第34話 魔法学園⑩
扉を開ける、足音そのままで中に入る
リリスが顔を上げる、視線が一瞬で状況を捉える
「……は?」
わずかに眉を寄せる
葵は何も言わない、そのまま支えたまま立っている
床に血が落ちる
短い間
リリスが小さく息を吐く
「……全く、どうしようもない子ね」
ほんの少しだけ“子”に引っかけるように言う
そのまま近づく
「はぁ……誰だか知らないけど手当てするから、こっちに来なさい」
葵は頷く、そのまま中へ進む
梓紗の体を支えたまま、言われた場所まで運ぶ
「……動かさないで」
低く言われて止まる
リリスが手をかざす
空気がわずかに変わる
「ほんと、無茶するわね」
小さく呟く
指先がわずかに動くと、血の流れがゆっくりと止まっていく
完全ではない
でも崩れは止まる
リリスが一瞬だけ目を細める
「……右腕、ね」
淡々と落とす
葵は何も言わない
ただ見ている
少し間
リリスが手を離す
「とりあえず死なない」
それだけ言う
「……助かる?」
葵が聞く
リリスがちらっとだけ見る
「さあね」
あっさり返す
「運がよければ、ってとこ」
短い沈黙
リリスが背を向ける
「そこに寝かせなさい」
静かに言う
葵はそのまま従う
部屋に静けさが戻る
葵が梓紗を寝かせる
血の匂いだけが少し残る
リリスが手を拭きながら、ちらっとだけ振り返る
「で?」
短く落とす
少しだけ間
「何があったわけ?」
葵は少しだけ視線を落とす
「……ダンジョンで」
リリスが眉を寄せる
「見れば分かるわよ」
ため息混じりに返す
「……不意打ち」
短く続ける
「防げなかった?」
「……一瞬遅れた」
リリスが小さく息を吐く
「そうまだまだね」
少しだけ沈黙が落ちる
リリスが横目で見る
「で、その子は?」
顎で梓紗を指す
「……知り合いです」
短く返す
「ふうん」
興味は薄い
でも完全に無関心でもない
「拾ってきたわけじゃないのね」
軽く言う
葵は何も言わない
リリスが肩をすくめる
「まあいいわ」
少しだけ間
視線を外して言う
「死なせないようにはしてあげる」
「ちょっと気になる物を持ってるからね」
葵が少しだけ視線を上げる、すぐに外さずそのまま見る
「……何か持ってるんですか?」
リリスは一瞬だけ目を細めるが、そのまま手を動かし続ける
「どうかしらね、見えてる分だけで判断しなさい」
空気が少しだけ張る中で言葉はそれ以上続かない、葵もそれ以上は聞かず視線を戻す
血の流れがゆっくり落ち着いていく中、わずかに呼吸が変わる
葵が視線を上げる
指先が、ほんの少しだけ動く
まぶたが震える
開ききらないまま、細く揺れる
「……」
声にならない音が落ちる
葵が少しだけ身を寄せる
「……聞こえてますか」
反応がかすかに返る
視線が合わないまま、揺れる
リリスの手が止まる
「まだ起こさせないほうがいいわよ」
葵はそれ以上動かない
まぶたがまた落ちる
呼吸だけが残る
明かりが落ちていく中で、リリスが一度だけ手を止める
「……葵、水取ってきてくれるかしら」
短く言う
だが葵は動かない
視線もそのまま
少し間
台所の方で、小さく音がする
コップがひとつ、わずかに揺れる
棚から滑るように出て、そのまま空中で止まる
蛇口がひねられる
水の音だけが静かに続く
満ちると同時に止まる
そのまま、ゆっくりとこちらへ来る
リリスの前で止まる
葵は何も見ていない
動いていない
リリスがそれを見る
ほんのわずか、目が止まる
「……」
一瞬だけ間
そのまま手を伸ばして受け取る
一口だけ飲む
視線を外さないまま、もう一度だけ葵を見る
「……へえ」
小さく落とす
リリスは視線を外さないままコップに触れる、中の水面がわずかに揺れるが、そのまま静かに置く
葵は動かない、さっきと同じ姿勢のまま梓紗を見ている
リリスが小さく言う
「……意識してないのね」
葵は返さない
リリスが息を吐く
「厄介ね」




