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第52話 魔法学園㉑

周りから見ればただクラスメイトと登校してるだけなんだろう。けれど自分の視界だけ昨日から少しずつ別のものが混ざり始めていた。


見えなかったものが見えるようになって、感じなかったものを感じるようになっている。


昨日までなら気づきもしなかったはずなのに、今はリオの肩の近くを漂う淡い光まで当たり前みたいに視界へ入ってくるし、頭の奥では補助干渉リンクが反応を続けている。


「どうかした?」


隣を歩いていたリオが不意にこちらを見上げる。


「いや」


短く返しながら視線を前へ戻す。


別に見ていたことを隠したかったわけじゃない。ただ説明しようとしても上手く言葉にできる気がしなかった。


リオの周りにいるその光が昨日より近くへ寄ってきていることも、そして自分の能力がそれに反応し続けていることも、全部まとめて説明しろと言われたらたぶん無理だ


「なんか昨日からずっと考え事してるよね」


リオが少しだけ笑いながら言う。


「そうか?」


「うん。なんていうか、難しい顔してる」


「してない」


「してるって」


即答だった。


しかも全然迷いがない


なんでそんなに自信満々なんだと思いながら小さく息を吐くと、リオは面白そうに笑い、その動きに合わせるみたいに肩の近くを漂う光もふわりと揺れた。


その様子を見ていると本当に感情でもあるんじゃないかと思えてくる


昨日までの自分ならそんなこと絶対考えなかっただろう。


けれど今は違う。


見えてしまっている以上、無かったことにもできなかった。


校舎はもうすぐそこまで近づいていて、昇降口の前では朝から集まっている生徒たちの声が重なり合い、まだ授業前だというのに妙に賑やかな空気が広がっていた。


「ねぇそういえばさ」


リオが思い出したように口を開く。


「ん?」


「やっぱ転移って便利だよね」


「またその話か」


「だって気になるじゃん!朝起きるの苦手な人からしたら夢みたいな能力だよ?」


「使う方は結構疲れるんだけどな」


「でも遅刻しそうになったら使うでしょ?」


「まぁ……使う」


「ほらー」


なぜか勝ち誇った顔をされた。


意味が分からない


そんなやり取りをしているうちに昇降口へ着き、上履きへ履き替えて教室へ向かう。


朝の廊下には同じように登校してきた生徒たちが行き交っていて窓から差し込む光が床へ長く伸びていた。


その中を歩いていると、前の方から聞き慣れた声が飛んでくる


「おーい!」


少し、いやだいぶ大きな声だった。


自然と視線を向ける


すると廊下の向こうでガイがこちらへ向かって手を振っていた。


「いたいた」


「朝から元気だな……」


葵が小さく呟くと、リオが吹き出す。


「それさっきも言ってたよ」


「毎朝思ってるからな」


「ひど」


そんなことを話しているうちにガイが近づいてくる。


そして開口一番、葵とリオを交互に見た。


「お前ら一緒だったのか」


「うんたまたま」


リオが即答する。


「ほんとかー?」


「ほんとほんと」


「怪しいなー」


ガイは全く信じていない顔だった


リオは笑っているし、ガイも面白がっている


その様子を見ながら葵は息を吐く


前の世界なら、こんな風に朝から誰かと話しながら学校へ来るなんて考えてもいなかった。


学校へ来て、授業を受けて、たまに中田と帰る。


それだけだったはずなのに。


いつの間にか少しだけ騒がしくなった日常は思っていたより悪くなかった気がした。


教室へ入るとすでに何人かの生徒が集まっていて、朝からあちこちで話し声が飛び交っていた。課題を見せ合っているやつもいれば、机へ突っ伏して寝ているやつもいて、久しぶりに見る学校の風景は思ったより変わっていない


葵は自分の席へ座りながら窓の外へ目を向ける


グラウンドでは運動部らしい生徒たちが走っていて、その向こうでは風に揺れる木々が見えた。


平和だな~。


そう思った瞬間


『補助干渉リンク:待機中』


頭の奥で表示が流れる


……全然平和じゃなかった。


最近は能力を使っていない時まで反応していることが増えている。昨日から特に酷い。


小さく息を吐きながら頬杖をついていると、不意に教室の扉が開いた。


「あ、先生来た」


誰かがそう呟く。


それまで賑やかだった教室も少しずつ静かになり、生徒たちが自分の席へ戻り始める。


担任は出席簿を片手に教卓へ向かうと、一度だけ教室を見回した。


「はい席つけー、ホームルーム始めるぞー」


気の抜けた声が響く。


出席確認や連絡事項が続いていく中、葵はぼんやりと前を向いていた。


昨日のことも、リオの周囲にいた光のことも、補助干渉リンクの異常に反応することも、まだ頭のどこかへ残っている。


けれど考え始めると終わらない


今は授業のことだけ考えておけばいい。


そんなことを思っているうちにホームルームは終わった。


担任は出席簿を閉じると、そのまま教室全体を見回す


「よし、それじゃ一限目は魔法練習だ。移動するから準備しとけー」


その言葉と同時に教室のあちこちから声が上がった。


「マジかー」


「今日訓練場?」


「久々じゃね?」


どうやら珍しい授業ではないらしい。


けれど葵には聞き覚えがなかった。


「魔法練習?」


小さく呟くと、前の席にいたガイが振り返る。


「あー、そういお前知らないのか」


「何それ」


「月に何回かある授業だよ。魔法の制御とか実践練習とかやるやつ」


「へぇ」


「前説明あった時、お前休んでただろ」


言われてみればそんな気もする。


ガイは椅子へ座ったまま続けた。


「能力持ちも参加するし、元素系のやつらは毎回張り切ってるな。特に火とか風のやつ」


風。


その言葉に、葵はこの前の測定結果を思い出した


確か風属性の適性だけ少し上がったり下がったりしてる表示にできた。


言霊ばかり使っていたせいで魔法なんてほとんど試したことはないが、せっかくなら少しくらい触ってみるのも悪くないかもしれなかった。


そんなことを考えているうちに、生徒たちは次々と席を立ち始める。


担任が教卓から降りながら手を振った


「ほら移動するぞー。いつまでも座ってるなー」


教室のあちこちで椅子を引く音が重なる。


ガイも立ち上がりながら背伸びをした


「めんどくせー」


「さっきまで寝そうだったのに?」


リオが笑う


「移動するのはめんどい」


「授業は?」


「もっとめんどい」


終わってるなこいつ。


葵が呆れながら立ち上がると、ガイは悪びれる様子もなく笑った。


そのまま三人で教室を出る。


廊下には同じように移動する生徒たちが集まっていて、朝の静けさはもうどこにも無かった。


階段を降りながら窓の外を見る。


校舎の向こう側には訓練場が見えていた。


普段のグラウンドより広く、周囲には簡単な結界設備まで設置されている。


「結構ちゃんとしてるんだな」


葵が小さく呟く。


するとガイが振り返った。


「まぁ魔法暴発したら危ないしな」


「そんなにあるのか」


「一年の最初とか結構あるぞ」


「へぇ」


「去年なんか火属性のやつが張り切りすぎて先生に怒られてたらしいし」


リオが思い出したように笑う。


「そんな話聞いたことある~」


話を聞きながら歩いていると、いつの間にか訓練場へ到着していた。


広い敷地の中にはすでに何人もの生徒が集まっていて、それぞれ属性ごとに分かれている。


火、水、土、風。


訓練用の的まで用意されていた。


葵はその光景を見ながら少し目を細める。


正直、言霊や転移と比べれば普通の魔法にはそこまで興味は無かった


けれど


風だけは少し気になっていた。


この前見たあの表示


そして時々変化する適性値


あれが何を意味しているのかは分からない


だが、もし何か関係があるなら


今日なら少しくらい分かるかもしれなかった

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