47.
セドリックのお見舞いに行って少しして、わたしはアンドリューと一緒にグランヴィルの屋敷へと帰った。
死んだはずのアンドリューが帰ってきたということで、最初のころは優しく接していたが、すぐにアンドリューの破天荒ぶりに振り回される毎日に戻っていった。
そんなアンドリューも、このままだと寄宿学校を卒業できないということで、慌ただしく王都へと逆戻りしたのであった。
わたしはというと、以前と変わらないのんびりとした日常を過ごしている。
花壇の土をいじり、花に水をあげて、読書をして、お茶を飲みながら日向ぼっこをする。
そんな変わり映えしない毎日だが、変わったことも少しだけある。
「お嬢様ー、本日のお返事です」
「えっ、もう来たの!?」
土で汚れた手を払い、手紙を受け取る。
差出人にセドリックの名前が書かれていた。
あれから、セドリックと手紙のやり取りをしている。
始めは近況を報告する軽い気持ちで出したんだけど、セドリックの反応が予想以上のものだった。
まず返事が返ってくるのがとにかく早い。
わたしが二、三日かけて返すのに、セドリックの返事は次の日には届く。
たまに朝出した手紙に、その日のうちに返事が来たこともあって、リースがドン引きしていた。
そして中身とは言うと、一見事務的に見えるが、端々にセドリックの想いが綴られていた。
直接的な表現は一つもないが、わたしに対する気持ちがにじみ出ており、読む度に頬が焼けそうになるぐらい熱くなった。
手紙の内容から、どうやらセドリックも体がだいぶ回復したようで、彼も寄宿学校に戻っている。
そこで相変わらずアンドリューやリチャード王太子殿下に振り回されて、騒がしい日々を過ごしているらしい。
これで何もかも元通り。
よかった、よかったと胸を撫で下ろしたのも束の間、セドリックからデートのお誘いが届いたのだ。
ついに、来てしまったか...。
実のところ、セドリックが行動を起こすことに内心怯えていた。
あの時、指先に口付けされたとき、絶対に逃がすものかと強い意思を感じ取ってしまった。
たぶん、次に会った時に告白される。
告白されたらわたし、どうしたらいいんだろう....。
数日、悩んだ末、わたしはセドリックに返事を送った。
.....とりあえず、新しい服を新調しよう。
・
デート当日。
馬車から降りると、眩しさで一瞬視界が遮られる。
持っていた日傘を差し、雲一つない空を見上げる。
太陽が日差しが肌を照りつけるほどの快晴日だった。
逸る気持ちを抑えるように日傘の柄をクルクルと回しながら、待ち合わせ場所まで歩みを進める。
待ち合わせ場所の噴水が見えてきた。
その傍らに灰色の髪の青年が立っている。
日差しが強い中、チャコールグレーのジャケットをしっかりと着込んでいるのに、暑さを全く感じさせない佇まいである。
王都の中心に位置する噴水なので、人通りが比較的に多い場所なのだが、その中でも十分に存在感を放っている。
少し離れた場所でセドリックを眺めていると、彼もこちらに気付いたのか視線が合った。
胸が高鳴ったのも束の間、瞬く間にセドリックが目の前まで近付いてきた。
久しぶりの再会だったので、気恥ずかしさもあり、少し俯きがちになる。
しかし、すぐに顔を上げ、笑顔で挨拶する。
「ごきげんよう、セドリック」
「.....ごきげんよう、アンナ」
セドリックが小さく微笑む。
その笑みがなんだがむず痒くて、無意識に日傘をクルクルと回す。
セドリックの視線が、少し下がる。
視線が胸元から裾へと滑り、ほんの一瞬だけ止まる。
淡いクリーム色のドレスは軽やかで、重なるシフォンがやわらかく揺れていた。
「....その、格好...」
「あぁ、これ。とても可愛いでしょ?」
全体を見せるように、その場で一回転する。
この日のために新調したサマードレス。
選んでる時にいつものようにリースが茶々を入れてきたが、割と好みのドレスを選べたと思う。
淡いクリーム色のエンパイアラインのドレス。
軽やかなシフォンが重なったスカートが、動くたびにふわりと揺れる。
ウエストには細いレースのリボン。後ろで結ばれていて、とても可愛い。
「よく、似合っている」
「本当に?嬉しいわ」
自分好みの服を褒められて、少しいい気分になっていたので油断していた。
「とても、君らしい」
「!」
不意打ちを食らい、赤面する。
君らしいって......どういう意味だろう。
セドリックの言葉に狼狽えていると、目の前に手が差し出される。
「それでは、行こうか」
少しだけ照れくさいが、セドリックの大きな手に手を重ねる。
重ねた手を確かめるように指でなぞられ、ゆっくりと握られる。
そのまま、ほどけることなく手を引かれて歩き出した。




