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第41話 特訓編④

「……なるほどね」


その瞬間だった


庭の空気がざわつく


風もないのに落ち葉が舞い上がる。


砂が揺れ、小石が細かく震え始めた


梓紗がすぐ辺りを見回す


「え、なにこれ……」


さっきまで静かだった感覚へ、急に別のノイズが混ざり始める


葵がわずかに眉を寄せる


集中しかけていた感覚が、また広がりそうになる


リリスは普通に立ったまま葵を見る


「今、わざと感覚を乱してるの」


落ち葉がまた不自然に軌道を変える


「今の葵、少し集中が崩れるだけですぐ範囲が広がるでしょ」


「だからそれに引っ張られないように慣れなさい」


葵は小さく息を吐く


ざわつく空気、揺れる落ち葉、耳の奥へ流れ込んでくるみたいな感覚。少し気を抜くだけで

また周囲まで反応しそうになる


――対象を見失うな


頭の奥で、あの声が響く


葵の視線が止まる。揺れている小石、今度はそれだけを見る


「……止まれ」


小石が空中で止まる。けれど次の瞬間――庭全体がビリッと震えた


「っ――!?」


止まっていたはずの小石が、突然あり得ない速度で横へ吹き飛ぶ。地面へ叩きつけられた瞬間、石畳へヒビが走った


梓紗が反射的に後ろへ下がる


「え、ちょ、今の何!?」


葵自身も固まっていた、今自分は“止まれ”としか言っていない。なのに途中から別の何かが混ざった感覚があった


リリスの表情が少しだけ変わる


「……命令が途中で変質したわね」


葵がゆっくり自分の手を見る。すると、地面へ落ちた石がひとりでに浮き上がった


「……え」


誰も触れていない。命令もしていない。それなのに石は空中で静かに震えていた


『――認識拡張を確認』


頭の奥で、また声が響く


『多重処理との接続を開始します』


その瞬間。


浮いていた石が、もう一つ増える


「……っ!?」


葵は反射的にそっちを見る


違う。


自分で動かした感覚がない。


なのに、別の石まで勝手に浮いていた


しかも今度は止まらない。


一つ目の石は空中で静止したまま、二つ目はゆっくり回転を始める


別々だった。


頭の中で、感覚だけが無理やり分けられていく


『――処理分割を確認』


『対象認識を並列化します』


「な、何か増えてません!?」


梓紗が完全に引き気味で後ろを見る


浮いている石が、また一つ増えた


今度は地面を滑るように移動し始める


リリスの目がわずかに細くなる


「……無意識で複数処理を始めてる…のかしら」


葵は息を飲む


視界の中へ、それぞれ別の感覚が流れ込んでくる。


止まっている石。


回転している石。


滑っている石。


全部違う。


なのに同時に理解できてしまう


頭の奥が熱い


『――多重処理適合率上昇』


葵の呼吸がわずかに乱れる


頭の中へ一気に情報が流れ込んでくる


『――警告』


『多重処理負荷が限界値へ接近しています』


止まっている石。


回転している石。


滑っている石。


全部違う動きなのに、同時に認識できてしまう


「……っ、くそ……」


葵が小さく額を押さえる


慣れていない。


脳が無理やり広げられていくみたいだった


その瞬間、滑っていた石が急加速する


地面を削りながら一直線に飛ぶ


「危な――」


梓紗が言い切る前に、石が途中で停止した


ピタッと。


空中で完全に止まった


庭が一瞬静かになる


リリスの目がわずかに開く


「……今、自分で止めたの?」


葵は荒くなりかけた呼吸を押さえながら、小さく頷く


「……勝手に動いたから、反射で……」


言いながらも頭の奥はまだ熱い。


複数の感覚が同時に流れ込み続けている


『――負荷上昇を確認』


『処理領域を再分配します』


「っ……」


次の瞬間、浮いていた石全部が同時に揺れた


一つは上へ。


一つは横へ。


一つはその場で高速回転を始める


梓紗が完全に引き気味で後ろへ下がる


「いや待って待って、増えてない!?」


「葵、切りなさい」


リリスの声が飛ぶ


「全部処理しようとしない、今のままだと飲まれるわよ」


葵は息を飲む


けれど頭の中では逆だった。


全部の位置が分かる。


全部同時に見える。


だから逆に、“切り方”が分からない


『――並列認識拡張中』


『対象数増加を確認』


浮いていた石が、また一つ増えた


「っ……」


葵の視界が揺れる


全部見える。全部分かる。


なのに処理が追いつかない。頭の奥で感覚が暴れ始める


その瞬間だった


カチッ。


また、何かが噛み合う音がした


『――集中制御を起動』


頭の中へ静かな感覚が流れ込んでくる


さっきまで暴れていた複数の認識が、無理やり整理されていくみたいだった


『不要対象を切り離します』


『優先対象を再設定』


浮いていた石のうち、三つが同時に地面へ落ちる


残ったのは最初の一つだけだった


葵の呼吸が一気に戻る


「……はぁっ」


梓紗が目を見開く


「え、急に止まった……?」


リリスはそんな葵を見ながら、わずかに目を細める


「……こりゃたまげた。」


頭の奥では、さっきまで暴れていた感覚がまだ残っている


多重処理。


複数を同時に認識して別々に動かす感覚。あれ自体は強い。けれど増えれば増えるほど制御が追いつかなくなる


そこへ割り込むみたいにさっきの静かな感覚が入ってきた


集中制御。


余計な対象を切って、必要なものだけを残す感覚。


……俺が考えるにはそうだと思う。


多重処理だけならさっきみたいに全部へ広がる。逆に集中制御だけでも、そもそも複数を扱えない


二つが噛み合って初めて成立している。どっちか片方だけなら、多分また暴走する


葵は浮いたままの石を見る


今は制御できている。けれど少しでも集中が崩れれば、またさっきみたいに広がる気がした。

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