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第40話 特訓編③

リリスはそう言いながら地面の石を一つ拾う


「葵」


軽く上へ放る


「今からあんたを少し揺さぶるから、反応した瞬間を自分で掴みなさい」


「……揺さぶる?」


次の瞬間、石がものすごい速度で飛んできた


葵が反射的に身を引く


「――止まれ」


石が目の前で止まる


けれど同時に、周りの落ち葉まで空中で静止する


木の枝が揺れを止め、足元の砂まで不自然に固まった


梓紗が少し引く


「うわ、また広がってる……」


リリスは止まった石を見る


「自分が“焦った”って分かった?」


葵は止まった石を見る


目の前で止めたつもりだったけれど気づけば周りまで巻き込んでいる


「……いや」


「止める方に意識がいってました」


「でしょうね」


リリスは普通に頷く


「今のあんた、反応した後のことしか見えてないのよ」


そのまま落ち葉を見る


まだ数枚、空中で止まったままだった


リリスが指を鳴らすと、それが一斉に落ちる


乾いた音を立てながら、止まっていた落ち葉が地面へ戻っていく


梓紗が目を丸くする


「え、今なにしたんですか」


落ちた葉を見ながら少し身を乗り出す


「すっご……」


リリスは特に気にした様子もなく石を持ち直す


「ただ切っただけよ」


「切った?」


「残ってた妖気との繋がりをね」


梓紗はまだよく分かっていない顔のまま落ち葉を見る


「いや意味分かんないんですけど……なんでそんな普通にできるんですか」


リリスは落ちた葉を見ながら軽く肩をすくめる


「慣れよ、こんなの」


「いや絶対“こんなの”じゃないでしょ……」


梓紗がまだ半分引いた顔で言う


その横で、葵はさっきの感覚を思い返していた


石が飛んできた瞬間。


止めようと思った瞬間。


その前に、一瞬だけ胸の奥が強く跳ねた感じがあった。


リリスがそれを見る


「今、何か分かった?」


葵は少し考える


「……怖いって思ったのは、分かりました」


「それで十分」


「まずはそこからよ」


そのままもう一度石を軽く放る


「次は“焦る前”に止めなさい」


リリスが石を軽く放る


さっきより遅い、それでも葵は無意識に肩へ力が入るのを感じた


止めないと、そう思った瞬間――


――ちゃんと対象を見ろ


頭の奥で声が響く


その瞬間、不思議なくらい周りの感覚が静かになる


揺れていた意識が、一つだけに絞られていく


飛んでくる石、それだけが妙にはっきり見えた


「止まれ」


石が空中で止まる


今度は周りが反応しない、落ち葉も枝も砂も動いていなかった


梓紗がすぐ辺りを見回す


「あれ……今、広がってない?」


リリスの目がわずかに細くなる、止まった石を見たまま静かに葵へ視線を向けた


その瞬間だった


頭の奥で、何かが噛み合う感覚が走る


カチッ。


さっきまで混ざっていた感覚が、不自然なくらい静かになる


飛んでいる石だけが、妙にはっきり見えた


──『集中制御:初期段階 解放』


──『新たなスキルを取得しました 集中制御フォーカス


頭の奥で、あの声が続く


『多重処理によって拡散していた認識を補正』


『対象への干渉精度を向上』


『不要な誤干渉を軽減します』


葵は小さく目を見開く


今まで周囲全部へ広がっていた感覚が、一気に静かになっていく


無理やり一つへ絞られていくみたいだった


「……え」


思わず声が漏れる


梓紗がすぐそっちを見る


「どうしたの?」


「いや、なんか……」


言いかけた瞬間、止まっていた石がわずかに震える


けれど今度は周りが反応しない


落ち葉も、枝も、砂も動いていなかった


リリスがそれを見る


さっきとの違いを確認するみたいに目を細める


「……なるほどね」

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