星灯祭へ、ようこそ!(上)
たくさんの人が行き交う中、人にぶつからぬように進んでいるといつの間にか道の端っこまで追いやられてしまっていた。
このままだと待ち合わせ場所に辿り着くことができないと焦り、今度こそ負けるものかと決意して人混みに足を踏み入れようとした瞬間、女性たちの騒ぎ立てる声が耳に届いた。
何事かと声がした方を振り向くと、そこには人集りが出来ていて、殆どが華やかなドレスを身に纏ったご令嬢たちだった。
その人集りの中心から、聞き覚えのある高笑いが聞こえてきたため、わたしはドレスの裾を掴み、逃げるようにその場から離れた。
着いて早々、リチャード王太子殿下に絡まれると非常に面倒くさい。
早くアンドリューと合流しなければと、わたしは気合で人混みの中を進んでいく。
アンドリューたちが通う寄宿学校は何度か来たことがある場所だったけれど、さすがに人が多いと、いったい自分がどこにいるのかわからなくなる。
やっとのことで、待ち合わせ場所の中庭の噴水が目前に見えると、その隣でぴょこぴょこと飛び跳ねる人物がわたしに向かって大きく手を振ってきた。
「おーーい、アンナ!!!こっち、こっちだよ!!」
双子の兄の姿に胸を撫で下ろすと、またそのまま人の流れに呑まれそうになるも、リースが後ろから支えてくれて、なんとか踏みとどまることができた。
結局、リースに手を引かれ、噴水へと辿り着くと、普段のローブ姿とは違う正装姿のアンドリューが大きく腕を広げる。
「我らが伝統なる星灯祭へ、ようこそ!!今日という特別な日を目一杯楽しんでね!!」
今にも抱きついてきそうなアンドリューを躱しながら、わたしはリースから受け取った紙をもう一度目を通す。
王都で最も伝統ある寄宿学校では、年に一度、秋口に継承祭──通称『星灯祭』が開かれる。
簡単に言えば、学校敷地内で行われる学生たち主催のお祭りみたいなものだ。
普段関係者以外立ち入り禁止なのだが、この時だけ在校生から招待された親族や友人が敷地内に招き入れられている。
今まではセドリックの婚約者として特別に入れてもらっていたが、今日はアンドリューの招待客として来たのだ。
「それにしても、すごい人ね...。毎年、こんな感じなの?」
「うーん、まぁそうなんだけど...、今年はちょっと賑わってるかもね。ほら、リチャードが卒業するから!!」
この継承祭の一番の見どころは、その年に卒業する最高学年生による様々な催し物らしい。
今年は王国の第一王子であるリチャード殿下がその最高学年生であるため、そんな彼の姿を一目見ようとたくさんの人が集まっているということか。
なるほど、だからご令嬢の姿が多かったってことね。
性格は難ありだけど、見た目だけはいいし、この機を逃してしまったら王族なんて滅多に見られないものね。
つい先日、アンドリューから招待状が届いて、初めて継承祭の存在を知った。
招待状と一緒に届いた手紙には、わたしが継承祭に来ることはセドリックには内緒にしてほしいと書かれていた。
理由がわからなかったから、セドリックから話を振られたら全て打ち明けようとしていたのだが、今日の今日までセドリックから継承祭について話が出ることはなかった。
別にいいのだけど、本音をいうと、セドリックから誘って欲しかった。
でも、セドリックもきっとリチャード殿下の護衛でそれどころではないのだろうと割り切ることにした。
ちょっと寂しいけど今日はセドリックの邪魔にならないように楽しもうと決めた。
もし姿が見えたとしても、陰ながら見守るのよ!!
それが王太子の側近の妻になるわたしが出来る最低限の務めである。
「ところでアンナ、例の本は読んでくれた?」
「...読んだけど...、あれがいったい何だって言うの?」
手紙には、他にも今、王都で流行っているらしい小説を読んでくるようにとも書いてあった。
いったい何の意図があるのかわからなかったが、言われた通りにその本を取り寄せて読んではみた。
小説はとある王国の王太子とその護衛による強い絆を描いた物語だったのだけど、どこか既視感のある二人だった。
王太子は自由奔放で自己愛が強く、その護衛は無口で冷静沈着という設定だったのだが、これだけだとリチャード殿下とセドリックの二人を題材にしてるように見えた。
しかし、中身を読んでみると、王太子に対して、護衛が友情以上の保護欲や強い感情を抱いている描写が書かれていた。
あまりにも現実の二人とかけ離れた内容だったため、作者の妄想なんだろうと思ったが、頭の中ではいつの間にかリチャード殿下とセドリックへ置き換えて読み進めてしまっていた。
なんとも複雑な気分のまま、本を閉じたのを覚えている。
「どうだった?面白かったかい?僕は初めて読んだ時、笑い転げてしまったよ!!」
「内容は面白かったけど...あまり、いい気分で読み終えられなかったわ...」
わたしの反応を見て、アンドリューがいやらしげに口角を上げている。
だからその小説がいったいなんなんだと問い詰めようとした時、後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。
「アンドリュー、約束通りに来たぞー」
「おっ、ロビン君にダニエル君。ナイスタイミングだね!!」
アンドリューの言葉で振り返ると、そこには黒髪のロビンさんと、赤髪のダニエルさんがこちらへと近付いてきていた。
まさかアンドリュー以外の人が来ると思っておらず、わたしは慌ててお辞儀をする。
「ごきげんよう、ロビンさん、ダニエルさん。本日も兄にお付き合いいただき、ありがとうございます」
「ごきげんよう、アンナ嬢。相変わらずアンドリューと正反対ですね」
「本当にお前の妹かよ」
「失礼だなー、二人とも!!どっからどう見ても僕の可愛い妹じゃないか!!!」
騒ぎ立てるアンドリューをよそに、ロビンさんとダニエルさんが慣れたように話を進める。
「というか、アンドリュー、お前セドリックにアンナ嬢だけは絶対に呼ぶなって念押しされてなかったか?」
「えー、そうだったっけ?」
ダニエルさんの意味深な言葉に、アンドリューはとぼけたように視線をわざとらしく逸らす。
せ、セドリックがわたしを絶対に呼ぶなって...、どういうことかしら。
いつも逢瀬の度に、四六時中君といたいとか、片時も離れたくないとか囁いてくるものだから、セドリックからの何気ない拒絶でも傷ついてしまうようになった。
何か気に障るようなこと言ったかしら...。
ショックで前回の逢瀬を思い出そうとした矢先に、どこからともなく女性たちの大きな歓声が聞こえてきた。
声に驚いてそちらを振り向くと、先ほどと同じように令嬢たちが集まっていて、その中心には二人の人物がいた。
一人は金髪の長髪を一つに纏めたリチャード殿下でいつものように綺羅びやかな衣装を身に纏っていたのだが、どこか雰囲気が違う。
そして、驚いたのはその隣にいる愛しいセドリックが、リチャード殿下と色違いの衣装を着て、そこにいたのだ。
色味が落ち着いた衣服のセドリックを見慣れているため、新鮮で、少しだけ胸がときめいてしまう。
しかし、それよりも気になることがある。
「目が、死んでる...」
ご令嬢方に囲まれ、注目されていることで上機嫌なリチャード殿下とは裏腹にその隣にいるセドリックの表情がまったくないのだ。
あまりにも無すぎるので、ちょっと怖いかも...。
「あはははははははは!!!!本当だーーー!!!セドリック、表情死んでるじゃん!!!せっかくのお祭りなんだから、もっと愛想よくすればいいのに!!!」
隣でアンドリューが腹を抱えて大爆笑している。
ロビンさんとダニエルさんはそんなアンドリューに冷ややかな視線を向けていた。
「アンドリュー...、お前わざとアンナ嬢を呼んだだろう」
「最後の最後まで嫌がってたセドリックが、アンナ嬢を呼ばないならって条件で渋々承諾してくれたのに...」
話の流れから察するにどうやら、今回の催し物の件でアンドリューとセドリックの間で一悶着あったらしい。
「もちろん、あの時はセドリックのためだと思ってその条件を呑んださ!!でも僕にとってはセドリックとの約束よりも、アンナに会いたい気持ちのほうがずっと強かったからね!!!抑えられなくて、つい!!」
「つい、じゃねぇよ!!確信犯だろうが!!!」
「お前、いつかセドリックに殺されるぞ...」
三人の会話を聞いて、別に嫌われたわけじゃないんだと安堵したわたしは改めてセドリックの方へと視線を向けた。
ちょっと目を離した隙に、何やらリチャード殿下とセドリックが言い争いをしている。
基本的にリチャード殿下の要望や無茶振りを淡々と受け流すセドリックなのだが、今日は様子がおかしい。
暫く二人の様子を見ていると、結局リチャード殿下に押し負けたのかセドリックが悔しそうに表情を強張らせる。
そして、信じられないことにセドリックがリチャード殿下を横抱きで抱えた。
それと同時に周りのご令嬢方から今日一番の歓声が湧き上がった。
「あはははははははははははははは!!!!!!やばい、腹よじれる!!!!あはははは、苦しい...」
何がおかしいのか、アンドリューはついに地面で笑い転げ始めてしまった。
「うわっ、セドリックかわいそう...」
「俺だったら、泣いてるわ」
悲壮な顔で同情しているロビンさんとダニエルさんの横で、令嬢方に囲まれている二人を眺めていたわたしはやっと腑に落ちた。
これって、もしかしてあの小説を再現しているのかしら。
どこか見たことある衣装だと思ったら、小説の挿絵で主人公二人が着ていたものにそっくりだったことを思い出した。
つまりリチャード殿下とセドリックは二人が題材であろう小説の登場人物の格好をしているというわけだ。
なんともややこしい。
今回の催し物はきっと小説を元にした劇とかなのだろう。
もしそうだとしたら、作中で護衛が王太子に対して発する重たい感情の数々をセドリックの口から聞けると思うと少しだけ楽しみになってきてしまっていた。
そして、今も尚、死んだ表情でリチャード殿下を横抱きしているセドリックはやっぱり規格外の力の持ち主なのだなと改めて感心してしまった。
熊のようなグランヴィルの主治医のテディを軽く持ち上げられるんだから、リチャード殿下ぐらい簡単よね。
なんだかとても誇らしい気分になって微笑んでしまう。
そんなわたしを見て、ロビンさんとダニエルさんが怪訝な表情を向けてくるのにわたしは気付くことはなかった。
(えっ、なんでこの子自分の婚約者が男を横抱きにしてるのに笑ってるんだ...?)
(やっぱり、この兄妹、相当な変わり者なのかもしれない...)
・
「それじゃあ、ロビン君。アンナたちのこと頼んだよ。僕は二人の仲を邪魔する子爵令息の役を務めなければいけないからね」
ひとしきり笑い転げたアンドリューは目尻の涙を拭いた。
「それは別にいいんだけど...」
「なんでロビンだけなんだ?俺も特別忙しいってわけじゃないから、一緒に回れるが」
その場でくるくる回るアンドリューにダニエルさんが疑問の声を上げる。
「えー、だって、ロビン君、最近幼なじみのご令嬢と婚約したって言ってたじゃない?さすがにそこは僕だって考えなしじゃないよ」
アンドリューの意味わからない言葉にロビンさんとダニエルさんは顔を見合わせて、納得したように頷いた。
「なるほど」
「そういうことなら、仕方がない。それでは、アンナ嬢。俺はここで失礼するよ」
「よし、行くぞ!!脇役B!!それじゃあ、アンナまったねーー!!」
「誰が脇役Bだ」
慌ただしくその場から去ったアンドリューとダニエルさんの背中をわたしは呆然と眺めていた。
そして、アンドリューはそのままご令嬢方に囲まれているリチャード殿下とセドリックの方へと突っ込んでいき、声を上げ、楽しそうに笑っていた。
「それでは、俺たちも行きますか。どこか行ってみたいところとか、ありますか?」
状況がいまいち理解できていないわたしをよそに、ロビンさんが祭りの案内書を差し出してきた。
特別見てみたいところはなかったのだが、せっかくのご厚意なので、色々見て回ろうと案内書に目を通す。
遠くからリチャード殿下とアンドリューの笑い声が聞こえてきて、楽しそうだなと思う反面、その輪の中に入れないことが少しだけ寂しくもあった。
その後は案内書を見て、興味を持った展示会へとロビンさんに連れて行ってもらった。
その道中で、今回の催し物が決まった経緯をロビンさんが話してくれて、やはり提案者はアンドリューだったらしい。
本来なら俗っぽい民衆小説を扱うことはないはずなのだが、アンドリューがリチャード殿下を煽てて無理やり実現させてしまったらしい。
王太子殿下が乗り気になってしまい、誰も止められることが出来ず、セドリックも最後まで抵抗していたものの、結局はアンドリューとリチャード殿下に押し切られてしまったらしい。
話を聞いただけで情景が浮かび上がり、セドリックの苦労に同情せざるを得なかった。
展示物の見学もそこそこに、少し休憩しようとロビンさんに提案されて、休憩所がある校舎の中へと入る。
ロビンさんの後ろをついていくと、不意に物音がしたので振り返る。
「どうしました?お嬢様?」
「う、ううん。何でもない...」
振り返っても何もなかったため、隣のリースに声をかける。
わたしの返事に安心したのか、リースが前を向き、歩き出す。
その後ろをついていこうと足を踏み出そうとした瞬間、何かに腕を引っ張られ、そのまま近くの教室へと引きずり込まれる。
「へっ...」
声を上げようとするも、口を塞がれてしまい、思うように声が出ない。
背後から温かな腕に抱き寄せられる。
抵抗しようと体を捻って、手を振り払おうとすると、耳元で囁かれる。
「アンナ」
愛しさが込められたその声に耳が震える。
後ろを見上げると、灰色の瞳と目が合った。
「セドリック...!!」
そこには先ほど遠目で見たまんまの派手な衣装に身に纏ったセドリックがいて、驚きで目を見開かせる。
「お嬢様ー!?どこですか!?」
どうしてここにと疑問を口にする前に、リースの焦り声が耳へと届いてきた。
それを聞いたセドリックがわたしの腰を引き寄せ、窓際のカーテンの裏へと引き込んだ。
「確かにここで立ち止まった姿は確認していたんです。でも、少し目を離した隙に忽然と...どうしましょう...」
「落ち着いてください。この建物は少し入り組んでいるので、もしかして迷子になっているだけかもしれないので手分けして探しましょう」
セドリックの腕の中で、わたしがいなくなったことで珍しく取り乱すリースと、冷静に状況を判断するロビンさんの会話に耳を傾ける。
リースに申し訳なく思い、セドリックを横目で見上げるも、人差し指を口元に当て、しーっと息を吐く。
そうこうしているうちに、わたしを探しに行ったリースとロビンさんの足音が段々と遠くなり、セドリックの腕の力が緩んだ。
「どうしてここにいるの、セドリック?」
セドリックに向き直ると、間髪入れずに額に唇を落とされる。
「リースの後ろ姿が見えたので、もしかしたらと思ったのだが...やはり来ていたか」
優しくわたしの髪を撫でるも、その表情はどこか複雑そうだった。
「こんなところにいていいの?みなさん、困っているんじゃない?」
仮にも主役の一人が突然姿を消したとなると、きっと大事になっているにだろうと想像できる。
しかし、セドリックは気にする様子もなく淡々と答える。
「問題ない。アンドリューも約束を守らなかったのだから、こちらも好き勝手させてもらう」
「ふふ、そうね」
でも、きっと真面目なセドリックだから最終的には嫌々ながらも自分に与えられた責務を全うしてしまうのだろう。
今回の脱走はセドリックなりの小さな反抗心だと思うと、微笑ましくてつい笑ってしまった。
しかし、改めてセドリックの格好を間近で見ると、やはり胸がときめく。
普段のセドリックももちろん大変素敵なのだけど、本人が絶対選ばないような綺羅びやかな衣装もとても似合っている。
「とても素敵よ」
正直な感想を述べると、セドリックは眉間にしわを寄せる。
「......そうか」
腑に落ちていないのかとても複雑そうに目を伏せるので、わたしは宥めるように言葉を続ける。
「本当よ!小説で読んでいた時は想像つかなかったけど、実際にセドリックが着たところを目の当たりにしたら驚くぐらい似合っていて...」
「待ってくれ」
言葉を遮るように、セドリックが慌てて顔を上げる。
「アンナ...、君もアレを読んだのか?」
アレというのは例の小説のことだろうと、わたしが頷く。
すると、セドリックは深くため息を吐き、左手で顔を覆う。
「...あの男、余計なことばかり...」
何やらぶつぶつと呟いているセドリックに首を傾げると、突然右手を強く掴まれる。
「アンナ、誤解しないで欲しいのだが、アレはあくまで小説の登場人物で、わたしではない」
「ええ、もちろんよ」
「したがって、わたしがあのような感情を殿下に抱くことはありえない」
「わかっているわ、セドリック。リチャード殿下を煩わしいとは思っても、心から敬愛することはないものね」
真剣な表情で弁明するセドリックを安心させるために、迷わず相槌を打つ。
わたしの反応に安堵したのか、強張っていたセドリックの表情が少しだけ緩んだ。
「それに、小説の登場人物よりも実際のセドリックのほうがずっと素敵よ。だから安心して!!」
「そういうことではないのだが......」
なんだか納得していない様子のセドリックだったが、掴んでいたわたしの右手を離し、そっと指先に触れる。
そのまま誓うように指先に口付けを落とし、灰色の瞳が真っ直ぐとわたしへと向けられる。
「わたしの愛は全て君へと捧げられる。たとえ君以外にその言葉を向けようとも、わたしの心は常に君だけのものだということを忘れないでほしい」
「ふぇ...」
相変わらずの重すぎる愛に、変な声が口から漏れ出てしまう。
小説での台詞も十分重たいと思ってたのに、セドリックも負けず劣らずの重さで胸がドギマギしてしまう。
やはり想像するのは楽しいのだが、実際に向けられると未だにどうしていいかわからなくなってしまう。
しかも、いつもとは違う場所、格好も相まって動悸が激しさを増していく。
「...アンナ」
腰を引き寄せられ、頬を撫でられる。
セドリックの顔がどんどん近付いてきて、口付けされると瞼を閉じかける。
「セドリックーーーーー!!!!」
その瞬間、けたたましい怒号が耳を貫き、セドリックの動きが止まった。
声からするとリチャード殿下なのだが、どこから聞こえたのかわからず辺りを見渡していると、窓の外を見下ろすセドリックに釣られ、わたしも外を見下ろす。
そこにはものすごく怒った様子のリチャード殿下と、笑いながらその後ろをついていくアンドリューが建物内に入っていく姿が見えた。
小さく息を吐いたセドリックがわたしの頭上にキスを落とす。
「すまない、アンナ。ここから離れなければならない」
「え、ええ。気をつけてね」
見送りの言葉を送ると、目を細め、名残惜しそうにわたしの体から離れていく。
近付いてくる騒音から逃げるように、セドリックが教室から出ていった。
「あ、いた!!いたよ、リチャード!!あのキラキラ、セドリックだよ!!」
「なにぃ!?セドリック、貴様!!!逃げるではない!!!」
セドリックに続くように騒がしい二人が教室の前の廊下を横切っていく。
そんな騒がしさを耳にしながら、カーテンの後ろに隠れていたわたしは、先ほどのセドリックの言葉を脳内で反芻させ、一人悶え震えるのであった。




