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4.



「おやすみなさいませ、アンナ様」


「アンナ様、おやすみなさい」



セシルとサラ、二人の使用人が退出すると、部屋が一気に静かになった。


いつもとは違う天井を眺めながら、息を吐く。


屋敷に着いて、部屋に案内されてから怒涛の勢いで事が進んでいったので、頭が少し混乱している。


やっと一人になって、落ち着いてきたので、さっきまでの状況を整理してみよう。





セドリックの後をついていき、案内されたのは実家の自分の部屋よりも一回り大きな部屋だった。



「今日から、ここを好きに使ってくれて構わない。それと...入れ」



セドリックの合図とともに部屋に入ってきたのは、メイド服を着た二人の使用人。



「セシルと申します」


「サラです。よろしくお願いいたします」



姉妹なのか、顔の良く似た二人がそれぞれお辞儀をしてきた。



「この二人はアンナ嬢、君の専属だ。何かあったら彼女たちに言えば、問題ない」


「はぁ...」


「わたしは失礼する。サラ、セシル、後は頼んだ」



駆け足で説明を終えたセドリックは二人の使用人に目配せをし、足早に部屋から出て行った。


半ば強引に連れてきたのに、割とあっさりいなくなるのね。


状況がイマイチ飲み込めず、その場で立ちすくんでいると、両側から力強く腕を掴まれる。



「さぁさぁ、アンナ様。まずお体を綺麗にいたしましょう」


「バスルームはこちらでございます」



抵抗する間もなく、二人の使用人、サラとセシルに部屋に付随するバスルームへと引っ張られていく。



「長旅でお疲れでしょう?お湯もバッチリ張ってますから!!」



常に笑顔で、少し口調が砕けてるのがサラ。



「お召し物を脱がせます。」



無表情で、淡々と話すのがセシル。


二人は躊躇いもなく次々とわたしの服を脱がせていく。


されるがまま素っ裸にされていく中、二人のどちらかが首に掛けているペンダントに触れる。



「やめて!!!!」



咄嗟に出た声が思ったより大きくて驚く。



「これは...、外さないで」



取られないように胸元のロケットを強く握った。


どうやらペンダントに触れたのはサラだったようで、彼女は特に気にすることなく目を細める。



「かしこまりました」



一瞬だけ手を止めた二人だったが、わたしがロケットを握りしめているのを確認すると、すぐに何事もなかったかのように作業を再開した。





お風呂でピカピカに磨き上げられたら、今度は食堂に連れてこられた。


もう説明する必要はないが、食堂もかなり広い。ここで小さな舞踏会を問題なく行えるぐらいには。


そんな大部屋の真ん中に、長い食卓が置いてあり、そこを取り囲むかのように使用人たちがずらりと整列している。


い、威圧感半端ない...


食卓に着席させられると、すぐに料理が運ばれてきた。


新鮮な魚介類の切り身の上に、色とりどりの野菜が盛り付けられているカルパッチョはとても美味しそうに見える。


でもそれはお腹が空いていたらであって、あまり食欲のないわたしはすぐに手をつけることはしなかった。



「アンナ様、疲れすぎて自分で食べられないならそう仰ってください!!」


「僭越ながら、わたくしどもがお手伝いさせていただきます」



するとサラとセシル、二人がそれぞれフォークで具材を掬い、わたしの口元に運ぼうとする。



「さぁ、アンナ様ご遠慮なさらず!」


「どうぞ」


「え、いや、いらな...」



さぁ食べろ、そら食べろと言わんばかりの圧でフォークがじりじりと近づいてくる。


このままだと顔を突き刺しかねない勢いだったので、思わず口を開けてしまうと、瞬く間に口の中にフォークを押し込まれる。


これが侯爵家の洗礼...


若干の恐ろしさを感じながら、咀嚼する。


野菜のシャキシャキ感と魚のもったり感、食感の違いが小気味よい。


味のアクセントに少しの酸味が感じられて、素直に美味しかった。


お腹が空いてないはずなのに、ゴクンと飲み込んでしまう。



「...美味しい...」



消え入るような声でポツリと言うと、両脇にいるサラとセシルの空気が和らぐ。



「どんどんお食べください。はい、あーん」


「次の料理、準備お願いします」


「ちょっ、自分で、食べ、む、むむむ」



話すことも許されず、口を開けるとすかさず食べ物が中に放り込まれる。


明らかに異様な光景なのに、他の使用人たちはピクリとも動かない。


怖い、なんか怖い、この空間!!


味は満足だったが、気持ち的にはまったく休まらない夕食になった。





そして、今に至ると。


本当に怒涛の勢いだったな...


よいしょっと寝返りを打つ。


今は暗くて見えないが、目の前には外の景色が一望できる大きな窓。


滑らかな肌触りのシーツに指を滑らせる。頭で枕を押し上げると、柔らかさが反発してくる。


高すぎる天井、大きすぎる窓、いつもと違う寝具。


どうやったって落ち着いて眠れるわけがない!


そもそもなんでこんなとこで寝てるんだ、わたし!!


本来だったら、自分の屋敷でアンドリューの後を追って、追って...追って...


急に胸がざわつき、胸元のロケットをぎゅっと握りしめる。


どうして、突然いなくなってしまったの...?



双子の兄、アンドリューが寄宿学校からの帰り道に不慮の事故で亡くなったと家に知らせが届いたのは一週間前。


谷底が深い道を通っていたところ、馬車の車輪が道を踏み外し、馬車ごと谷底に落ちてしまったとのこと。


道が細くて危険なので、普段なら絶対通らないのに、いつもの道が川の氾濫で使えなくなり、止むなく使った可能性が高いとお父様が言っていた。


現場が深い谷底のせいで、アンドリューの遺体は確認できなかったが、あの高さから落ちたら助からないと判断されたらしい。


突然の訃報で屋敷中、悲しみに包まれたのを覚えている。


厳格なお母様が泣き崩れ、いつも飄々としているお父様の顔からも笑顔が消えていた。


使用人たちも態度には出さなかったが、悲しんでいるということは空気で感じ取れた。


それぐらい、アンドリューは大きな存在だった。


アンドリューがいなくなってから、わたしの目の前が真っ暗になった。


双子の兄を失ったことで、自分が思っている以上に憔悴しはじめた。


毎日死ぬことだけを考えていた。


死にたい、死にたい、死にたい


まるで半身をもぎ取られたような痛みだった。眠りから目覚めるたびに、自分が生きていることを呪った。


次第に眠ることをやめ、食事もとらなくなり、目の焦点が合わなくなり、意識が遠のき、やっと死ねるって安堵した時にあの男がやってきたんだ。



「...グスッ...」



気付いたら目頭が熱くなって、枕が濡れている。


涙なんてとうに枯れたと思ってたのに、まだ溢れ出てくる。


目を閉じたら、このままアンドリューのところに行けるだろうか。


アンドリューとお揃いのロケット付きペンダントを胸に抱き、わたしは瞼を閉じた。


もし夢を見るのならアンドリューが出てきますようにと願った。




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