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第30話 魔法学園⑥

「はい、休憩終わり、まだやるわよ」


軽く叩いた手の音と一緒にリリスが立ち上がる。葵も遅れて立つ、さっきの話は頭の奥に残ったまま消えきらずに沈んでいる


そのあとの時間は静かだった。戻す、止める、組み合わせる、同じことを繰り返しているはずなのに少しずつだけ感覚が変わっていく。リリスはほとんど何も言わない、「そこ」「今の」「いいわね」と短く挟むだけで、それで十分だった


気づけば日が落ちかけている


「……今日はここまで、明日じゃないわね、週明け、ダンジョンよ」


リリスが息を抜くように言う


「……はい」


それだけ返す


帰り道は静かだった、会話はない、必要なことはもう終わっている


家に戻ると一気に音が減る


「先に風呂でも入ってきなさい、頭の方が疲れてるでしょ」


「……分かりますか」


「顔に出てる」


短いやり取りのあと、葵はそのまま奥へ向かう


湯気の中で目を閉じる、温度がゆっくり体に染みていく。今日の感覚がそのまま浮かぶ、止める、戻す、流す、重ねる、どれもまだ完全じゃない、それでも届いている感覚だけは残っている


「……」


軽く息を吐く、深くはやらない、触れるだけ


――浅いな


わずかに声が響く


葵は目を開ける、湯気の中、何も変わっていない


――今日はよくやった、だが次は死ぬぞ


静かに落ちる


「……何が」


――“境界”を越えればな


それだけ


「……境界って」


返事はない、気配が引く


しばらくそのまま湯の中で止まる、さっきの言葉だけが残る


境界、越える、死ぬ


やがて立ち上がる。湯を流し、体を拭いて部屋へ戻る


静かだ、さっきまでの音が嘘みたいに消えている


ベッドに腰を下ろす


「……」


何も変わっていないはずなのに、どこか違う感覚だけが残っている


外はもう暗い。ダンジョンは月曜、まだ一日ある


――


翌日


朝の光で目が覚める


昨日ほどの重さはない。ただ、どこか落ち着かない感覚だけが残っている


「……」


軽く体を動かす。無理はしない、確認だけ


戻す、止める、流す


問題ない


部屋を出るとリリスがちらっと見る


「今日は休んでいなさい」


あっさり言う


「無理に触らないほうがいいわ、昨日ので十分」


「……はい」


短く返す


その日は大きなことはしなかった。軽く感覚をなぞる程度。


時間だけがゆっくり過ぎていく


そして


――


月曜の朝


少し早く目が覚める。眠りは浅いが、体は軽い


「……」


起き上がる。迷いはない、考えるのは後でいい


部屋を出ると、リリスがすでに起きている


「起きた?」


「……はい」


「顔、悪くないわね」


少しだけ見てから続ける


「じゃあ行ってきなさい、ダンジョン」


あっさりしている


「……はい」


それだけで十分だった


外に出る。朝の空気がやけに冷たい。振り返らない、そのまま歩き出す


町に近づくにつれて人が増えていく。同じ方向へ向かう人も多い、装備を整えた者、軽装の者、年齢もバラバラ


門が見えてくる。ダンジョンの入口、簡単な検査と受付がある


その手前で、見覚えのある顔が目に入る


「……あ」


ガイとリオ


向こうも気づく


「お、来たか」


「遅くね?」


「……別に」


リオが間に入る


「まあまあ、まだ時間あるし」


ガイは肩をすくめる


「で、お前ほんとに来るのか?」


「……来てるだろ」


ガイが一歩近づく


「足引っ張んなよ」


空気が少しだけ張る


「……」


葵は何も言わない


ただ一瞬だけ


意識を向ける


――止まっている


言葉には出さない


それでも、ほんのわずかガイの動きが鈍る


「……?」


ガイが眉をひそめる


すぐに戻る


「……なんだ?」


違和感だけが残る


「別に」


短く返す


奥から声が響く


「次、準備できてるやつから入れー」


列が動き出す


前へ進む


入口が近づくにつれて、空気が変わる。外とは違う、重さのある圧がわずかに混ざる


「……」


足を止めない


一歩


境界を越える


温度が変わる。音が少しだけ遠くなる


中だ


薄暗い通路、湿った空気、遠くで何かが動く気配


「……これが」


小さく呟く


リオが少しだけ緊張した声で言う


「思ってたより……」


ガイは逆に笑う


「いいじゃねえか」


一歩前に出る


「さっさと行こうぜ」


そのとき


奥の影がわずかに揺れる


「……」


気配


一つじゃない


近い


「来る」


短く言う


次の瞬間、小さな影が飛び出す。地面を蹴る音、一直線に距離を詰めてくる


「うおっ!?」


ガイが反応する


葵は動かない


一瞬だけ、意識を合わせる


流れ、位置、距離


「……流れる、止まっている」


小さく落とす


その瞬間、突っ込んできた影の軌道がわずかにずれる。直線が歪み、そのまま手前でぴたりと止まる


「……は?」


ガイが固まる


目の前で止まった小型の魔物、動けないまま震えている


「ガイ今だ」


短く言う


ガイが反射で剣を振る


一撃


魔物が崩れる


静寂


「……お前」


ガイが振り返る


葵は何も言わない


ただ、もう次を見ている


奥の気配


まだ来る

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