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第42話 特訓編⑤

その時だった


浮いていた石がわずかに揺れる


「……っ」


意識が逸れた瞬間、止まっていたはずの石がまた少しだけ回転し始める。同時に広がりかけていた感覚が周囲へ滲み、落ち葉と砂が微かに揺れた


梓紗がすぐ気づく


「え、また……!」


リリスが小さく目を細める


「……無理に全部押さえ込もうとしてるわね」


葵がわずかに視線を上げる


「複数を維持しながら、同時に暴走まで止めようとしてる」


「今のままだと、意識を使いすぎてまた崩れるわよ」


葵は小さく息を吐く


確かに、さっきから全部を同時に維持しようとしていた。複数を認識して、動きを把握して、さらに広がらないよう抑え込む。頭の奥が焼けるみたいに熱いのも多分そのせいだった


『――負荷率上昇を確認』


『推奨:処理数の制限』


また声が響く


葵は浮いている石を見る。全部を同時に見ようとした瞬間、また感覚が広がりかける


……違う


今必要なのは、一つだけだ


葵はゆっくり息を整えて止まっている石だけを見る。周囲の揺れも落ち葉も一度意識から外す


その瞬間、頭の中のノイズが少しだけ静かになった


『――集中制御安定化』


浮いていた石の動きが、ゆっくり安定していく


梓紗が少し目を丸くする


「……あれ、さっきより静かかも」


葵は止まっている石を見る


さっきまで暴れていた感覚が少しずつ静かになっていく。全部を同時に見ようとした時より頭の負荷も軽い


『――負荷軽減を確認』


『対象固定を維持します』


頭の奥で響く声も、どこか落ち着いていた


リリスがその様子を見る


「……感覚は?」


「さっきよりは、だいぶ……」


梓紗が浮いている石を見たまま、小さく首を傾げる


「……ていうかさ」


「今の葵って、結局どこまで出来るの?」


葵がそっちを見る


「どこまでって……」


「いや、前は物を移動させる感じだったじゃん」


梓紗は浮いている石を見る


「でも今って、止めたり浮かせたり、複数同時に動かしたりしてるし……」


「なんか前と感覚違くない?」


葵は少し黙る


確かに、自分でも変わってきている感覚はあった


最初はもっと単純だったはずだ。動かす対象を決めて、それを移動させる。それだけだった


けれど今は違う。


止める。


動かす。


戻す。


複数へ同時に干渉する。


前よりできることが増えている感覚がある


リリスはそんな葵を見ながら口を開く


「……言霊が馴染み始めてるのかもしれないわね」


リリスがそう呟いた瞬間だった


頭の奥で、小さくノイズが走る


『――補助干渉リンクを確認』


『試験運用終了』


葵の動きが止まる


次の瞬間、今までよりもはっきりした声が頭の奥へ響いた


『補助干渉リンクを正式機能へ再構築します』


『継続接続を開始』


「……っ」


視界の端へ、半透明の文字が浮かび上がる


【再配置完了】


・補助干渉リンク(正式版)


【追加機能】


・認識補助

・負荷分散

・暴走予測

・対象優先整理


葵がわずかに目を見開く


前に見えた時とは違う。


今度は一瞬じゃない。消えない


常に頭の奥へ繋がっている感覚があった


「……え?」


梓紗が急に声を漏らす


「ちょ、待って、それ何!?」


葵がそっちを見る


梓紗は葵の目の前あたりを指差している


「なんか出てる! 文字!」


リリスも少しだけ目を細める


「……見えてるの?」


梓紗がすぐ頷く


「見えてますよ!? なんか“正式版”とか出てるんですけど!」


その瞬間、視界の文字がまた切り替わる


【ステータス】


名前:水瀬 葵

レベル:-99


筋力:C

敏捷:B

耐久:D

魔力:A


空間適性:S


【スキル】


・座標転移 Lv.1

・対象転移 Lv.1

多重処理マルチプロセス Lv.1

集中制御フォーカス Lv.1

適応能力アダプト Lv.1

・補助干渉リンク(正式版)


梓紗が完全に固まる


「うわっ、ほんとにゲーム画面だ……!?」


さらに文字が追加される


【隠しステータス】


・空間干渉率:異常値

・認識干渉:有効

・???


「いや待って、“???”って何!?」


梓紗が勢いよく葵を見る


けれど葵自身も分かっていなかった


ただ一つだけ。前に見えた時より、表示が増えている


その中でも、新しく表示されているスキルへ視線が止まる


適応能力アダプト


前に、一度だけ頭の中へ流れた名前だった


『スキル取得:適応能力アダプト


確かに聞こえたはずなのに、その時は意味が分からなかった


けれど今は違う


多重処理。


集中制御。


補助干渉リンク。


増えていく力に合わせるみたいに、自分自身の認識や処理まで変化している感覚がある


『――適応能力を確認』


『現在環境への最適化を開始します』


リリスはその表示を静かに見ていた


けれど次の瞬間、わずかに目を細める


「……-99?」


梓紗がそっちを見る


「え?」


「…なるほど、じゃああの時は-100だったんでしょう?」


リリスの視線がレベル表示へ向く


「一つ上がってるわね」


葵も改めてその数字を見る


確かに、前に見えた時は-100だった


けれど今は違う


-99。


普通ならたった一つ。けれど今の葵には、その“1”だけ妙に重く感じられた


そのままリリスの視線が、下のスキル欄へ移る


「……それと座標転移と対象転移」


小さく読み上げる


「その二つ、少し説明してくれるかしら」


葵がわずかに視線を上げる


「説明って……」


「どう違うのかよ」


リリスは浮いている石を見る


「今までの反応を見る限り、完全に別系統の干渉になってる、私でも見たことがないわ」

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