7.
食堂に入ると、すでに夕食の準備が整っていた。
この屋敷に来てから、三度目の食事。
食堂の広さも、整列した使用人の威圧感にも少し慣れてしまった。
前菜、副菜を終え、メインディッシュが目の前に置かれる。
牛肉のステーキが既にカットされてお皿に盛り付けられていた。
食べようとカラトリーに手を付けて、ふとナイフが置かれていないことに気が付いた。
既にカットされているので別になくても構わないが、少し気になったので近くにいるサラに尋ねる。
「ねぇ、サラ。ナイフが、ないんだけど...」
「こちらの、大きさでは食べにくかったでしょうか」
「え?」
「わっかりました!!すぐにもっと細かく切り分けてきます!!」
「いや、そうじゃなくて...」
サラはお皿を持ち上げ、厨房に繋がる扉へと姿を消した。
露骨に話を逸らされた気がする。
そもそも食事にナイフが用意されてないことなんて、ありえるのだろうか?
こんなにも使用人がいるのに、うっかり忘れたとも考え難い。
しかも、さっきのサラの対応もおかしい。
普通にナイフを用意すればいいだけなのに、わざわざ厨房にお肉をカットしに行って、わたしにナイフを使わせないようにしてる。
どうして...?
その時、外で風が強く吹いたのか、ガタガタと揺れる音がしたので窓の方に視線を向ける。
窓には、わたしの部屋と同じように線のような影が見える。鉄格子だ。
その瞬間、今日感じた違和感全てが、パズルのピースが填まるように繋がった。
……わたしを、死なせないために?
鉄格子が設置された窓、武器がない鎧、脚立のない書庫、バルコニーでの不自然な声がけ、そして用意されないナイフ
まさか、と思った。
でも、一度その考えが浮かんでしまうと、他の理由が思いつかない。
急に胸の鼓動が激しくなる。手の震えを抑えるために、スカートを強く握りしめる。
「おっ待たせしましたー!!!料理長にお願いして、これでもかって細かく切ってもらいました!!!」
サラがお皿を置く。
お肉はもうステーキではなく、タルタルと言っていいほど細かく刻まれていた。
確かにこれなら、ナイフは必要ない。
しかし、今のわたしはこれを食べたいと思うほどの食欲が残されていなかった。
・
その後も食べる気は起きず、わたしは早々に部屋に戻ることにした。
わたしの様子が少し変なことに気付いたのか、押しが強い二人の使用人もあまり深く追及してはこなかった。
部屋のソファに座り、わたしは今日感じた違和感を再度整理してみることにした。
まずわかりやすいのは武器のない鎧と、用意されなかったナイフ。
殺傷力のあるものを、わたしに近づけないため?
……そう考えると辻褄は合う。
次に、脚立。脚立自体に危険性はないが、使い方によっては自殺に使えないこともない。
バルコニーでの声がけも、ずっとわたしを監視していたらタイミング的にも納得できる。
あの高さのバルコニーなら落ちたら即死だもの。
そして、鉄格子。
今思い出してみれば、わたしの部屋だけではなく上階にある窓、全てに鉄格子が設置されてあった。
おそらく転落防止、もしくは逃亡を阻止するため。
やっぱり、考えれば考えるほどこの屋敷の使用人たちは、わたしがアンドリューの後を追って死ぬことを全力で妨害しようとしている。
正確には屋敷の使用人ではなく、彼らの主、わたしをここに連れてきた張本人、セドリック・レッドフィールドが指示しているはず。
でも、理由がまったくわからない。
そもそも彼は何故わたしと婚約しようとしたのか。
わたしと彼は昨日が初対面だった。
それに侯爵家の人間が、子爵令嬢と婚約するメリットなんてない。
まさかこの屋敷に連れてくるためにわざわざ婚約したっていうの?
わたしを死なせないために?
胸元のロケットをギュッと握りしめ、窓の鉄格子に視線を向ける。
鉄格子の向こうに見える夜空が、ひどく遠く感じた。
セドリック・レッドフィールド
彼の目的はいったい何なんだろうか。
考えれば考えるほど、わからなくなる。




