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43.




「まさか、あの毒をあの場で使うとは、さすがの僕も予想外だったよ」



目の前に座る、双子の兄、アンドリューが呆れたように額に手を当てる。



「貰ったものをどう使うかはわたしの勝手でしょ。...でもまぁ、結局わたしが飲む羽目になったんだけどね」


「アンナは昔から、運がないんだから賭け事に向いてないよ」


「...うるさいわね」



アンドリューを睨み上げたが、気にする様子もなくへらへらと笑っていた。


今は、王都の宿泊先から王宮へ向かう馬車の中で、向かい合せに座るアンドリューとあの日のことを話している。


あの日、セドリックが担ぎ出された後、わたしとアンドリューも王宮へと、連れて行かれた。


王宮に着いて早々、ナイターさんに首元を掴まれ別の場所へと引きずられていくアンドリューとは別れた。


わたしは、迎えに来てくれたフレデリカ王女殿下の護衛騎士、シノン様についていくと、ベッド付きの豪勢な部屋へと案内された。


とにかく今は休めと言われ、服を脱がされ、身を清められ、気が付いたらベッドに横たわっていた。


セドリックの容態や、アンドリューのことを考えると休める気がしなかったが、体はどうやら正直で、普通に眠ってしまっていた。


次の日、応接間へと案内されると、そこにはリチャード王太子殿下とアンドリューが既にいて、先日の騒動について色々と聞かれたし、聞かされた。


一連の流れはベアトリクスに聞いた通りだった。


驚いたのはアンドリューが国王直属の諜報部隊に所属していて、秘密裏にベアトリクスたちの計画を破綻させようとしていたということだ。


いつの間に、そんな大層な役職についたんだろうと疑問に思ったが、どうやらリチャード王太子殿下も知らなかったらしい。


アンドリュー曰く、



「えっ、だって僕は国王直属なんだから、別にリチャードに言う必要なくない?」



とあっけらかんとした態度だった。


ついでにどうやって自分の死を偽装していたのかと問うと、



「別に偽装したわけじゃないよ。みんなが勝手に僕が死んだって誤解してくれてて、そっちのほうが都合がよかったからこのまま死んだことにしておこーって思っただけ」



いつもの軽い感じで返ってきたので、こんなやつのために悲しんで自殺未遂までした自分が馬鹿のように思えてきた。


ほんっとうに人騒がせなやつ!!!


セドリックはまだ危険な状態だが、一命は取り留めたらしい。


それを聞いて、緊張の糸が解けるように安堵した。


今すぐ様子を見に行きたかったが、まだ人と話せる状態ではないので、暫く面会は遠慮して欲しいと。


セドリックの話を聞いて、落ち着かない様子のわたしを見て、アンドリューはニヤニヤと口角を上げ、からかってきた。



「なんだい、アンナ。僕がいない間に、随分とセドリックと仲良くなってるじゃないか。...さては、惚れたね。セドリックのことが好きなんだね」



一瞬で見破られ、図星を突かれたので、これ以上口が出せぬよう、アンドリューの頬を目一杯引っ張ってやった。


それが数日前の出来事である。


その後は騒動の取り調べや、後始末のためアンドリューは暫く王都に留まるということなので、わたしもそれに便乗させてもらうことにした。


だって、セドリックのことが気になるし...。


それに、まだやり残したことがある。


今日はそれを終わらせるために、王宮に向かっている。



「...まぁ、でもそんなこともあろうかと解毒剤も一緒に入れといてよかったよ。さっすが僕」



自画自賛するアンドリューを尻目に、ふと疑問に思った事を口にした。



「そういえば、アンドリューが持ってるペンダントにも同じ毒が入ってるの?」


「もちろんだよ。ただし、僕の方は即死性の毒で、解毒剤も仕込んでないんだけどね」



アンドリューは胸元からわたしが持っているものとお揃いのペンダントを取り出した。


そしてさらりと恐ろしいことをなんでもないように言ってのけた。



「そう...。じゃあ、それ今すぐ捨てて頂戴」


「....は?」



アンドリューの動きが一瞬、止まる。


そして、わたしから隠すようにペンダントを握りしめ、胸元に抱き寄せた。



「いや、いやいやいや。何言ってるんだい、アンナ!?これは僕にとってのお守りだよ!!君にもしものことがあったら、すぐにでも後を追えるようにって」


「そうね、でもわたしのはもうなくなってしまったわ。それじゃあ、わたしにも同じものをくれない?」



アンドリューが目を丸くする。



「そんなの...、もう君には必要ないだろう?」


「どうして?」


「どうしてって...、君は僕がいなくても、生きててくれてたじゃないか....」



アンドリューの言葉に、目を伏せる。



「....そうね。でも、苦しくなかったわけじゃなかった。何度も死にたいと願ったわ」


「だったら、わかるはずだろう?僕にこれが必要な理由が」



痛いぐらいにわかる。


わたしが、アンドリューがいなくなって死にたくなったように、アンドリューもきっとわたしがいなくなったら迷わず死を選ぶということを。


しかも、アンドリューはわたしと違い、死を恐れることなく、すぐに毒を飲むぐらいの狂気が孕んでいるということにも。


その証拠に、わたしに用意したのは遅効性の毒のくせに、自分用に即死性のものを準備している。



「だからよ、アンドリュー。あなただって、わたしの言いたいことぐらいわかってるでしょう」


「....」



アンドリューが口を閉ざす。


やっぱり、そう。


全てをわかるわけではないが、わたしたちはどうあっても双子。


お互い何を考えて、どんな意図も持って行動しているのかなんとなく察することができる。


だから、わたしが何故こんな事を言い出したかなんてアンドリューはとっくに気付いてるくせにそれをはぐらかしてくる。



「...アンドリュー、あなたがいなくなっても、わたしを生かしたかったように、わたしも、あなたに後を追ってきてほしいとは思っていないわ」



アンドリューのペンダントを一層強く握るのが見えた。



「....ひどいな、アンナ。僕に一生苦しめって言うのか。君のいない世界で」


「ええ、そうよ。あなただってそうしたじゃない。よくもまぁ、そんなこと言えるわね」



呆れるように、ため息を漏らす。


自分はどんな手段を使ってもわたしを生かそうとしたくせに、わたしにはそれを許さないってとんだワガママね。


わたしは、反対側に座るアンドリューのペンダントを握る右手にそっと触れる。



「ねぇ、アンドリュー。あなたがいなくなったことでたくさんの人が悲しんでいたことはわかってる?」



伏し目がちだったアンドリューの瞳がわたしに向けられる。


わたしと同じ、栗色の瞳。



「お母様をもちろん、あの適当極まりないお父様だってあなたの死を悲しんでた。家族だけじゃないわ。セドリックやリチャード王太子殿下....それに、フレデリカ王女殿下も」



フレデリカ王女殿下の名前で、アンドリューの指が微かに反応する。



「アンドリュー、もうわたしたち、二人だけの世界にいるのはやめましょう。わたしたちは、双子だからって、死んでも一緒っていうわけにはいかなくなったのよ」



わたしとアンドリューは、二人で一つ。


今まではそれが支えではあったが、同時に足枷にもなっていた。



「わたしの、大切なアンドリュー。わたしが、大丈夫だったんだから、あなたもきっと大丈夫よ」



触れている指に力を込める。



「だから、もうお守りは必要ないでしょう?」



徐々に緩んでいたアンドリューの手の中からペンダントのロケット部分をそっと引き抜いた。


ロケットを開き、表面を3回ほど押すと、粉が入っていた。


すぐにロケットを閉じると、わたしはそのまま横の窓を開け、それを外へと投げ捨てた。



「あぁぁ!!!なんてことするんだ!!ロケットまで捨てることないじゃないか!!!」


「だって、それ以外方法が見つからなかったんだもの」


「だからって...、本当にアンナ、君って...」



アンドリューが名残惜しそうに窓から顔を出す。



「そんなに大切なもの?」


「意地悪言わないでくれよ。君とお揃いの宝物だ。思い入れだってたくさんあったんだ...」



珍しくアンドリューが肩を落とし、落ち込んでいる。


そんなアンドリューの姿を見て、思わず笑みがこぼれる。



「新しいものを揃えればいいじゃない。そこにまた、思い入れでもなんでも入れればいいのよ」



目を瞬かせたアンドリューは、その言葉を聞いて思いっきり吹き出した。



「...それも、そうだね。ほんっとうに、アンナには敵わないや...」



目尻の涙を拭き取り、アンドリューは真っ直ぐとわたしに笑いかける。



「僕の、大切なアンナ。君が生きてくれるだけで、僕は心の底から嬉しい。それだけは忘れないでおくれ」


「わたしもよ、アンドリュー。あなたが生きていてくれて、本当によかった」



二人で手を取り合う。


なんやかんやあったけど、やっぱりアンドリューが生きていてくれたことに、心底安心している。



「僕が一番、大切なのは君だということも」


「...そうね」


「...アンナはセドリックのほうが大切かい?」


「!?」



突然、セドリックの名前が出てきて、驚いて手を離す。



「な、なんで急にそんな...!!!あ、あなただってフレデリカ王女殿下のことどう思ってるのよ?」



動揺を誤魔化すように、アンドリューにも際どい質問を投げかける。


しかし、アンドリューは笑顔を崩さない。



「何のことだい?」


「しらっばくれる気ね!!」


「言ってることが、よくわからないよ」



これ以上聞いてくれるなという圧が笑顔から伝わってくる。


この男...、絶対に言わないつもりだ!!!


そんなわたしたちを乗せた馬車は王宮へと向かっていった。




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