40.
どこだ。
どこにいる。
目に入る扉を手あり次第開けていく。
空っぽな部屋を目の当たりにするたびに、苛立ちが増していく。
手紙に記されていた場所に赴くと、そこには少し古びた外観の屋敷があった。
完全に廃墟とまではいかないが、管理されているようには見えない。
中に入ると、人の気配は感じられなかったが、人がいた痕跡は各所に見受けられた。
ここが敵の本拠地としたらあまりにも簡素すぎる。
違和感はあるはずなのに、それを考えようとすると思考が途切れる。
一刻も早くアンナを見つけ出さないといけない。
そんな焦燥感が、胸を掻き立てる。
頭では、冷静に状況を整理すべきだと理解していた。
だが思考は一つにまとまらない。
アンナが危険に晒される可能性ばかりが、否定しても否定しても消えなかった。
あり得ない。そう切り捨てるべきだ。
それでも、最悪の想定だけが繰り返し浮かび上がる。
どうか、どうか無事であってくれ...。
2階の廊下の突き当たりの扉を乱暴に開けると、その部屋は他の部屋と違い、人の気配が感じられた。
肩で息をしながら、部屋に入ると、天蓋付きのベッドがまず視界に入る。
ベッドの上に横たわる人の姿が見え、急ぎ足で駆け寄る。
アンナが眠るように横たわっており、鼓動が早まる。
傍らに近付き、胸元に耳を傾けると、微かに心臓が脈打つ音が聞こえる。
...生きてる。
だが、すぐに様子がおかしいことに気付く。
血色が良く、明るいアンナの肌が青白く、生気を感じられない。
口元に手をかざすも、呼吸が浅く、今にも途切れそうなほど弱々しい。
「アンナ嬢」
呼びかけに、反応しない。
抱き上げると、ぐったりしており、体に力を感じられない。
「アンナ!!」
体を強く揺さぶっても、目を瞑ったまま動かない。
呼吸の仕方がわからなくなる。
吸っているのか、吐いているのかすらわからない。
腕の中の体が、あまりにも軽い。
視界が段々と狭まる。
...間に合わなかったのか...?
肩を掴む手が震えている。
「...起きてくれ、アンナ。頼む...!」
目覚めないアンナの頬に触れながら、懇願する。
「目を覚まさない」という事実だけが、頭の中で何度も繰り返された。
彼女を失うなど、あっていいはずがない。
そんな結末、認められない。
アンナの体を抱き寄せ、何度も呼びかける。
「アンナ...、お願いだ、アンナ。...アンナっ」
すると、後ろから手の叩く音が聞こえてきた。
振り向くと、椅子に腰掛けている女が、拍手している。
女は、愉悦に浸りきった顔で、口元を歪めていた。
「素晴らしい、素晴らしいよ。まさに、僕が見たかった光景だ。欲を言えば、もう少し泣き叫ぶ姿を期待したけれど、でもこれでも十分満足だ」
女は、拍手を止める。
「ありがとう、アンナ。君のおかげだ」
空気が、張り詰める。
セドリックは何も言わない。
ただ、女を見ていた。
一瞬たりとも目を逸らさない。
「....アンナに、何をした」
声が低く沈む。
抑えているはずなのに、うまく制御できない。
「おっと、誤解しないでくれよ。アンナは、自分で用意した毒を自分から飲んだんだ。僕は、ただ賭けに勝っただけだよ」
「...ふざけるな」
女は、続ける。
「健気で可愛いアンナが、君を助けるために持ちかけてきたんだ。おかげで面白いものが見れたよ」
何かが、音を立てて軋んだ。
奥歯を噛み締める。
気付けば、指先に力が入りすぎていた。
女を睨み続けると、突然表情が消える。
「でも、この結果は僕にとっても不本意だ。僕は別に、アンナに死んでほしいわけじゃない」
女が椅子から立ち上がり、近付いてくる。
「だから、選ぶんだ。セドリック・レッドフィールド」
傍らまで来て、足を止め、見下ろしてくる。
アンナを抱き寄せる腕に、さらに力がこもる。
「君と、アンナ。どっちが生きるべきなのかを」




