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49.



庭園内の温室は、リスタータ王国より遥か南に生息する植物が栽培されている。


なので、温室に足を踏み入れた瞬間、高すぎる湿度と室温によって、むわついた空気が一気に押し寄せてきた。


これは、中々厳しい暑さね...。


ただでさえ今日は日差しが強く、気温が高い。


じわりとした汗が出てきて、肌がベタついていく。


薄手のサマードレスを着ててもこんなに暑いのに、ジャケットまで着込んでいるセドリックは大丈夫かと隣に視線を向ける。


横顔からはあまり表情が読み取ることは出来ないが、首筋に汗が滲み出ているのが見えた。



「....セドリックって、北のほうの出身よね」


「...そうだが」


「もしかして、...暑いのってあんまり得意じゃない?」


「............」



沈黙が長い。


視線を合わせようとしない。



「やっぱり、我慢してるんじゃない。無理はよくないわ、脱いだほうがいいわ」


「....このぐらい、問題ない」



問題ないって、それは無理があるんじゃない?


汗は止まらないままだし、なんなら微妙に息も上がってきている。


本当に、自分のことに無頓着というか、自覚が薄いというか...。


とにかく、このままだとよくないわ!!


セドリックに一歩詰め寄る。



「本当に?」

 


ぐい、と顔を覗き込むようにして問いかける。


至近距離で視線を合わせると、セドリックがわずかに眉を寄せた。



「......」

 


ほんの一瞬、言葉が途切れる。


その沈黙が、答えみたいなものだった。

 


「ほら、やっぱり」

 


半ば強引に、その腕に触れる。


思ってたより、ずっと熱い。


思っていた以上に体温が上がっているのが、指先越しに伝わってきた。

 


「このまま倒れられても困るもの。.....脱いでちょうだい」

 


責めるでもなく、ただ当然のように言う。

 

セドリックがわずかに顔を背ける。

 


「......この程度、問題ない」

 


短い拒絶。


でも、その声はさっきより少しだけ硬い。

 


「問題あるわ」

 


間を置かずに返す。

 


「顔色、良くないもの」

 

 

軽く促すように、指先で袖を引く。

 


「......わかった」

 


ようやく観念したように、ジャケットのボタンに手をかける。


一つ、また一つと外されていくたびに、妙に視線のやり場に困る。

 

するりと上着が肩から落ちた。

 

その瞬間。

 

今まで隠れていた肩のラインや腕の輪郭が露わになって、思わず息を呑む。

 

視線が、一瞬だけ止まる。

 

薄いシャツ越しに分かる体格の良さと、ほんのり汗を帯びた首筋。


さっきまでと同じ人のはずなのに、どこか印象が違って見えた。

 


「......楽になった」

 


短くそう言って、セドリックが軽く息を整える。


その声が、少しだけ低く聞こえた気がした。

 


「そうでしょう?」

 


平静を装って返すが、心臓の音がやけにうるさい。

 

近い。

 

さっきと距離は変わっていないはずなのに、妙に近く感じる。

 


「アンナ?」

 


不思議そうに名前を呼ばれて、はっとする。

 


「な、なんでもないわ」

 


慌てて視線を逸らす。


でも一度意識してしまうと、もう元には戻れない。

 

視界の端に入る腕や首元に、どうしても目がいってしまう。



「......そうか」

 


セドリックは特に気にした様子もなく、いつも通りの調子でわたしの手を引いて、歩き出した。

 

ずるい。

 

自分だけ、こんなに意識しているなんて。

 

さっきまで感じていた暑さとは、少し違う熱が、まだ体の奥に残っていた。





庭園を出て、街の方へ赴くと、路上に露店が立ち並んでいた。


そういえば、もうすぐ太陽の恵みに感謝する日。


太陽の昇る時間が1年で一番長くなる日のお祭りである。


まだ準備期間中のようだが、いくつかの露店はすでに店を開いている。


見慣れない果実や色鮮やかな品々が並び、思わず視線が引き寄せられた。



「...見に行くか?」


「えっ、いやっ、その...」



セドリックの提案に言葉を詰まらせる。


行きたい気持ちはあるのだが、冬の終わりを祝う日のことを思い出す。


夢中になって苗を見て回った結果、気づけばとんでもない量をセドリックに買わせてしまっていた、あの出来事。


今回もその二の舞になりかねないと、少したじろぐ。


しかし、わたしの反応をよそに、セドリックが手を引いて、歩き出す。



「構わない。行こう」


「でも....」


「わたしに遠慮は不要だ」



少しだけ強引に手を引かれたまま、露店へと向かった。


....こういうときは、やっぱり強引よね。





やってしまった....。


結局、思った通りの展開になってしまった。


馬車に揺られながら、目の前にセドリックが座っているのに関わらず、大きくため息を吐き、項垂れる。


膝の上に乗せているスイカがずっしりと重たい。


あの後、露店に並べられた色とりどりの果実に目を輝かせていると、露店の店主に試食を薦められた。


食べてみるととってもみずみずしくて、初めての味に感動していると、あれもこれもと次々と出てきて、何も考えずに食べてしまっていた。


気付いたら、セドリックがわたしが食べた種類の数だけ購入しようとしてて、全力で止めた。


流石にあの量を全部食べることが出来ないので、1種類だけにしてとお願いしたら、渋々承諾してくれた。


そして、買ってもらったのが一番最初に食べてあまりの美味しさに衝撃を受けた、スイカである。


しかし、何かに夢中になると、周りが見えなくなるこの癖を治さないと...


己の行動の幼稚さに落ち込んでいたため、膝の上の重みばかりが気になって、行き先のことなど頭から抜け落ちていた。




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