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8.



双子の兄が死んで、絶望の淵にいたわたしが無理やり連れてこられたのは実は全力でわたしの自殺を阻止するためでした、でも理由は謎!!!


という展開になってから数日、わたしは屋敷での生活に慣れつつあった。


そりゃあ気付いた時は怖かったよ、なんでここまでしてわたしを死なせたくないの!?ってなって疑心暗鬼になりながら過ごしてた。


でもどうせここにいる限り死なせてくれそうにないし、全力で逃げてやるっていう気力も今のわたしにはない。


だったらここで、何事もなく穏やかに過ごしていたほうがいい。


確かにずっと監視されるのは少し窮屈だなって最初は思ってたけど、慣れてしまえば特に気にならなかった。


それどころか、常に人が近くにいるってわかっているので、何か困ったことがあったら、少し大きめな独り言を言うと、サラかセシルがすっ飛んでくるのでこれはこれで便利である。


何よりセドリックが不在というのがわたしの気を楽にさせる。


あの、何を考えているかわからない婚約者(仮)がいないおかげでなんとか穏やかでいられるのだ。


いつ帰ってくるかはわからないが、アンドリューが生前、寄宿学校に通ってた時は滅多に帰ってこなかった。


だからセドリックもすぐには帰ってこないはず!!


と、安心しきってたのに...


朝、いつものように朝食をとるために食堂に入ると、そこにいるはずのない人物がいて、思わずその場で固まった。


セドリックが、普通に朝食を食べている。


見間違いかもしれないから、目を擦り、瞬き多めでもう一度見る。


やっぱり、いる。


そうか、これは夢なのね!目を瞑って起きたら、きっとまだベッドの中よ!


現実とは認めたくなくて、夢だと信じて目を瞑る。


だが、何も起きない。


だって夢じゃないから。



「座らないのか」



わたしが入り口から動かず突っ立ったままだったので、セドリックの方から声をかけてきた。


セドリックの声がけに返事はせず、わたしは席に座る。


席に座ったと同時に朝食が用意されていく。


これはいつもの見慣れた光景。


ただ目の前にセドリックがいるだけなのに、妙に落ち着かない。


コップに用意された水を飲みながら、セドリックを凝視していたら、コーヒーを飲んでいたセドリックと視線が合う。



「何か?」



セドリックがコーヒーカップをソーサーに置く。


内心、大慌てだったが、冷静を装う。



「いつ、お帰りに?」


「昨夜の夜更けだ」


「そう...。随分、早いお帰りだったんですね」


「....用事が、あったからな」



セドリックは何故か居心地悪そうに、視線を逸らした。


わたしはその仕草に特に気にとめず、そっか、用事かー。じゃあわたし関係ないやと内心ホッとしていた。


その後も気まずい空気のまま、朝食は何事もなく終わった。



食後、わたしは逃げるように書庫に向かった。


いつもなら食後の運動がてら屋敷の散策をしているが、今日はセドリックがいるから下手に動かないほうがいい。


読みかけの本を本棚から取り出し、いつものように窓側の椅子に座る。


この場所はちょっとお気に入り。


窓から光が入ってきて気持ちいいし、本を読むのに疲れたら外の景色をぼーっと眺めることができるから時間を潰すにはもってこいの場所だ。


もちろん、ここの窓も鉄格子付きだけどね。


お気に入りの場所で本を読み進めていると、書庫の扉が開く音がした。


サラかセシルがたまに軽食を持ってきてくれるから、二人のどちらかかと思い、気にすることなくページを捲る。


徐々に近付いてくる足音がわたしの前でピタリと止まったので、本から視線を上げると、目を見張った。


そこにいたのは、サラでもセシルでもなく、セドリックだった。



「隣に座っても、いいか」



驚きで声が出なかったので頷くと、セドリックは隣の椅子に腰をかけ、持っていた本を読み始めた。


えぇ、なんでここにいるの...?


セドリックの登場で急に居心地が悪くなり、今すぐにでも逃げ出したいが、それだと彼を避けていることがバレてしまう。


泣く泣くその場に留まり、続きを読もうとしたが、まったく集中できない。


用事があるって言ってたのに、なんでよー!!


セドリックに気付かれないように小さくため息を吐き、窓の外に視線を移す。


暫く外を眺めていると、隣からふいに声がした。



「気分転換に庭に出ないか」


「...へ?」


「気分が沈んでいるように見える。外の空気を吸ったほうがいい」



いや、いやいやいや


気分が沈んで見えるのはあなたが隣にいるからですよ!?


なんて口が裂けても言えないので、とりあえずこの場は無難にやり過ごそう。



「今日は気温が高い。湖のほうがいいだろう。お茶の準備もさせよう。サラ、セシル」


「「はい、セドリック様」」


「今からアンナ嬢を連れて湖に行く。軽食とお茶の準備」


「「かしこまりました」」



どこからともなく現れたサラとセシルに淡々と指示をするセドリックの隣で、断るタイミングを完全に失ったわたしは小さく肩を落とした。



結局、湖まで来てしまった...


目の前には小さな湖が広がっていた。


近くでサラとセシルがピクニック用にと机と椅子を用意している。


というか、庭の敷地内に湖があるってどんだけ広いのよここ。


ここまで来るのに馬車で移動したのよ、信じられない。


自分が今まで体験したことのない価値観を突きつけられて、少し辟易する。


準備が終わるまでちょっと歩こうとその場を離れた。


結構、深さがある湖なのね。


湖のほとりに近付き、水面を覗き込んでいると、突然後ろから強い力で体を引っ張られる。


驚いて振り向くと、焦ってるような怒ってるような、とにかく怖い表情のセドリックがわたしの腕を掴んでいた。



「何をしている」


「えっ...と、湖を見てて...」


「飛び込むつもりだったのか」


「そんなつもりはないけど...」



だって、冷たそうだし。


死ぬとしても溺死はいや。苦しそうだし。



「...湖にはあまり近づかないでほしい」


「はぁ...」



セドリックが腕の力を緩めると、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。


この人、本当にわたしに死んでほしくないのね。


でも本人を目の前にしても、やっぱりわからない。


どうして、この人はそこまでしてわたしを生かしたいのだろう。




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