第18話 新たなスキル
少しだけ満足そうに目を細めた。
「じゃあやりなさい」
「……はい」
葵は目を閉じる。視点を広げる、ぼやかす、全部を同時に捉える
その中で思考を分ける、一つにしない。
「……止まれ」
葉が止まる。
「……動け」
石が転がる。
「……戻れ」
石が元へ戻る――まだ、少しだけズレる。
「……っ」
「分けなさい」
短い声。
「……はい」
もう一度。今度はそれぞれを“別のもの”として扱う、干渉させない、同時に。
「……止まれ」
「……動け」
「……戻れ」
三つが重なる。崩れない、揺れない、完全に独立したまま成立する。
「……できた」
三つが、初めて完全に重なる。
その瞬間──カチッ。
頭の奥で、何かが噛み合う感覚が走る。
「……?」
一瞬、思考が澄む。
余計なノイズが消えて世界がやけに静かに見える。
そして
──『多重処理:初期段階 解放』
『新たなスキルを手に入れました 多重処理 (マルチプロセス)』
「……え」
声には出ていない。
それでも、確かに“聞こえた”。
「……今、何か」
思わず顔を上げる。
「どうしたの」
女は変わらない様子で問い返す。
「……いえ」
言えない。
説明できるものじゃない。
葵は視線を戻す。もう一度、同じようにやる。視点を広げる、思考を分ける。
「……止まれ」
「……動け」
「……戻れ」
三つが、今度は迷いなく重なる。
──『同時処理数:3』
「……っ」
はっきりと、頭の中に響く。
誰の声でもない。感情もない。ただ情報だけが流れ込んでくる。
「……」
葵は何も言わない。
ただ、わずかに呼吸を整えながら、その感覚を確かめる。
「……もう一回」
小さく呟くさっきより、自然に。
さっきより速く
三つが同時に動く。
──『同時処理数:3 安定』
「……」
心臓の音だけが、少し強くなる。
でも、不思議と怖くはなかった。
むしろ
「……使える」
そう思った。
「……今の」
リリスの声が落ちる。
葵が顔を上げると、さっきまでと違う目で見られていた。
「もう一回やりなさい」
「……はい」
葵は頷く。視点を広げる、思考を分ける。
「……止まれ」
「……動け」
「……戻れ」
三つが、ほとんど間を置かずに重なる。
──『同時処理数:3 安定』
「……」
リリスが一歩、近づく。
「……ねえ」
静かな声。
「君、何でもすぐできるようになるの?」
「……え」
「おかしいわね」
じっと見られる。
逃げ場がない。
「さっきまで出来てなかったものが、急に安定してる」
「……」
言い返せない。
自分でも分かっているから。
「普通じゃない」
リリスは小さく息を吐く。
「……そういう“スキル”みたいなの、あるのかしら」
「……スキル」
葵の中で、その言葉が引っかかる。
さっきの“声”が、頭をよぎる。
「……」
でも、何も言わない。
言えない。
「……まあいいわ」
リリスは視線を外す。
「できるならそれでいい、よくやったわね」
少しだけ間を置いて
「ただし」
また視線が戻る。
「その伸び方、普通じゃない分崩れる時は一気よ」
「……はい」
短く答える。
胸の奥が、少しだけざわつく。
でも
さっきの感覚は、まだ残っていた。




