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38.



「ここまで話したら、あとは大体わかるよね。アンドリューがいなくなっても、セドリック・レッドフィールドが邪魔なのは変わらなかった。だから、あの舞踏会でなんとか奴の隙でも見つけられないかなーっと接触を図ろうとしたら、......君が現れた」



ベアトリクスは嬉しそうに目を細め、わたしの両手を握る。


嫌悪感で振り払おうとするも、思ったより力が強く、握られたまま話が続けられる。



「奴が初めて見せた執着だ。利用しない手はないと思ったね。...だから、最高に笑える展開にしたくて、君たちの恋路の手助けをしてあげたんだ」



今までにないぐらいの満面の笑みを見せるベアトリクスに全身の毛が逆立つ。


この状況を心の底から楽しんでいるように見えた。


それと、先ほどの話でベアトリクスがわたしとセドリックの関係にやけに食いつきがよく、突拍子もない行動をした理由に合点がいった。


つまり、わたしはベアトリクスの掌で踊らされてたってことだ。


自分の気持ちが弄ばれたように感じ、悔しさが込み上げ、奥歯を強く噛み締める。



「喜んでくれないのかい、アンナ。慣れないお嬢様を演じたり、君の筆跡に似せた手紙を書いたりして、僕、頑張ったんだけどな」


「...セドリックが、来るはずないじゃない...」



ここに連れてこられる前に、セドリックとはお別れしたはずだ。


冷静で合理主義な彼が、こんな見え透いた罠に自分から飛び込んでくるなんて思えない。


しかし、わたしの予想とは裏腹にベアトリクスは目を丸くさせる。



「何、言ってるんだい?アンナ、君はまだわからないのかい?」



肩を押され、ベッドに押し倒される。


髪を一束掴み、ベアトリクスはそのままそれを自身の唇に寄せる。



「他の誰でもない、君だからセドリック・レッドフィールドが来るんだよ。君じゃなきゃ、意味がないんだ」



ベアトリクスの声には絶対的自信が滲み出ている。


...このままだと、本当にセドリックが来てしまう。


来たら、殺されてしまうかもしれない。


そんなの、絶対に嫌。


どうにかして、セドリックを殺させないようにしなきゃ。


でも、どうやって...?


ベアトリクスが常に近くで見張っているため、隙をついて逃げ出すのは難しい。


気付かれないように扉の前に立つ男を観察する。


大きめな外套を着ているので体型はわからないが、かなりの大柄だ。


背中に剣の柄みたいなものが見える。


武器を所持した大柄な男に立ち向かえる腕力などもちろん、持ち合わせていない。


自分の無力さを痛感する。


何か、なにか、ないの?


無意識にペンダントのロケットを強く抱き寄せる。


ロケットの金具が掌に食い込む。


そこで、思い出した。


.......これなら。


狭まっていた視界が広がるような感覚だった。


未だに覆い被さってるベアトリクスを見上げる。



「...喉が渇いたわ...」



唐突な要求に少し驚いたのか、ベアトリクスは目を瞬かせるも、すぐに笑顔に戻る。



「いいよ。君のためだけに、とっておきを淹れてあげよう」



飲み物の準備をするために体を起こしたベアトリクスは、扉の前にいる男に指示を出す。


男は部屋から出ることなく、扉を数回ノックする。


少しすると、廊下からノックする音が聞こえ、男が扉を開け、お盆を受け取る。


それを机の上に置くと、男はまた所定の位置に戻った。



「さて、アンナ。こっちにおいで、最高に美味しいお茶を淹れてあげるから」



まだ少し気怠い体をゆっくりと起こし、ベッドから降りる。


頭痛で少しばかりふらつきはしたが、なんとか椅子があるところまで辿り着き、腰掛ける。


お盆の上には湯気の立つお湯差しと、茶葉、そしてティーポットとティーカップ類の茶器が一通り揃っていた。


ベアトリクスが楽しそうにお茶の準備を始める中、わたしは緊張で喉を鳴らす。


ベアトリクスが今から提案することに乗ってくるかはわからない。


でも、ここで何もしなかったら、きっと後悔してしまう。


震える手を抑え込み、意を決して口を開いた。



「...賭け、をしない?ベアトリクス」



ベアトリクスの動きが止まる。


心臓がゆっくりと大きく鳴り響く。


緊張しているのを悟られぬように、平然を装う。



「ここにね、毒があるの。アンドリューがもしものために、用意してくれてたの」



ベアトリクスの前にペンダントのロケットを差し出す。


以前リチャード殿下がペンダントのロケット部分を確認した時、見つからないか肝を冷やしたが、運良く仕掛けには気付かれなかった。


ロケットを開け、中の板を3回ほど押すと、上部の板が開く。


そこから、乾燥した花びらが姿を現す。


ペンダントをアンドリューから渡されたときからずっと入っていた、もしものためのお守り。


もしもどちらが片方がいなくなったとき、どうしても耐えられない場合の救済処置として。


本当はわたしは、いつでもアンドリューの後を追って死ぬことができたのだ。


ただ、怖かった。


死を望みながら、それを怖がっていた。


アンドリューがいない世界が耐えられないくせに、自ら命を絶つという選択がどうしても出来なかった。


だから、セドリックがわたしを生かそうとしてくれたとき、正直安堵していた。


わたしが死ねないのは、わたしが臆病だからではなく、セドリックが死なせてくれないから。


...ずるいよね。


セドリックの優しさにずっと甘えてたんだから。


でも、それももう終わり。


今度こそ、わたしは死への恐怖になんか負けたりしない。




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