45.
あれから数日が経ち、セドリックは順調に回復しているらしい。
毎日、王宮に行っているアンドリューからセドリックの話を聞かされると、胸が妙に落ち着かない。
平静を装っていたが、アンドリューにはすぐバレて、そんなに気になるなら会いに行けばいいじゃんって言われてしまったが、それが出来ないから困ってるんでしょうが!!
本当は、今すぐにでも会いに行きたい。
怪我の様子も気になるし、きちんとお礼も言いたい。
けれど、つい先日、自分から終わらせたばかりだ。
それなのに、会いに行くなんて。
……できるわけ、ない。
そんな葛藤をずーっと頭の中で繰り広げている。
そんな悶々とした日々を過ごしていたある日、アンドリューがとんでもないことを言い出した。
「今日、セドリックのお見舞いに行ったときにアンナのことを言っておいたよ」
思わず、持っていたティーカップを落としそうになる。
「......えっ」
「だから、セドリックに、アンナがセドリックに会いたがってるって言っておいたよ」
言ってることが一瞬、理解できなかった。
思考が停止しているわたしをよそに、目の前のアンドリューは特に気にする素振りも見せずに続ける。
「そしたらセドリック、いつでも来たい時に来ればいいって言ってたよ。よかったね」
....よかったね?
人が散々悩んでいることを、軽い気持ちで本人に言うって、どういう神経してるんだ、この男は。
しかも、何でもないようにへらへらと笑ってて、怒りが徐々に湧き上がってくる。
「....アンドリューー!!!!」
笑顔のアンドリューの頬を思いっきりつねる。
「えっ、何々!?僕、なんかした?」
自分が何をしでかしたのかわかっていない風を装うアンドリューに更に苛立ち、頬を更に引っ張る。
余計なことをーーーーー!!!!
・
そんな出来事があった数日後、わたしはセドリックの病室の前に佇んでいた。
アンドリューの爆弾発言のあとも、すぐには会いに行かなかった。
毎日のようにアンドリューから行かないの?今日も行かないの?って催促が鬱陶しかったが、それにも耐え続けた。
なのに、結局来てしまった。
自分の意志の弱さに呆れつつ、内心少しだけ浮き足立っている。
......だって、セドリックが来てもいいって言うんだもん。
あとは扉をノックして、中に入るだけ。
それだけでいいのに、その一歩が踏み出せずにいる。
中に入ったら、姿を確認して、挨拶して、少し話すだけ。
たったそれだけ。
どうして、中に入ることができないの!?
「ちょっと、あんた。大丈夫かい?」
悶々と悩んでいると、後ろから誰かに肩を叩かれ、後ろを振り向く。
医療服を身に纏った、恰幅のよい女性が気がかりな様子で見てくる。
「あんた、さっきから下向いて、全然動かないじゃないか。どこか悪いのか?」
「えっ、いや、えっと...ただお見舞いに...」
突然声をかけられ、しどろもどろに答えると、その女性は納得したように大きく頷いた。
「あぁ、レッドフィールド侯爵ご子息のね。だったら、ここで合っているよ」
そして彼女はあろうことか、扉をノックし出したのである。
「レッドフィールドさん、今日もお見舞いが来てますよー」
ひぃぃ、なんてことを...!!
予想外の出来事に悲鳴を上げそうになるも、なんとか堪える。
女性を止めようと、腕を引こうとするも、部屋の中からセドリックが短く返事する声が聞こえてきた。
その声に刹那動きが止まってしまい、その隙に扉を開けられてしまった。
明るい光の差し込む病室。
ベッドの上で本を読んでいたセドリックが、顔を上げる。
一瞬だけ目が合った気がしたが、すぐにセドリックから視線を逸らしてしまう。
久しぶりに見た、セドリックの姿に思わずその場に固まる。
鼓動が急速に早くなり、頭が真っ白になる。
「それじゃあ、あとはごゆっくり」
女性に腰を押され、無理やり部屋の中に入れられると、無情にもすぐに扉を閉められてしまった。
入り口に立ったまま、何も言えない。
頭が真っ白になる。
「....アンナ」
名前を呼ぶ声に、肩を揺らす。
恐る恐る顔を上げると、灰色の瞳が真っ直ぐわたしを見ている。
その表情がとても穏やかで、胸がきゅうぅと締め付けられる。
セドリックが、自分の傍らを軽く叩いた。
ベッドの傍らに小さな椅子が置いてある。
座れって、ことかな...。
さっきまで床に縫い付けられたように動かなった足が、勝手に動く。
なんて単純なんだと自分に呆れつつ、その椅子に座った。




