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第38話 特訓編①

梓紗が少し困ったように笑う


「……じゃあ学校はいったん休みですね」


リリスは普通に頷く


「その腕で行く気だったの?」


「あ……いや……」


梓紗が言葉を止める


リリスが椅子に座り直す


「それと」


視線が二人へ向く


「そのあとどうするつもり?」


葵が少し眉を寄せる


「……そのあと?」


「言霊も天獄も、そのまま放置して普通に生きられるものじゃないって話」


静かな声で続ける


「力を隠して生きるのか、使うのか、それとも別の何かになるのか、先に決めておいた方がいいわよ」


少しだけ考えるように視線を落として、葵が口を開く


「……俺は、まだ隠してた方がいいと思ってます」


リリスはすぐに頷く


「そうね、その方がいいわ」


「特にあんたの言霊は危険すぎる」


葵は何も返さない


リリスが続ける


「下手に知られれば、面倒なのが寄ってくるもの」


そのまま視線を梓紗へ向ける


「じゃあ、梓紗はどうするの?」


突然振られて少し肩が跳ねる


「え、私ですか?」


「他に誰がいるのよ」


梓紗は少し考えるように視線を逸らして、それから小さく笑う


「……私は、葵と同じような感じがいいかなーって」


葵がそっちを見る


梓紗は少しだけ困ったように笑ったまま続ける


「まだよく分かってないですし、急に戦うとか言われても無理ですし……」


「まあ、妥当ね」


リリスが椅子にもたれ直す


「少なくとも今のあんたたちじゃ、外に出すには不安すぎるし」


リリスが椅子にもたれたまま二人を見る


「じゃあ決まりね」


コップを机に置く音が小さく響く


「しばらくはここで制御を覚えなさい」


梓紗が少し首を傾げる


「制御って、何するんですか?」


「色々よ」


リリスはあっさり返す


「言霊を暴発させない方法、天獄を安定させる方法、あと実戦」


「実戦……」


葵が小さく繰り返す


「モンスターくらい相手にできなきゃ話にならないでしょ」


梓紗が少し顔を引きつらせる


「いや、昨日のでだいぶ死にかけたんですけど……」


「だから練習するのよ」


「次も運良く助かるとは限らないんだから」


部屋が少し静かになる


その空気のまま、リリスがふと葵を見る


「まずはあんたね」


「……俺ですか」


「無意識で物飛ばすの、先にどうにかしなさい」


そう言った瞬間、机の上のスプーンがカタッと揺れる


梓紗がすぐそっちを見る


「うわ、また動いた……」


リリスが小さく笑う


「ほらね」


リリスがそう言う横で、スプーンがもう一度小さく揺れる

今度は机の端まで滑って、落ちる直前で止まる


梓紗が反射的に身を引く


「いや止まってるの逆に怖いんですけど……」


「葵が無意識に止めてるのよ」


リリスは普通に言いながらスプーンを指で戻す


「感情と妖気がそのまま言霊に変わってる状態ね、今のあんた」


葵は机を見る


「……制御できるようになるんですか」


「ならなかったら困るわ」


即答だった


「今は漏れてるだけで済んでるけど、そのうち範囲が広がれば周りごと巻き込むわよ」


梓紗が葵を見る


「……なんか思ってたより危ないんだね」


「危ないわよ」


「だからまずは小さいところから慣らすの、物を動かす、止める、意識して切る、それができるまでは実戦は禁止」


「え、モンスターと戦うんじゃなかったんですか?」


「基礎もできてないのに突っ込ませるほど馬鹿じゃないわ」


梓紗が少しだけ黙る


ふと、転生する前の図書館を思い出した。


あの時も、最初は一つだけだった。


葵は対象転移を試していて、ちゃんと移動させるものを決めていたはずなのに、途中から違うものまで反応し始めていた。


棚の位置がズレて、床まで揺れて、感覚だけがどんどん広がっていくみたいに。


葵自身も止めようとしていたのに、全然止まっていなかった。


今のこれも、少し似ている気がする。


梓紗は机の上のスプーンを見る。


まだ微かに揺れていた。


「……ですよね」


リリスが椅子から立ち上がる


「今日はまず、庭に出るわよ」

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