鳥になる王太子殿下
正門で門衛に面会許可を確認された後、寄宿学校の敷地内に入ることを許されたわたしは、付き添いのリースと共に指定された待ち合わせ場所へと向かっていた。
休み時間なのか、学校規定のローブを羽織っている生徒の姿があちらこちらに見受けられる。
そして、気のせいだと思いたいのだが、何故かありとあらゆる方向から視線を向けられている。
最初は、普段部外者立ち入り禁止のはずなのに使用人を連れている令嬢が敷地内を出歩いていることが珍しいから見られていると思っていた。
しかし、前を通り過ぎると、食い入るように見られるし、横を通ると、必ず確認するかのように振り返られ、二度見される。
終いには指定された待ち合わせ場所がわからなくなって、道行く生徒に声をかけたら、目に見えて驚かれてしまった。
声をかけただけなのに、目を真ん丸に見開いて、信じられないようなものを見るかのような表情を向けられてしまったのだ。
何か、わたし、おかしなところあるのかしら...。
元々、自分にあまり自信がないのだが、最近ますますそれを加速させることがあったため、少しのことで不安になってしまう。
「...リース、わたし、やっぱり、どこか変なのかしら...」
「もぉーーー、また同じことを...何度目ですか!?」
見られることが居心地悪く、わたしがリースの腕に掴まりながら歩いているため、彼女は鬱陶しそうに掴まれている腕を振り回す。
リースの言うとおり、この数分だけで同じような質問を何回も問うていた。
最初はリースもそんなことないですよ、来訪者が珍しいだけですよって優しく励ましてくれたのに、その問答を10回繰り返したあたりで対応が雑になってきている。
さすがに自分でも気にしすぎだとは思うが、自分に自信が持てず、不安なものは不安なのだ。
というか、今日だってその不安が原因でセドリックに会いに寄宿学校まで訪れているのだから。
セドリックとの結婚式の日取りが決まり、着々と準備は進められていく中、つい先日結婚式を王都で最も格式高い大聖堂で執り行われることを知った。
そのことで急に侯爵家の一員になるという重みを自覚してしまい、結婚で浮かれていた気持ちが一瞬にして吹き飛んでしまった。
セドリックが侯爵家の人間であることを忘れたことはなかったし、昨年末にご家族に挨拶しにレッドフィールドの領地へ赴いた時も確かに緊張はしていた。
しかし、辺境の子爵令嬢でありながらもセドリックの婚約者として快くわたしを受け入れてくれたので、すっかり気が緩んでしまったのである。
レッドフィールド侯爵家が受け入れてくれているからといって、貴族社会でそれが通用するとは限らないのだ。
当然、わたしという人間も品定めされるはずだ。
そして、わたしがどう見られるかが、そのままセドリックへの評価にも繋がってしまう。
それを考えただけで急に怖くなり、自分ではどうすることも出来なくなってしまった。
学業で忙しいセドリックに迷惑と思いながらも、会いたい旨を手紙に綴ってしまった。
返事はすぐに来て、今は試験期間中で屋敷へと戻ることが出来ないと書かれており落胆するも、その後にどうしても一人で抱えきれないことがあれば、遠慮せずに寄宿学校へ来てほしい、学校への許可は自分が取り付けると書いてあった。
セドリックらしい気遣いに胸が熱くなり、それだけで十分だと思ったのだが、毎晩ベッドに横たわるたびに要らないことを悶々と悩む日々は続き、寝不足になっていた。
目の下にクマができ、日中もぼーっとしているわたしを見かねて、リースが無理やり王都まで連れ出してきてくれたのである。
そして、そんな状態で寄宿学校の生徒から異常な数の視線を向けられていたらわたしではなくても、もっと不安になってしまうはずなのだ。
「いい加減にしてください!!いつまでウジウジしているんですか!!」
「だって、だって...」
「結婚する前からそんなんだったら、これからずっと身がもちませんよ!!そんな状態のアンナ様と結婚されてもセドリック様だって喜びませんよ」
「うぅ...」
至極真っ当な意見を言われ、つい泣きそうになってしまう。
セドリックと一緒に生きると決めた時から、覚悟していたはずなのにいざその時になったら怖じ気づいてしまうなんて...
本当に自分は嫌になってしまう。
それでも、セドリックと一緒にいたいと思ってしまうのは我儘なことだとはわかっている。
でも、でも...
ここ数日、頭の中で何十回も繰り広げてきた自問自答がまたひょっこりと顔を出し始めていた。
まだ四方八方から視線が集まる中、リースに手を引かれ、セドリックに指定された場所までゆっくりと歩みを進める。
すると、前方の方にローブ姿の灰色髪の長身の青年の姿が目に入ってきた。
「セドリ...」
久しぶりに会えたことが嬉しくて、リースの手を放し、セドリックに駆け寄ろうとした。
「アンナあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「きゃあああっ!!!」
真横から突如、わたしの名前を叫ぶ人物が現れ、咄嗟に手を上げてしまった。
しまった...!!!
「ご、ごめんなさい...!驚いてしまって、つい...」
目の前の人物に、叩いてしまった非礼を詫びるために顔を上げると、そこには見慣れた顔が笑顔で赤くなった頬を押さえていた。
「さすがだね、アンナ。見事な危機回避能力だ。兄として、とても誇らしく思うよ」
「あ、アンドリュー!?」
双子の兄の登場に、わたしは目を見開く。
確かにアンドリューもこの学校に通っているのだが、今回の訪問については話していない。
話がややこしくなりそうだったから、セドリックにも、アンドリューには内密にとお願いしたはずなのに、どうして...!?
「アンナー!!!会いたかったよー!!もうここ最近ずーっと紙とにらめっこしてたから、さすがに疲れたよーーー!!!もしかして、そんな僕を慰めに来てくれたのかい!?」
「そんなわけないでしょ!!てか、離して!!」
外で、しかも大勢の人に見られてる中、アンドリューがいつものように抱きついてくるため、必死に引っ剥がそうとするもびくともしない。
頬ずりしようとしてくるアンドリューの顔を手で押さえ、必死に抵抗していると、驚きの声が近くで上がった。
「うわっ、ついにアンドリューがおかしくなって、妹の姿で徘徊してるって聞きつけて来てみたら、二人いる...!!」
「本当に、双子だったのか...!!」
二人の見知らぬ青年が、わたしとアンドリューの顔を交互に見てくる。
「失敬だな、君たち!!僕はアンナそのものになりたいんじゃなくて、アンナの兄として存在したいんだ!!君たちは、長年いったい僕の何を見てきていたんだい!?ガッカリだよ!!!」
顔見知りなのか、その二人の青年の姿を確認するなり、アンドリューが意味のわからないことを訴えている。
「いや、お前のことはいつまで経ってもわかんないよ」
「これから、理解しようとも思えないしね」
「ひっどい!!!君たちには失望したよ!!!友達だと思ってたのに!!!」
アンドリューとの絡み方が慣れを感じるので、彼らはきっとアンドリューと親しい仲なのだろう。
「あっ、そうだ!丁度いい機会だから、君たちにも紹介しておくよ。この可愛くて可愛くて仕方がない彼女が僕の最愛の双子の妹、アンナさ。君たちも僕の話で、存在は知っているはずだろう?」
「存在というか...」
「まぁ...知ってるっちゃ知ってるな」
なにか含みのある二人の言葉に、アンドリューが普段わたしのことをどんな風に伝えているのか心配になった。
以前、セドリックからわたしのことは寄宿学校でアンドリューからよく聞いていたと言っていたから、きっと彼らもそうなのだろう。
「そして、アンナ。こちら、右がロビン君と左がダニエル君。僕の学友たちさ!」
「セットで紹介するな」
「扱い方の落差が露骨」
右の眼鏡をかけている黒髪の青年がロビンさん、左の赤毛でそばかすの青年がダニエルさんね。
未だに抱きついてくるアンドリューを払い除け、わたしは二人の前でお辞儀をする。
「はじめまして、アンナ・グランヴィルと申します。いつも、兄がお世話になっております。ご迷惑をおかけしていると思いますが、これからも、どうかよろしくお願いいたします」
いつもアンドリューが迷惑をかけていることへのお礼を含めて、自己紹介の挨拶をして顔を上げると、二人が目を見開いたまま固まっていた。
何に対しても、疑心暗鬼になりつつあるわたしは不安になり涙目でリースの方を見ると、気にするなと言わんばかりの鋭い眼差しで睨んでくる。
「...なるほど」
「やっと、腑に落ちたわ...」
その睨みにも萎縮してしまったため、ロビンさんとダニエルさんが小さく呟いた言葉はわたしの耳に入ってはこなかった。
「アンナ」
今すぐにでも泣いてしまいそうになっていると、頭上から愛しい声が聞こえてきた。
見上げると、セドリックが目の前にいる。
「セドリッ...」
嬉しさが込み上げて、名前を呼ぼうとする。
「双子ではないか!!」
しかし、その声はわたしとセドリックの間を突然割って入ってきたリチャード王太子殿下によって遮られた。
リチャード殿下の登場の勢いに押され、一歩後ろに下がると、後ろにいたアンドリューに肩を掴まれ、体を支えられる。
そんなわたしたちを食い入るように交互に見たリチャード殿下は大きく頷いた。
「ローブを着ている方がアンドリューで、そうでないほうが妹だな!!!」
交互にビシッと指さされ、何のことかわからず目を瞬かせる。
「正解だよ、リチャード!!!さすがだね!!!」
「いや、どっからどう見てもそうですよ」
「逆にどうやったら見間違えるんですか」
アンドリューが意味のわからない返しをすると、ロビンさんとダニエルさんがすかさず突っ込みを入れる。
「ふははははは、そうだろ、そうだろ!!これで俺の目も節穴ではなくなったな!!!」
自分の都合のいいことしか耳に入っていないのか、リチャード殿下は得意げに高笑いする。
いつの間にか人がどんどん増えていき、リチャード殿下が現れたおかげでだいぶ騒がしくなってきている。
わたしは、ただ、セドリックと話したいだけなのに...
この騒ぎを黙って静観しているセドリックをなんとかここから連れ出したくても、アンドリューに肩を掴まれてしまっている。
助けを求めるようにリースに振り向くも、彼女もこの状況は想定していなかったのか小さく首を横に振る。
「よしっ、試験も飽きてきた頃だし、僕がアンナに学校を案内してあげよう!!」
「さすがに卒業できなくなるぞ」
「後で、どうなっても助けないからな」
アンドリューに手を引かれて、どこかに連れて行かれそうになる。
「面白そうだ、俺もついて行ってやろう」
「えー、リチャードも来るの?僕、怒られないよね?」
「無論だ!!何故なら俺は王太子だからな!!!」
リチャード殿下の高笑いがうるさい。
騒ぎのせいで周りからの視線がますます突き刺さってくる。
ここ最近の寝不足もあり、段々と頭が回らなくなってきたわたしの中で、何かがぷつりと切れた。
「もぉぉぉ!!!うるさい、うるさい!!!わたしは、セドリックに会いに来たの!!!!!」
我慢の限界が来て、大声で叫ぶと、その場が一瞬にして静まり返った。
その隙にわたしは、アンドリューの手を払い除け、セドリックの腕を掴んだ。
そのまま、セドリックの腕を引いて、人集りから抜け出す。
「あぁ、アンナ!!僕を置いて、どこに行くんだい!?」
「うるさい!!ついてきたら、絶交だからね!!絶対だから!!!」
後ろからアンドリューの悲痛な声が聞こえてきたが、威圧的に返した。
とにかく人気が少ない場所を探して、がむしゃらに歩いた。
「アンナ...僕は、悲しいよ...」
アンナがセドリックを連れて行く背中を眺めながら、アンドリューはわざとらしく涙ぐんだ。
ロビンとダニエルは、アンドリューから聞き及んでいたアンナをやっとのことで目の当たりにし、長年兄に苦労していたことがよくわかった。
それと同時に振り回されているだけではないと知って、あのぐらいの威勢のよさがないとアンドリューの妹は務まらないなと感心してしまった。
「ふはははは、やはり肝が座っている。アンドリュー、お前ら兄妹はやはり面白い!!」
面白い展開が見られたおかげでリチャードは上機嫌に高笑いをする。
「ちぇー、つまらないの」
その横で、アンドリューは唇を尖らせる。
学校内で随一の問題児であるアンドリューの噂の妹を一目見ようと集まっていた人々がアンナがいなくなったことによって、徐々に周りが静かになっていく。
そろそろ自分たちも次の試験の準備でもするかとロビンとダニエルがその場から離れようとする。
「......リチャード、前に鳥になりたいって言ってなかった?」
「ほう...、面白そうだな。話してみよ」
しかし、その一言を聞いた瞬間、ロビンとダニエルは揃って足を止めた。
経験上、この男がこういう話題を持ち出した時に碌なことになった試しがない。
・
喧騒から抜け出し、人気が少ない方に向かって歩いていると、どこだかわからないところに来てしまった。
周りは林で、近くに東屋がある。
無我夢中で歩いていたため、どこから来たのかさえも覚えていない。
急に心細くなり、セドリックを振り返ると、ほんの少しだけ口元が緩んでいるような気がした。
「...どうしたの、セドリック?」
「いや...、何でもない」
どことなく機嫌が良さそうなセドリックに首を傾げるも、まぁ機嫌が悪いよりはいいかなと深く追求しようとは思わなかった。
「...それより、アンナ。わたしに、話したいことがあるのだろう」
「え、えぇ...」
セドリックの腕から手を離すと、今度はわたしの手が握られる。
そのままわたしの体を引き寄せると、もう片方の手で頬に触れる。
至近距離に灰色の瞳があり、咄嗟に目を伏せる。
親指で頬を撫でられ、無意識に体が跳ねる。
「...顔色が悪い。休めていないのか?」
すぐに見破られてしまい、思わず頷いてしまった。
僅かに眉を寄せたセドリックはわたしの手を引き、すぐ近くの東屋の腰掛けに座らせた。
「何が、あった?」
目線を合わせるように膝を折り、灰色の瞳に真っ直ぐ見据えられる。
その瞳に吸い寄せられるように、わたしはぽつりと心の内を吐露したのである。
大聖堂で結婚式を執り行うことによる不安から始まり、最終的に自分がセドリックの評判を落としかねないかという懸念まで口にしてしまった。
その間、セドリックはずっとわたしの両手を包み込み、真っ直ぐわたしを見つめ、最後まで話を遮ることなく静かに聞いてくれていた。
最後のほうは、自分でも何を言っているのかわからなくなってしまい、段々と鼻声になっていくのがわかる。
このままだと涙が零れ落ちそうになり、必死に堪えていると、両手を包んでいたセドリックの手に力が籠る。
「...アンナ」
名前を呼ばれ、伏し目がちだった瞳をセドリックに向ける。
「君は、君の選択を信じるだけでいい」
柔らかく目を細めるセドリックが静かに声を落とした。
慰めるための言葉ではないのに、涙がぽろりと瞳から溢れる。
「君が選んだ男が、侯爵家の人間だったということだけだ。君が、気に病むようなことではない」
ずっと堪えていたせいか、涙がとめどなく溢れてきて、頬を濡らしていく。
セドリックの指がその頬をゆっくりと撫でる。
「それとも、わたしが侯爵家の人間であることで、わたしとの結婚がイヤになってしまったのだろうか」
その問いに、わたしは全力で首を横に振る。
安堵したように息を漏らしたセドリックがわたしの隣へと腰掛ける。
そして、そのままわたしの額へと優しく口付けを落とす。
「アンナ、わたしは君の選択を何よりも尊重しよう。尊重したうえで、わたしに差し出せるものなら、全て差し出そう。もし、君が不安に思うなら、君と生きるためにわたしは喜んで、この名を捨てることだって厭わない」
静かに、しかしはっきりとした強い意志を感じさせる声だった。
何も、怖がることなんてなかったのだ。
セドリックがこんなにも愛してくれている。
それ以上に、わたしは何を求めていたのだろうか。
さっきまで胸の内に蔓延っていた不安が、ゆっくりと薄れていく。
不安が少しずつほどけていき、最後に残ったのは、セドリックへの確かな愛だった。
涙が止まらず、何も言えなくても、セドリックはただ静かに隣にいてくれる。
それだけでもう、心は十分に満たされていった。
・
結局、セドリックはわたしが泣き止むまで、手を繋ぎながら隣にいてくれた。
どのくらい時間が経ったのか、鼻を小さくすすると、近くの茂みから何かが動く音が聞こえてきた。
「誰だ」
わたしの体を守るように、自分の体で覆い隠したセドリックが茂みに低い声を向ける。
すると、茂みの近くの木の裏から赤毛の青年、ダニエルさんが姿を現した。
「悪い、セドリック」
「取り込み中だ」
「話だけでも聞いてほしい」
「後にしてくれ」
セドリックから強く拒まれているが引く様子のないダニエルさんは、どこか困り果てたように眉尻を下げている。
話を聞いてあげるだけでもいいのではないかと、セドリックのローブを引っ張る。
その動きだけで、わたしの意図が伝わってくれたのか、セドリックは小さくため息をついた。
「手短に話してくれ」
「すまない、セドリック...。リチャード殿下が、鳥になりそうなんだ...!!」
理解不能な言葉を耳にして、一瞬思考が止まる。
セドリックも眉間にシワを寄せ、表情を強張らせる。
こんな意味不明なことを口にしたダニエルさんの顔は真剣そのもので、冗談を言ってるようには見えなかった。
「すまない...、もう少しだけ詳しく話してくれないか」
「俺も自分で何を言っているのかわからないんだ...。突然アンドリューがリチャード殿下に鳥になってみないかって提案したと思ったら、阻止する間に二人とも忽然と姿を消して、探しているうちに鳥小屋の鳩が全ていなくなったと騒ぎが起きたと思ったら、無数の鳩と紐に繋がった殿下が突如として時計塔の上に現れたんだ...」
詳細を聞いても、理解が及ばず困惑していると、セドリックが前髪をかき分け、大きくため息を吐いた。
「......すまない、アンナ」
セドリックが申し訳なさそうに頭を垂れるも、わたしは小さく首を振る。
「仕方ないわ、セドリック。悪いのは、アンドリューとリチャード殿下よ。みなさん、困っていると思うから、早く行ってあげて」
きっとあの二人を止められるのはセドリックしかいないから、ダニエルさんも無理を承知で探しに来たのだろう。
「...わたしも、すぐに行く。先に向かってくれ」
「本当に、すまない...!!助かる!!」
安堵の表情を浮かべたダニエルさんが背中を向け、走り去っていく。
「本当に、すまない。この埋め合わせは、また今度、必ず」
「わたしは、もう大丈夫よ。ありがとう、セドリック」
セドリックが気に留めないように笑ってみせると、名残惜しそうにゆっくりと手が離れていく。
「リースと合流したら気をつけて、戻ってくれ。くれぐれも、一人で行動しないように」
「わかったわ、ありがとう。セドリックも気をつけてね」
ダニエルさんの後を追うセドリックを、笑顔で見送る。
しかし、何を思ったのかまたすぐに戻ってきた。
「忘れ物だ」
そう言って、身を屈めると、セドリックの唇が軽くわたしのものに触れる。
不意打ちで目を丸くすると、セドリックが目を細め、小さく微笑む。
そして、今度こそわたしに背を向け、鳥になろうとしているリチャード殿下のもとへと走り去ってしまった。




