第51話 魔法学園⑳
小さく呟きながら、葵はベッドから降りる
制服へ着替えている間も、頭の奥では時々小さな表示が流れていた。前までは能力を使った時くらいしか出なかったはずなのに、最近は何もしなくても勝手に反応していることが多い
『集中制御:安定』
『補助干渉リンク:待機中』
「……これ完全に繋がったらどうなるんだよ」
ネクタイを整えながら小さく息を吐く
昨日からずっと妙だった。補助干渉リンクが勝手に反応するし、表示も増え続けている。しかも今までと違って、能力そのものが勝手に動き始めてる感じすらあった
すると部屋の扉が少しだけ開く
「葵ー、起きてる?」
梓紗だった
「あぁ」
「今日も学校行くの?」
「まぁな」
その返事を聞くと、梓紗は少しだけ意外そうに笑った
「昨日ので絶対疲れてると思ってた」
「自分でもそう思ってた」
実際、昨日は色々ありすぎた。久しぶりの学校だけでも神経使ったのに、その上リオの周囲にいた光やら補助干渉リンクの異常反応やら、訳の分からないことばかり起きている
けれど不思議と身体はそこまで重くない。むしろ頭の中だけ妙に整理されている感覚が続いていた
『多重処理:低稼働中』
葵は小さく息を吐きながら鞄を持つ
その時、不意に窓際で何かが揺れた気がした
「……?」
視線を向ける。けれど朝の光が差し込んでいるだけで、そこには何も無かった
『微弱干渉反応を確認』
また頭の奥で表示が流れる
「……いやもう気のせいじゃないだろこれ」
――
朝食を済ませ、葵は玄関で靴を履く
「それじゃ、いってきます」
「ん、いってらっしゃい」
リリスの声を背中に聞きながら扉を開ける
朝の空気は少しひんやりしていた。通学中の生徒たちの声が遠くから聞こえてくる
葵は鞄を肩へ掛け直し、そのまま歩き出した
けれど歩いている間も、頭の奥の感覚だけは消えない
『補助干渉リンク:待機中』
また表示が流れる
小さく眉を寄せながら空を見る
昨日からずっと妙だった。能力が勝手に反応している感覚が続いている。それに、リオのことを思い浮かべた瞬間、胸の奥が少しざわついた
あの光。向こうから見返されるみたいな感覚。最後に聞こえた、“繋がってる”って言葉。全部がまだ頭に残っている
『干渉反応:微増』
「いや増えるなって……」
思わず小さく呟いた、その時。視界の端で淡い光が揺れた気がした
「――うわっ」
反射的にそっちを見る。けれどそこには普通の通学路しか無かった
「……気のせい?」
そう呟いた直後。
『観測対象が周囲に存在します』
頭の奥で静かに表示が流れる
「……いやもう怖いんだけど」
葵は小さく顔をしかめながら周囲を見る
登校中の生徒たち。いつもの通学路。特に変わった様子はない。なのに、自分だけ何か別のものを感知している感覚が消えなかった
『補助干渉リンク:反応上昇』
また表示が増える
「だから上がるなって……」
小さく息を吐きながら歩く速度を少し速める。けれど妙な視線みたいな感覚はまだ残っていた
……無理だ。普通に歩いてるだけなのに変に緊張する。昨日からずっとこんなのばっかりだ
葵は少しだけ周囲を確認する。人はいる。けれどこのくらいなら問題ないかもしれない
「……もうアレ使うか」
小さく呟き、数秒だけ迷ったあと諦めたみたいに息を吐く
「うん、飛ぼ」
『対象転移:起動』
頭の奥で表示が流れる
次の瞬間、景色がぶれる。ふっと身体が軽くなり――
「……っと」
気づけば、校門近くの人気の少ない場所へ立っていた
朝の風が制服を揺らす
やっぱ便利だなこれ。
そんなことを考えながら顔を上げた、その時。
「……今の、転移?」
すぐ後ろから聞き覚えのある声がした
「っ」
葵が反射的に振り向く
そこに立っていたのはリオだった
「あ」
リオも少し目を丸くしている。どうやら本当に偶然だったらしい
葵は一瞬だけ固まる
……見られた?
『観測対象が接近中』
また頭の奥で表示が流れる
「えっと……」
リオは少し困ったみたいに笑う
「ごめん、見えちゃった」
「……どこから」
「ここ来たところ、かな?」
終わった。
葵は小さく顔を覆いたくなる衝動を抑える
転移を人へ見られるとか完全にミスだった。しかもよりによってリオ。今一番能力側が反応している相手だ
けれど、リオはそこまで驚いた様子でもなかった。むしろ少し楽しそうですらある
「葵ってやっぱ普通じゃなかったんだ」
「……その言い方やめろ」
「あはは、ごめんごめん」
笑いながらリオは葵の隣へ来る
その瞬間、ふわりと淡い光がリオの肩付近へ現れた
「――あ」
今度ははっきり見えた
小さな光の粒みたいな存在が、葵を見るようにゆっくり漂っている。昨日より近い。まるで普通にこっちへ興味を持ってるみたいだった
リオはそんな葵の反応を見て、少しだけ目を細める
「……やっぱり見えてるんだね」
少し嬉しそうな声だった
逆に葵は頭を抱えたくなっていた
「いやそれより、今の見られたの普通にまずいんだけど」
「転移?」
「あぁ……」
するとリオは少し考えるみたいに首を傾げる
「でも葵って、なんかそういう感じするから今更じゃない?」
「どういう感じだよ……」
「なんていうか、“普通側じゃない感”?」
「嬉しくない分類されたな……」
思わず小さく息を吐く
するとリオは楽しそうに笑った
その横では、淡い光たちもふわふわ揺れている
『干渉反応:安定』
また頭の奥で表示が流れる
……なんか慣れてきたな。
昨日までなら混乱していたはずなのに、今は不思議とそこまで嫌な感じがしなかった
「とりあえず行こ?」
リオがそう言って先に歩き出す
「あ、おい……」
葵も小さく息を吐きながら、その後を追いかけた
校門の近くは登校してきた生徒たちで少し騒がしい。朝特有の空気というか、眠そうな声と笑い声があちこちから聞こえてくる
そんな中を歩きながら、葵はちらっと横を見る
今日もリオの近くには、あの淡い光がふわふわ漂っていた。しかも昨日より距離が近い気がする。たまにこっちを見るみたいに揺れるせいで、余計落ち着かなかった
……いやもう普通にいるな。
昨日までなら絶対もっと混乱していたと思う。なのに今は、不思議とそこまで怖い感じがしない。むしろ頭の奥では、補助干渉リンクの反応が少し落ち着いているくらいだった
『認識共有:安定』
また表示が流れる
ほんと最近うるさいなこれ、あとで最小化させるようできないかな。
「そういえばさ」
リオが歩きながら振り向く
「葵ってその転移?ってどこまでいけるの?」
「いきなりだな……」
「ちょっと気になっただけ」
かなり興味津々って顔だった
葵は少し考えながら前を見る。どこまで、と言われても自分でもまだ完全には分かっていない。最近は能力そのものが勝手に変化してる感じすらある
「座標分かれば、それなりにはいけると思う」
「え、すご」
「便利だけど結構疲れるぞ」
「でも普通にかっこいいじゃん」
そう言って笑うリオの横で、淡い光たちもふわふわ揺れていた
その光景を見ながら、葵は小さく息を吐く
周りから見れば、ただクラスメイトと登校してるだけなんだろう。けれど自分の視界だけ、昨日から少しずつ別のものが混ざり始めていた




