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第44話 特訓編⑦

文字がゆっくり明滅していた。しかもその隣で再生進行率みたいな数値がほんの僅かに動いている。

0.2%、0.3%――ゆっくりだけど、確かに増えている


「……増えてる」


思わず漏れた声に梓紗がすぐ反応する


「え?」


「再生率みたいなのが、少しだけ上がってる……」


梓紗は無意識みたいに自分の右肩へ左手を添えた。けれど次の瞬間、表示が突然ノイズ混じりに揺れる


『警告』


『高密度干渉を検出』


「っ……!?」


葵の頭へ一瞬だけ強い痛みが走った。同時に梓紗の右肩から白い光と黒い揺らぎが一瞬だけ同時に漏れ出す


天。獄。


正反対の何かが、ぶつかるみたいに混ざっていた


リリスの表情が変わる


「……まずいわね」


低く落ちた声に、梓紗が少し肩を震わせる


「え、な、何が……」


「今天側だけじゃなく獄側まで反応しかけた」


リリスの視線が鋭くなる


「下手に刺激すると、再生より先に暴走する可能性があるわ」


その瞬間、梓紗の右肩付近で黒い揺らぎがまた小さく漏れる。さっきより濃い。空気まで重く沈むみたいな感覚があった


『――獄属性干渉率上昇』


『危険度:増加中』


表示が赤く点滅する


葵は反射的に表示へ視線を向ける。すると今度は文字が一気に増え始めた


『対象内部への接続を確認』


『天獄反応を解析中――』


『深層領域へ到達』


「っ……!?」


頭の奥へノイズが流れ込む。同時に、梓紗の右肩から黒い影みたいなものが一気に滲み出した


リリスの表情が変わる


「まずい、深く見すぎてる!」


「え……?」


「天獄は天側と獄側が一つになってる能力よ。中途半端に干渉すれば両方まとめて反応する!」


黒い揺らぎが床へ広がっていく。見ているだけで圧迫感がある。けれど次の瞬間、その中心から白い光が一気に溢れた


「っ――!?」


白が、黒を包み込むみたいに広がっていく


暴れるように滲んでいた獄側を、天側が押さえ込んでいた


梓紗が苦しそうに右肩を押さえる


「な、にこれ……っ」


白と黒が激しくぶつかり合う。そのたび空気が震えるみたいに揺れたけれど、完全に暴走しきる前に白い光がゆっくり黒を押し戻していく


『――天属性優勢』


『獄属性活動低下』


赤く点滅していた表示が少しずつ落ち着き始める


白と黒がぶつかっていた揺らぎもゆっくり静まっていった


庭へ広がっていた重い空気が少しずつ薄れていく。ざわついていた木の葉も、ようやく静かになったような気がした


梓紗は肩で息をしながら、その場へ力を抜く


「……なに今の……」


掠れた声が小さく漏れる


右肩付近には、まだ微かに白い粒みたいな光が残っていた。けれどさっきまで滲んでいた黒い影はもう見えない


リリスはしばらく梓紗を見たあと、小さく息を吐く


「少なくとも、天側がまだ優勢ってことね」


「今はそれで十分よ」


梓紗はまだ少し不安そうな顔をしていたけれど、それ以上は何も言わなかった


葵の視界に浮かんでいた表示も少しずつ薄れていく


『――補助干渉リンクを待機状態へ移行』


最後に小さく声が響く


その直後、頭の奥に残っていたノイズもゆっくり消えていった


空を見上げると、夕方の赤い光が静かに庭へ差し込んでいた


―――


庭へ流れていた重い空気も落ち着き、三人は家の中へ戻っていた


リビングには静かな空気が流れている。さっきまで外で起きていたことが嘘みたいだった


梓紗はソファへ座り込みながら、大きく息を吐く


「はぁー。今日はマジで疲れたんだけど」


「あなた、途中から半分暴走しかけてたのよ」


リリスが呆れたみたいに返すと、梓紗は「いやいや知らないし……」と小さく顔を逸らした


葵は少しだけそのやり取りを見たあと、静かに口を開く


「……リリスさん」


「何?」


「明日からまた学校行ってきてもいいですか」


その言葉に、梓紗が顔を上げる


リリスは少しだけ黙ったまま葵を見る


「身体は?」


「多分、大丈夫です」


頭の奥にはまだ少しノイズが残っている。でも動けないほどじゃない。それに、ずっと休み続けるわけにもいかなかった


しばらくして、リリスが小さく息を吐く


「……そうね」


「あなたの場合、ずっと閉じ込めておく方が逆に感覚が鈍るかもしれない」


「ただし、無理はしないこと。少しでも異常を感じたらすぐ戻ってきなさい」


葵は小さく頷く


「……はい」

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