第48話 魔法学園⑰
「おーいリオー!」
ガイが教室の後ろから手を上げる
窓際で本を読んでいたリオが、ゆっくり顔を上げた
「ん?」
「昼飯、一緒に食おうぜ」
リオはぱちぱちと瞬きをしたあと、少しだけ笑う
「え、なに急に」
「いいだろ別に」
「まぁいいけど~」
そう言いながら、リオは本を閉じて立ち上がる
その瞬間。
肩付近で淡い光がふわりと揺れた
葵の視線が止まる
……やっぱり何かいる。
小さな粒みたいな光がリオの周囲を静かに漂っていた
『干渉反応を確認』
また頭の奥で表示が流れる
けれど今度は前みたいな拒絶反応は起きない。ただ静かに“そこに存在している”感覚だけが残る
リオはそのまま机を寄せると、自然に葵の向かいへ座った
「葵、久しぶりだね」
「あ……うん」
少しだけ返事が遅れる
するとリオは小さく笑った
「なんかちょっとぎこちなくなってない?」
「……そう?」
葵が小さく返すと、リオは少し考えるみたいに首を傾げる
「んー……なんかちょっと前より静か?」
「元からだろ」
横からガイがパンを開けながら割り込む
「こいつ入ってきたときからこんなんじゃん」
「まぁそれはそうかも」
リオが小さく笑う
その瞬間。
ふわり、と。
また淡い光が揺れた
今度はかなり近い。リオの肩付近を漂っていた光の一つが、ゆっくり葵の方へ近づいてくる
『未確認干渉体:接近』
頭の奥で表示が流れる
……来た?
葵は無意識に息を止めた
けれど周囲は普通だった。ガイはパンを食べながら窓から外を見ているし、周囲のクラスメイトたちも昼休みの雑談を続けている
誰も気づいていない
その時だった
リオが不意に葵を見る
「……ねぇさっきからどうかした?」
「え」
「なんかずっとこっち見てるけど」
その言葉に、葵の動きが一瞬だけ止まる
「……いや」
葵は反射的に視線を逸らす
言えるわけがない。お前の周りに、なんか光ってるのが見える、なんて
『認識阻害:作動中』
また頭の奥で表示が流れる
……認識阻害?
補助干渉リンクが反応している。けれど解析しようとするとまた小さくノイズが混ざった
その間にも、淡い光はゆっくり葵の近くまで漂ってくる
近くで見ると、小さな粒というより――生き物みたいだった
ふわふわと浮きながら、こちらを観察しているような感覚がある
「葵?」
ガイの声で、葵ははっと我に返る
「ぼーっとしすぎじゃね?」
「あ……悪い」
「お前授業中からなんか変だぞ?」
その言葉に、葵は小さく息を詰まらせる
やっぱり少し、周囲にも出始めているのかもしれない
するとリオが、ふと自分の肩付近へ視線を向けた
その瞬間。
淡い光が、すっとリオの後ろへ隠れるみたいに消える
「……?」
リオ自身は見えていないみたいだった
けれど、どこか不思議そうな顔だけをしていた
そして次の瞬間。
「……あ」
リオが何かに気づいたみたいに小さく声を漏らす
「もしかして、葵って見えてる?」
「……何が」
葵が小さく聞き返すと、リオは少しだけ迷ったあと、自分の肩付近を指差した
「この子たち」
その瞬間、葵の動きが止まる
肩の近くで漂っていた淡い光が、ふわりと揺れた
やっぱり、見間違いじゃなかった
「……お前、分かってるのか」
「んー、ちゃんとは分かんないけど」
リオは苦笑しながら続ける
「なんかずっと前からいるんだよね」
「気づいたら普通にいて、たまに勝手に動くし」
あまりにも自然な口調だった
まるで、“そこにいるのが当たり前”みたいに。
ガイはそのやり取りを聞きながら首を傾げる
「……何の話してんだ?」
「んー、内緒」
リオは少し笑いながらそう返す
すると肩付近にいた淡い光が、まるで反応するみたいに小さく揺れた
『未確認干渉体との接触を確認』
また頭の奥で表示が流れる
けれど今度は、ノイズは混ざらなかった
むしろ――少しだけ、“繋がった”感覚があった
――
キーンコーン、カーンコーン――
放課後のチャイムが校舎へ響く。同時に教室の空気が一気に緩んでいった
「やっと終わったー……」
「おい早く帰ろ帰ろ」
周囲が騒がしくなる中、葵も静かに鞄を持ち上げる
結局あの後も、リオの周囲にいた淡い光は時々見えていた。けれど変に暴走することはなく、補助干渉リンクも静かなままだった
「じゃ、葵また明日な」
教室を出る前、ガイが軽く手を上げる
「……うん」
「ばいばーい」
リオも笑いながら小さく手を振る
その肩付近で、淡い光がふわりと揺れた
葵は少しだけそれを見つめたあと、教室を後にする
夕方の風が少し冷たい。校門を抜け人通りの少ない道へ出る
そのまま歩きながら、葵はぼんやり今日のことを考えていた
リオの周囲にいた光。
補助干渉リンクの反応。
異常なくらい静かな頭の中。
……なんか、一気に色々増えたな。
小さく息を吐く
その瞬間だった
ふっ、と視界が揺れる
「――え」
一瞬だけ身体が浮く感覚。空気が切り替わる
気づけば、目の前には見慣れた部屋の扉があった
「……は?」
葵の動きが止まる
家……?
さっきまで外を歩いていたはずだった。けれど今、自分は完全に家の前へ立っている
『対象転移:自動発動』
頭の奥で、小さく表示が流れた
「……自動?」
葵は小さく眉を寄せる
自分で発動した感覚はなかった。けれど身体だけが当たり前みたいに帰宅座標を選択していた
『適応能力:行動補助を確認』
また表示が流れる
……おい待て。
まるで能力側が勝手に最適化を始めているみたいだった
確かに便利ではある。歩かなくて済むし、転移精度もかなり安定している
けれど――
「いや怖いだろ普通に…しかも見られたらどうすんだよ…」
小さく呟く
もし人がいる場所で発動していたらどうなっていたのか、自分でも分からない
葵は小さく息を吐きながら扉へ手をかける
その瞬間。
「おかえりー」
部屋の奥から、聞き慣れた声が聞こえた




