第50話 魔法学園⑲
――
その後、夕飯と風呂を済ませた頃には外もかなり暗くなっていた
葵は自室のベッドへ倒れ込み、そのままぼんやり天井を見る
「……疲れた」
小さく呟く。けれど身体は思ったより軽かった。学校へ行った日の帰りなんて、前ならもっと神経が擦り切れていたはずなのに、今日は頭だけ妙に静かなままだった
『未確認干渉体:接続状態を維持』
また表示が流れる
……まだ残ってる、なんだろうこれ
葵は小さく眉を寄せる。昼からずっと消えない。まるで補助干渉リンクが勝手に何かを繋ぎ続けているみたいだった
『同期率:微増』
「いや、だから何の同期だよ……」
半分呆れながら呟いた、その時、ぶつりと頭の奥で何かが切り替わる感覚が走った
「――っ」
視界がわずかに揺れる
『補助干渉リンク:自動接続』
表示が浮かんだ直後、知らない感覚が一気に流れ込んできた。冷たい夜風、ページをめくる音、窓から入る少し涼しい空気。自分の感覚じゃない、けれど妙に鮮明だった
……なんだこれ。
葵は小さく息を飲む。視界の奥へぼんやり景色が映る。机、開かれたノート、窓際。そしてそこへ座っていたのはリオだった
「は……?」
リオは静かな部屋の中で本を読みながら窓の外を眺めている。その周囲では昼に見た淡い光たちが、ゆっくり漂っていた
すると、そのうちの一つがふわりと揺れる
まるでこちらへ気づいたみたいに。
『観測返答を確認』
また頭の奥で表示が流れた。同時にリオが不意に顔を上げる。誰かの視線へ気づいたみたいに真っ直ぐこちらを見る感覚が走った
真っ直ぐこちらを見る感覚が走った
「――っ」
葵の心臓がわずかに跳ねる
見えてる?
いや、違う。そもそも今のこれが何なのかも分かっていない。補助干渉リンクが勝手に繋がっているだけのはずなのに、妙に感覚が鮮明すぎた
リオは窓際で小さく首を傾げる
『感知反応を確認』
また表示が流れる
その瞬間、リオの近くを漂っていた淡い光の一つが、ふわっと画面みたいな視界の奥へ近づいてきた
「うわっ……」
思わず声が漏れる
小さい。けれど近くで見ると、人型にも見えた。輪郭がぼやけていてはっきりしないが、淡く光りながらゆっくりこちらを覗き込んでいる
『高干渉反応』
『認識共有を確認』
表示が一気に増える
……認識共有?
意味を理解する前に、その小さな光がふわりと揺れた
すると頭の奥へ、知らない感覚が微かに流れ込んでくる
驚き。
興味。
少しだけ警戒。
まるで感情みたいだった
「なんだよこれ……」
葵が小さく呟いた、その時。
リオが窓際で小さく目を細める
そして、ぽつりと呟いた
「……やっぱり繋がってるんだ」
小さな声だった
けれど、その言葉だけは妙にはっきり聞こえた気がした
葵はわずかに眉を寄せる
……気づいてる?
リオは窓際へ頬杖をつきながら、漂っている淡い光を指先で軽くつつく。すると光の方も楽しそうにふわふわ揺れた
「前まで誰にも見えてなかったのになぁ」
独り言みたいな声だった
けれど今の葵には、その空気まで妙に鮮明に伝わってくる
『接続安定率:上昇』
また表示が流れる
いやちょっと、上がるなって……。
葵は半分呆れながら額へ手を当てた
するとその瞬間、リオが不意に窓の外から視線を戻す
そして、真っ直ぐこちらを見る感覚がまた走った
「……葵?」
「っ!?」
葵の身体がびくっと揺れる
次の瞬間、ぶつりと視界が切れた
自室の天井が戻ってくる
「はぁ……っ」
思わず息を吐く
心臓の鼓動が少し速い
『補助干渉リンク:切断』
『接続ログを保存しました』
頭の奥で表示だけが静かに流れていた
「……なんだよそれ」
誰に言うでもなく呟きながら、葵はそのままベッドへ倒れ込む
静かな部屋の中でも、さっき最後に聞こえた声だけがまだ頭へ残っていた
――やっぱり繋がってるんだ。
その言葉だけが、妙に頭へ残っていた
葵はベッドへ寝転がったまま、小さく息を吐く
「……意味分かんねぇ」
本当に分からないことだらけだった
補助干渉リンクが勝手に繋がったことも、リオがまるで気づいているみたいな反応をしたことも、全部今まで無かったことばかりだ
『接続ログを保存しました』
また表示が流れる
「保存って何保存してんだよ……」
半分呆れながら呟く。けれど頭の奥は不思議なくらい静かだった。前ならこんなの混乱してまともに考えられなくなっていたはずなのに、今はどこか冷静な自分がいる
『集中制御:維持』
小さく目を閉じる
すると昼の教室がまた頭へ浮かんだ
リオの周囲を漂う光。
補助干渉リンクの反応。
向こう側から見返されるみたいな感覚。
そして最後の言葉。
“前まで誰にも見えてなかったのになぁ”
その言葉だけが妙に頭へ残っていた
するとその瞬間。
ふわり、と。
部屋の奥で、小さな光が揺れた
「――っ」
葵が勢いよく身体を起こす
そこに、昼間リオの周囲を漂っていたものと同じ淡い光が浮かんでいた
「……は?」
葵はベッドの上で固まる
光はふわふわと揺れながら、まるで部屋を観察するみたいに漂っていた
逃げる様子はない。むしろ――こっちへ近づいてくる
『未確認干渉体を確認』
『認識同期:進行中』
また頭の奥で表示が流れる
「いや待て待て……」
葵が少し引きながら声を漏らす
すると淡い光は葵の目の前まで来てぴたりと止まった
近くで見ると、小さな人影みたいにも見える。輪郭はぼやけているのに、不思議と“見られている”感覚だけははっきりあった
その瞬間。
頭の奥へ、微かな感覚が流れ込んでくる
興味。
安心。
少しだけ嬉しそうな感情。
言葉じゃない。けれど、何となく意味だけが伝わってくる感覚だった
葵はわずかに眉を寄せる
怖い、というより不思議だった
目の前にいるそれは危険な感じがしない。むしろ妙に落ち着いているというか、敵意みたいなものが全く感じられなかった
「……お前、なんなんだ」
小さく呟きながら、葵はゆっくり手を伸ばす
すると淡い光は少し嬉しそうに揺れた
触れられる――そう思った瞬間。
ふっと光が薄れる
「あ」
次の瞬間には、もう消えていた
静かな部屋だけが残る
『未確認干渉体:切断』
頭の奥で表示が流れる
葵は伸ばした手をそのまま止めたまま、小さく息を吐く
「……なんだったんだよ、ほんと」
けれど不思議と、嫌な感じは残っていなかった
むしろ少しだけ、会う気がしていた
――
翌朝
「……ん」
カーテンの隙間から差し込む光で、葵はゆっくり目を開けた
ぼんやりしたまま天井を見る。頭がまだ少し重いけれどその感覚と同時に、昨日のことが嫌でも浮かんできた
リオの周囲にいた光。補助干渉リンクの暴走みたいな接続。最後に自室へ現れた、あの小さな存在。
「……夢、じゃないよな」
半分寝ぼけたまま呟いた瞬間、頭の奥で表示が流れる
『接続ログ:保存済み』
「ですよね……」
思わず息を吐く。最近ほんと返事だけは早い。しかも昨日から自分で触ってない能力まで勝手に動き始めていた
『補助干渉リンク:待機中』
また表示が流れる
葵は小さく眉を寄せながら窓際を見る。けれど昨夜あの光が浮かんでいた場所にはもう何も無かった
静かな朝だった。なのに逆に、その静けさが昨日の出来事を妙に現実っぽく感じさせる
「……よし、さっさと学校行くか」




