5.そして、いなくなる
「ん...」
窓から差し込む光の眩しさが、閉じた瞼の裏を白く染めた。
目を擦りながら、ゆっくりと体を起こす。
なんか久しぶりにぐっすり寝たかも...
数日分の疲労の蓄積のせいか、はたまた豪華すぎる寝具のお陰か、久々に熟睡できて身体が軽い。
太陽の光がだいぶ高いところから差している。
結構長い間寝たんだなぁ...。
ぼーっと窓の外を眺めてると、何かが引っかかる。
昨日の夜は暗くてよく見えていなかったが、線のような影が、窓に走っている。
最初は木の枝かなと思った。でもこの高さに、木はない。
目を凝らしてよーく見てみると、どうやら鉄格子が設置されている。
この時は折角大きな窓なのに、鉄格子のせいで景色が見え難く台無しじゃないかとぐらいしか感じなかった。
「おっはよーございます!!アンナ様」
扉がノックされると同時に、サラが元気よく部屋に入ってきた。
「失礼します」
その後ろから、セシルがついてくる。
この無遠慮な感じ、どこか既視感...
実家の屋敷にいる使用人、リースのことを思い出してると、目の前で二人が朝の準備を始めている。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「おかげさまで...」
「それならよかったです!!あ、お召し物失礼しますね」
わたしが許可を出す前に、サラに躊躇なく寝間着を脱がされる。
「髪を梳かせていただきます」
服を着替えさせられると、間髪入れずセシルが櫛で髪を梳かす。
こっちが反応する前に次々と準備が進められていく。
気付いたら、手を引かれて、また昨日の食堂に連れてこられていた。
食卓の上には既に朝食の準備がされている。
わたしが席に着くと、誰が合図することもなく、サラダやスープなど次々と用意されていく。
朝、食べるには少し多すぎる料理に少し圧倒されてると、両脇から人の気配を感じ取った。
このままだと、昨日のようなあーん地獄が始まってしまう!!
サラとセシルに取られる前にスプーンを掴み、スープを掬って、口に運んだ。
あ、美味しっ
野菜の優しい甘味が舌に広がり、思わずもう一口掬う。
昨夜の食事でも思ったが、ここの食事はどうやらわたし好みの味付けかもしれない。
無心で食事をとるわたしは、周囲の使用人たちがほっとした空気を漂わせていることなど、気づきもしなかった。
・
食事も終盤に差し掛かった頃、食堂の扉がゆっくり開かれる音がした。
その場にいた使用人たちが一斉に姿勢を正す。
後ろを振り向くと、セドリックの姿があった。
入ってきたセドリックを見て、わたしはわずかに目を瞬かせる。
昨日は貴族らしい仕立ての良い服を着ていたのに、今日は長めのローブを羽織っている。
あれ、あのローブ……
どこかで見たことがある気がするが、はっきりとは思い出せない。
「よく、休めたようだな」
首を傾げていると、いつの間にかセドリックが横に立ち、こちらを観察するように見下ろしている。
「はぁ……」
曖昧に返事をすると、セドリックは淡々と続ける。
「……わたしは、しばらく屋敷を空ける」
「えっ」
「学業があり、戻る必要がある。休みを取りすぎた」
学生と聞いて驚いた。
高い身長と落ち着いた雰囲気のせいで、勝手に年上だと思い込んでいたのだ。
てことは、セドリックはもしかしてわたしとそんなに歳が変わらない?
下手したら、同い年かも……
「屋敷と敷地内は自由に歩き回ってもらって構わない。外出するならサラかセシルを連れて行くといい」
有無を言わせぬ口調で、セドリックが言う。
「セドリック様、馬車の用意が整いました」
「それでは、失礼する」
わたしが返事をする前に、執事長のテイメンが呼びに来た。
セドリックはローブを翻し、そのまま食堂を後にする。
なんだか慌ただしい。
というか、自分で婚約者を連れてきておいて、しばらく放置ってどういうこと?
これが上流階級の貴族様の常識ってこと……?
セドリックの行動がいまいち理解できず、胸の奥がもやもやする。
その引っかかりを紛らわせるように、食べかけのクロワッサンを口に運んだ。
ほんと、何を考えているのかわからない男ね……。




