第4話 気づかれはじめる違和感
次の日の朝、昨日のことが頭から離れなかった
帰り道で石が動いたこと、あの意味の分からないやつの言葉――言霊
ポケットに手を入れると、もう石は入っていないのにあの感触だけが残っている気がする
本当にあったことなのか、夢みたいで、でもはっきり覚えている
使えば現実が変わるなんておかしいに決まってる
でも実際に起きた、俺はあれを使った
小さく息を吐きながら気づけば教室の前に立っていた
ドアに手をかけて一瞬迷う、昨日と同じ場所、同じ空気
でも確実に違うのは――俺だ
ガラッとドアを開けると教室はいつも通りだった
笑い声、雑談、椅子の音、何も変わっていないのに全部が少しだけ遠く感じる
席に座ると無意識に手を握っていた
「おーい、水瀬」
声に肩が揺れる、中田がこっちを見ている
「昨日さ、なんか変じゃなかった?」
一瞬呼吸が止まる
「いや、なんつーかぼーっとしてたっていうか」
探るような視線、気づかれているのかと思うがそこまでじゃない
「別に」
短く返すと中田は少し首をかしげながらも前を向いた
「まぁいいや、てか今日も英語だぞ」
まじで?
チャイムが鳴り空気が変わる、先生が入ってくる
昨日と同じ顔、一瞬だけ目が合った気がしてすぐに逸らす
気味が悪い。
授業が始まり英語の長文が順番に当てられていく
一人、また一人、ページをめくる音だけが静かに響く
嫌な流れだ、そして――
「はいじゃあ次、水瀬」
名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねた
「121ページの下から四行目読め」
無理だ、分かってる
でも声が出ない、喉が閉じ視線が集まる、昨日と同じだ
逃げたい、でも逃げられない
「どうしたー?昨日もだったよなぁお前」
空気がざわつき小さな笑い声が刺さる
やめろ、もういいだろ
頭の奥がじわっと熱くなる、ダメだ使うな
そう思うのに止まらない
――黙れ。
一瞬、先生の動きが止まる、空気が固まる
まただ、でも今回は違う、分かっててやった
視線を落とす、怖い、こんなの普通じゃない
「……なんだ、今の」
先生が小さく呟く
一瞬の沈黙
でもすぐに何事もなかったように教科書へ目を戻した
「……続き、中田」
その一言で止まっていた時間が動き出す
クラスの空気も元に戻る
誰も何も言わない
ページをめくる音、誰かが小さく読む声
全部いつも通りに戻っていく
……俺以外は
心臓の音だけがうるさい
さっきの一瞬、確実に何かがおかしかった
でも誰も気づいていない
いや、気づいてないフリをしているだけかもしれない
そのまま授業は続き――
やがてチャイムが鳴る
授業が終わる
一気に教室が騒がしくなる、さっきまでの空気が崩れていく
誰も気にしていない、俺以外は
ノートも開いたまま、ペンも握ったまま動けない
やってしまった、完全に自分の意思で
視線を上げても誰も違和感を口にしない
本当に俺だけなのか
「なー、水瀬」
顔を上げると中田が立っていた
「ちょっといいか?」
軽い口調なのにどこか違う
「……なに?」
中田は周りを見てから声を落とす
「さっきの先生なんか変じゃなかったか?」
心臓が跳ねる、やっぱり来た
「別に」
すぐに返す、間を空けない
「一瞬止まったっていうかさ」
気づいてる、でも全部じゃない
「気のせいだろ」
できるだけ普通に言う
中田は少し黙ってから息を吐いた
「まぁいいけど」
そう言いながらも納得していない顔だった
助かった、いや本当にそうか?
あの目、疑いが残っている
じわじわ近づいてくる感じ、まずい
――キーンコーンカーンコーン
次の授業までの休み時間
周りが一斉に動き出す
「ほら行くぞ」
中田の声
立ち上がる、足が少し重い
廊下に出ると空気が少し冷たい
それでも胸のざわつきは消えない
「なぁ水瀬」
振り向くと中田が立ち止まっていた
「さっきのことだけどさ」
やっぱり来る
逃げたい、でも逃げられない
「……なに」
中田は少し考えてから口を開く
「ねぇお前さ、やっぱなんか隠してね?」
心臓が強く跳ねる
直球すぎる
「別に」
短く返す
でも自分でも分かる、不自然だ
中田はじっとこっちを見る
「まぁいいけどさ」
そう言って歩き出す
でも終わってない
分かる
これは終わってない
「放課後さ」
中田が続ける
「どっか寄ってかね?」
さっきの続きだ
断るか?
いや、それは逆に怪しい
「……いいけど」
少し間を置いて答える
中田は「おう」とだけ言った
それ以上は何も言わない
でもその沈黙が重い
話す気はある、ただ場所を変えるだけだ
……逃げ場がない




