移も自分が使っている感覚があったし、少なくとも何が起きているのかは理解できていた。けれど今は違う。自分が操作しているというより勝手に風が集まってきている感覚の方が近かった。
頭の奥では表示が流れ続けている。
『補助干渉リンク:補強中』
これが原因だな
周囲の砂が少しずつ舞い始め制服の裾が大きくはためく。髪も風に流され、気付けば近くにいた生徒たちまでこちらを見始めていた。
「おい、なんだあれ」
「風強くないか?」
「あれは水瀬じゃね?」
おいおい注目の的じゃねぇかよ終わったな、
リオも驚いたように足を止めていたし、ガイなんて完全に距離を取っていた。その肩の近くでは、いつもの淡い光まで落ち着きなく揺れている。
その中で葵だけは別のことを考えていた。
てかこれ、どこまで強くなる。
そんな考えが頭をよぎった直後、足元の砂が大きく巻き上がった
視界の端が茶色く染まる
風は止まらない
むしろ強くなっている
周囲の空気そのものが引き寄せられるみたいに集まり続け、訓練場の砂を巻き込みながら渦を作っていた
『補助干渉リンク:補強中』
表示はまだ消えない。
止まれと思っても反応しないし、それどころか補助干渉リンクだけが勝手に動き続けているようだった。
その時、頭の奥へ低い声が響く。
――リンクを一時遮断しろ
葵の表情が僅かに固まった。
聞き間違いじゃない。
久しぶりだった。能力を得たばかりの頃、何度か聞こえたあの声だ。
「……またか」
小さく呟く。
風はまだ強くなっているし、周囲では生徒たちのざわめきも大きくなり始めていたが、今はそれどころではない。
――急げ。そのままでは制御を失う
声は短くそう告げる。
制御を失う。
その言葉に葵は小さく眉をひそめた。
冗談を言っているようには聞こえないし、実際に自分でも風がどこまで強くなるのか分からなくなってきていた。周囲の空気が集まってくる感覚はまだ続いているし、補助干渉リンクの表示も消えないままだ。
「……だから、どうやるんだよ」
思わず漏れた言葉に、声は少しだけ間を置いて返してくる。
――繋がりを意識しろ
――お前が今感じているそれだ
――そして切れ
葵は歯を食いしばる。
声が言っている繋がりというのは、おそらく補助干渉リンクのことだろう。最近ずっと頭の奥にあったあの感覚、能力同士を結び付けているような見えない線へ意識を向ける。
風はまだ吹き荒れているし、周囲のざわめきも聞こえる。それでも目を閉じ、頭の奥にある感覚だけを探った。
切れ。
そう強く念じる。
見えない線を断ち切るみたいに、繋がりそのものを引き剥がすイメージを頭の中へ浮かべると――。
ぶつり、と。
頭の奥で何かが切れたような感覚が走った。
次の瞬間、それまで荒れ狂っていた風が嘘みたいに勢いを失い、巻き上がっていた砂も次々と地面へ落ちていく。
訓練場を満たしていた風は少しずつ弱まり、数秒後には何事も無かったような静けさだけが残った。
葵はゆっくりと目を開く。
頭の奥を埋めていた妙な感覚も消えていた。さっきまで流れ続けていた補助干渉リンクの反応も無くなっていて、代わりに残っているのは不自然なくらいの静けさだけだ。
周囲では何人もの生徒がこちらを見ていた。
突然風が暴れ出したと思ったら今度は一瞬で収まったのだから当然だろう。
「お、おい……」
最初に口を開いたのはガイだった。
少し離れた場所からこちらを見ていて、その表情には驚きが浮かんでいる。
リオも何か言いたそうな顔をしていたが、すぐには言葉が出てこないらしい。その肩の近くでは淡い光たちまで落ち着かないように揺れていた。
「今の……葵がやったの?」
「いや……」
そう答えかけて、葵は言葉を止める。
自分でもよく分かっていなかった。
風を起こしたのは確かに自分だけれど途中からは完全に制御を離れていたし、最後に止めた方法だって説明できる気がしない。
頭の奥へ意識を向けてみる。
だが、さっきまで存在していた補助干渉リンクの気配は綺麗に消えていた。
『補助干渉リンク:一時遮断中』
代わりに浮かび上がった表示を見て、葵は小さく眉をひそめる。
一時遮断中。
つまり消えたわけじゃない。
ただ切っただけだ。
そう考えた瞬間、さっき聞こえた声のことを思い出す。
――リンクを一時遮断しろ。
あの声は、どうしてその方法を知っていたんだろう。
そして何よりなぜ今になってまた現れたのか。
最近PCの調子が悪くて何日か投稿できてない状態ですが何がともあれ投稿は続けます
(一か月以上投稿されてなかったら完全にPCが逝った時です)




