第43話 特訓編⑥
葵は少し黙る
どう説明すればいいのか、自分でもまだ曖昧だった
けれど、今は前より少しだけ分かる気がする
「……対象転移は、多分“物そのもの”を動かしてる感じです」
葵は浮いている石を見る
「あの石だけを指定して、移動させるみたいな……」
リリスは黙って聞いている
「でも座標転移の方は違う」
言いながら図書館での感覚を思い出す
空間がズレた感覚。周囲ごと引っ張られるみたいなあの異常な感覚
「対象じゃなくて、“場所”の方を動かしてる感じがする」
梓紗が少し眉を寄せる
「場所を動かす……?」
「……うまく言えないけど」
葵は自分の手を見る
「対象転移は、一つを掴んで動かす感じで……」
「座標転移は、その周囲ごとズレる感じっていうか……」
リリスの目がわずかに細くなる
「……なるほどね」
小さく呟く
「対象を指定して移動させる力と、空間側へ干渉する力……」
「今までの反応がおかしかった理由、少し分かった気がするわ」
梓紗はまだ少し難しそうな顔をしている
「……つまりヤバいってこと?」
「簡単に言えばそうね」
リリスがそう返すと、梓紗は「うわぁ……」と少し引いた顔で葵を見る。
なんだかもう普通の能力じゃなくなってきている気がして、葵自身も小さく視線を落とした
実際、前みたいに“物を動かす”だけでは済まなくなってきている感覚がある。多重処理、集中制御、補助干渉リンク。
増えていくスキルも、まるで今の能力へ合わせるみたいに変化していた
その時、また頭の奥で声が響く
『――適応能力を確認』
『現在の環境へ最適化を継続します』
葵の動きがわずかに止まる。梓紗はすぐそれに気づいた
「……また?」
「……ああ」
「今度は何て?」
葵は少し迷ったあと、小さく息を吐く
「適応能力が、環境への最適化を続けるって」
梓紗が少し眉を寄せる
「最適化って……なんか進化してるみたいじゃん」
「……分からない」
葵は小さく視線を落とす
でも実際、変わってきている感覚はあった。前まで出来なかったことが増えて、頭の中へ流れ込んでくる情報もどんどん増えている
その時だった
視界の端で、半透明の表示がわずかに揺れる
『――周辺対象を認識』
葵の動きが止まる
表示が、ゆっくり梓紗の方へ重なっていく
【対象認識】
梓紗
『解析中――』
「……?」
梓紗が不思議そうに首を傾げる
次の瞬間、表示が変化した
【特殊反応検出】
・天属性干渉
・獄属性干渉
葵がわずかに目を見開く
さらに、その下へ文字が追加される
【状態】
右腕欠損
『天属性による再生反応を確認』
「……え」
思わず声が漏れる
梓紗がすぐ反応する
「な、何!?」
葵は表示から目を離せなかった
右腕。
そこへ、微かだけど何かが集まり続けている感覚が見える
まるで、失った部分を少しずつ戻そうとしているみたいに
『――天属性干渉を継続確認』
『再生進行率:極低』
「……再生?」
葵が小さく呟くと、梓紗の表情が止まる
「……え?」
リリスの目がわずかに細くなる
「何が見えてるの」
葵は少し迷ったあと、ゆっくり口を開く
「梓紗の右腕……今も、何かが再生しようとしてる」
空気が止まる
梓紗が反射的に自分の右肩の先を見る。そこには当然何もない、けれど次の瞬間
断面付近で白い粒みたいな光がほんの一瞬だけ揺れた
「っ……!?」
梓紗が目を見開く
リリスもすぐ反応する
「今のやっぱり、ちゃんと天獄の能力があったのね」
梓紗がそっちを見る
「え、ちょっと待って見えてたの?」
「微かにね」
リリスは梓紗の右肩を見る
「今までずっと内側で循環してた感じだったけど、今ので少し表へ漏れたって感じかしら」
「葵の補助干渉リンクに反応したのかもしれないわね」
葵はまだ表示を見ている
『天属性干渉:活性化』
文字が、ゆっくり明滅していた




