6.
食事を終え、部屋に戻っても特にやることがなかったので、このだだっ広い屋敷を探索してみることにした。
とりあえず長い廊下をひたすら歩く。
廊下の所々には、高そうな装飾品が飾られていた。
たぶん一つ売るだけでも、わたしの実家ぐらいの屋敷が建てられるんじゃないだろうか。
しみじみと金銭感覚の違いを感じさせられる。
そんな装飾品を眺めながら歩いていると、見慣れたものが目に入った。
古い鎧だ。
グランヴィル子爵家の屋敷にも、お父様の趣味で同じような鎧が飾られている。
やっぱりどこの家にもこういうのって置いてあるのね。
そう思いながら何気なく眺めていると、ふと違和感に気づいた。
……あれ?
よく見ると、この鎧には武器が付いていない。
実家にある鎧には、剣や槍が一緒に飾られていたはずだ。
侯爵家なのに、どうしてこんな中途半端な飾り方なんだろう。
少しだけ不思議に思ったが、深く考えても仕方がない。
わたしはそのまま廊下の奥へと歩き出した。
・
廊下の一番奥に来るまで、思ったより時間がかかった。
この廊下を毎日往復するだけで、結構な運動量になるかも。
折角奥まで来たのだから、そのまま来た道を戻るのは少しもったいない気がして、一番近くの部屋の扉をノックした。
部屋に誰もいないことを確認し、扉を開けた。
「うわっ、すご...」
その部屋は書庫らしく、部屋いっぱいに本棚が整列しており、どの本棚も本で埋め尽くされていた。
趣味という程ではないが、たまに物語の本を読むことがあるので、少しだけ胸躍らせながら一番近くの本棚から一冊引き抜いて中身を見た。
これは、昔の哲学者の自伝らしい。
読めないことはないが、妙に小難しい言い回しが多く、読むのが疲れそうなので、元の場所に戻す。
物語を綴った本はないのかしら。
たくさんある本の背表紙に目配せしながら、本棚の間を往来してると、上の方に見覚えのある背表紙が見えた。
本を取ろうと手を伸ばしたが、僅かに届かない。
背伸びしても届きそうにないので、足場になりそうなものはないか辺りを見渡す。
近くを見回したが、それらしいものは見当たらない。
こんなに背の高い本棚がいっぱいなのに、脚立がないなんて不便じゃない...?
ちょっと疑問に思ったが、よく考えてみたら誰かが別の場所で使うために持ち出してるのかも知れない。
わたしは深く考えることをやめて、近くの本棚から本を一冊抜き取った。
・
結局、一冊読み耽てしまった...。
気付いたら日も傾いてきており、わたしは書庫を後にする。
書庫を出たあと、わたしはなんとなく別の廊下へと足を向ける。
同じような廊下がいくつも続いていて、気づけばさっき通った場所がどこだったのかわからなくなる。
……もしかして、迷った?
そう思いながら歩いていると、廊下の突き当たりに小さな扉を見つける。
扉を開けると、屋敷とは違う石造りの空間が広がっており、どうやら塔のようだった。
特に深く考えず、上へと続く階段に足をかける。
螺旋状の階段を登り続け、光が差し込む場所まで辿り着くと、そこには小さなバルコニーがあった。
敷地内を一望できるぐらいの高さがあるバルコニーから見える夕日が綺麗で、バルコニーに一歩足を踏み入れようとした。
その時。
「それ以上は、危険ですよ。アンナ様」
呼び止める声が後ろから聞こえた。
振り向くとそこにはセシルが無表情のまま立っていた。
いつの間に来たのだろう。まったく気配に気づかなかった。
突然現れた使用人に不審がっていると、セシルがわたしの手を取る。
「そろそろ夕食の時間になります」
そのままわたしの手を引き、階段を降りていく。
セシルの後ろ姿を見ながら、わたしは考える。
夕食の呼び出しに来たのは別に変じゃない。
問題なのは、何故彼女がわたしの居場所を知っていたのかということ。
わたしは書庫から出たあと、迷ってこの塔まで来た。
その時、周りに人はいなかったはず。
なのにセシルはわたしがここにいると知って、呼びに来た。
....もしかして、ずっと見られてた?
そう思うと急に背筋がゾッと冷えた。
何のために...?




