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第36話 魔法学園⑫

朝の光が部屋に入る、葵が目を開けてゆっくり体を起こすと、向こうでリリスが先に気づいて軽く手を振る


「葵、おはよ」


「……おはようございます」


まだ少し重い頭のまま辺りを見回す、そこでふと昨日のことを思い出したように視線が動く


「……あの、梓紗って」


「あの子なら後ろ」


「……え」


反射みたいに振り向くと、すぐ後ろの壁際に梓紗が座っていて、目が合った瞬間に葵の肩が跳ねる


「うわっ……びっくりした、なんでそんなところにいるんだよ……死ぬかと思った……」


「いや、起こすの悪いかなって……」


梓紗が少しだけ気まずそうに笑う、その様子を見ていたリリスが小さく吹き出す


「あんた馬鹿ね」


そのまま視線を右腕へ落とす、昨日より血色は戻っているが、なくなった先までは当然戻らない


「けど、腕は期待しないほうがいいわよ、体もまだ戻ってないでしょうし」


「あ、あはは……いや、私はもう大丈夫ですから」


「ふーん、根気強いわね」


リリスが椅子にもたれたまま二人を見る


「さて、話すことがあるから座りなさい」


「まずは梓紗ちゃん」


リリスが椅子にもたれたまま視線を向ける


「悪いけど、勝手にステータス見せてもらったわ」


梓紗の肩が少し跳ねる


「え……」


「それでちょっと気になったんだけど、魔法とか鑑定された時に他に何か言われなかったかしら」


「い、いえ……別に何も……」


リリスは数秒だけ梓紗を見る


「そう」


小さく息を吐く


「まだ自覚はないのね」


葵が少し眉を寄せる


「……何の話ですか」


リリスが今度はそっちを見る


「じゃあ次、葵」


指先を軽く組む


「もし梓紗が、“天獄”の力を使えるとしたら?」


「……天獄?」


葵が聞き返す


リリスが椅子にもたれたまま、小さく目を細める


「天使と悪魔、その両方の性質を持った力のことよ」


梓紗が困ったように葵を見る


「いや、ほんとに何も知らないんだけど……」


「でしょうね」


リリスはあっさり返す


「本来なら混ざらないものだし本来、人に付く能力じゃない」


葵が少しだけ眉を寄せる


「……そんなの、あるんですか」


「あるから聞いてるの」


リリスはそこで一度、梓紗の右腕を見る


失った先を見るみたいに、数秒だけ視線が止まる


「普通の人間なら、あそこまで綺麗に再生の気配なんて残らないわ」


梓紗が反射みたいに右肩を押さえる


「再生って……」


「まだ出てないだけ」


リリスが静かに続ける


「たぶんそのうち、生えてくるわよ」


部屋が止まる


葵が先に反応する


「……へ?」


梓紗も固まったまま動かない


リリスだけが変わらない


「ただし、元通りになるとは限らないけどね」



梓紗が右肩を押さえたまま固まる


「……え、ちょっと」


服の下がわずかに熱を持つ


葵が気づく


「梓紗?」


次の瞬間、右肩の断面に白い光みたいなものが走る


細く、脈みたいに揺れる


梓紗が息を呑む


「な、なにこれ……」


リリスだけが動かない


「反応したわね」


光が一瞬だけ歪む


今度は黒い線が混ざる


白と黒が右肩の奥でぶつかるように揺れている


「……ほんと、とんでもないもの拾ったわね」


梓紗が右肩を押さえたまま息を呑む


白い光が脈みたいに揺れて、その奥に黒い線が混ざる


不安定に形を変えながら、少ししてゆっくり消えていく


部屋が静かになる


梓紗が戸惑ったまま右肩を見る


「……なに、これ」


リリスは腕を組む


「たぶん、昨日のがきっかけね」


視線を右肩へ向けたまま続ける


「死にかけたことで能力が活性化したのかもしれないわ」


葵がまだ光の消えた場所を見ている


「……そんなこと、あるんですか」


「知らない」


リリスはあっさり返す


「そもそも天獄なんて滅多に存在しないもの」


「私も専門じゃないし、詳しく知ってるわけでもないわ」


小さく肩をすくめる


「だから正直、どうなるかは誰にも分からないわね」


梓紗はまだ右肩を押さえたまま、少し落ち着かない様子で視線を動かす


そこでふと思い出したように葵を見る


「……そういえば、葵はあの教室のあとから“言霊”ってどうなってるんですか?」


空気が止まる


リリスの視線がゆっくり梓紗へ向く


「……なんで言霊のことを知ってるの?」


梓紗が一瞬だけ固まる


「あ……」


葵も少しだけ目を動かす


リリスが目を細める


「普通の人間は、その名前すら知らないはずだけど」

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