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30.



「...で、その後はどうなったのですか?」



ベアトリクスが瞳を輝かせながら、続きをせがんでくる。



「特に、何も。なんとか立ち上がって、逃げるように馬車で帰ったわ」


「えーーー!!なんでですか!?絶対にこの後、なんかある流れだったじゃないですか!!」



ベアトリクスの泣き言を無視し、お茶を口に含む。


本当にあの後、何もなかった。


というか、軽いパニック状態でどうすることも出来なかったというほうが正しい。


セドリックの顔を見ることが出来ず、花束に顔を埋め、ふらふらな足取りでなんとか馬車に乗って帰れた。


終始セドリックはわたしの体調を気遣って、声をかけ続けてくれてた気がするが、正直あんまり覚えてない。


だから、セドリックとどんな表情で別れたのかも、わからない。



「でも、これで確定しましたね」


「なにが?」


「セドリック様が、アンナ様のことをお慕いしているということが」



ベアトリクスの言葉に、わたしは動きを止める。


ティーカップをソーサーの上に置く。



「...そう、なのかもしれないけど...」


「そうですよ、そうじゃなかったら誕生日にネックレスなんて身に着けるものを贈らないですよ」


「...」



あの日、花の日は確かにわたしとアンドリューの誕生日だった。


今年からわたし一人だけになってしまったけど、二人にとって特別な日。


毎年二人で祝い合ったけど、今年はさすがにそんな気分にはなれなかったので、花を贈るだけにしようとしていたのに...



『今日が君の誕生日なので、用意した』



まさか、セドリックが知っていたなんて思いもよらなかった。


だって、わたし、彼に花の日が誕生日だなんて言ったことないもの。匂わせたこともない。


大方、アンドリューが毎年のように吹聴しまくってたから覚えてたってとこだろう。


だからってあの、贈り物はやり過ぎた。反則過ぎる。


屋敷に戻ってから、ネックレスを改めて見てみた。


細い鎖に、小さな飾りがひとつだけ。控えめなのに、手に取ると、静かに光が揺れていた。


まるで、身につける者に寄り添うように設計されたかのような、落ち着いた美しさを放つネックレスだった。


あんなの貰ったら、誰だって気付くでしょう!?


わたしだって、そこまで鈍くないわ!!


今、思い出しても、火が吹きそうなぐらい顔が熱くなっていく。



「あら、...でも、アンナ様はいただいたネックレスじゃなくて、いつものペンダントを身に着けていらっしゃるのですね」


「あ、うん。こっちのほうが落ち着くから...」



胸元のペンダントに手を添える。


アンドリューとお揃いのペンダント。


セドリックから貰ったネックレスは、箱に入ったまま。一度も身につけてはいない。



「それで、アンナ様はどうなさるのですか?」


「どうって?」


「セドリック様のお気持ちを受け入れるのですか?」



ベアトリクスの言葉に、わたしは首を横に振る。



「セドリックに直接...す、好き...とか言われたわけではないから、そういうのは違うと思うの」


「でも...」


「はい、この話はここでおしまい。わたし、そろそろお暇させてもらうわ」



納得していない様子のベストクスを他所に、無理やり話を終わらせる。


ティーカップに残っていたお茶を飲み干し、席を立とうとしたが、ベアトリクスの一言で止まる。



「それでは、アンナ様はどう思ってらっしゃるんですか?」


「えっ」


「アンナ様は、セドリック様のことどう思ってらっしゃるのですか?」



ベアトリクスが真剣な面持ちで真っ直ぐにこちらを見据えてくる。



「わたしは...」



わたしは、その問いに答えることが出来なかった。





花瓶に飾られている真っ赤なダリアが窓から流れてくる風で少しだけ揺れる。


隣にはネックレスが箱のまま置かれている。


この二つのおかげでここ数日、何をしていても心が妙にざわついて落ち着かない。


心を鎮めるために胸元のペンダントを強く握りしめるも、意識は花とネックレスのほうに向いてしまう。


ベッドの上、天井を眺める。


頭の中では、ベアトリクスの言葉がぐるぐると渦巻いている。



『アンナ様は、セドリック様のことどう思ってらっしゃるのですか?』



わたしは、セドリックのことをどう思っているかか...。


ずっと考えないようにしてたことを直接言われてしまった。


セドリックのことを想うと、胸の奥がじんわりと熱くなる。


離れると寂しくなるのに安堵して、一緒にいると嬉しいのに逃げ出したくなる。


ベッドから起き上がり、机の上のネックレスが入った箱に手を伸ばす。


箱を開け、ネックレスを眺める。


...本当はずっと、気付いてたのかもしれない。


もし気付いたら、全部終わってしまうかもしれなくて怖かった。


...終わらせたくなかったな。


でも、もうこのままじゃいけないのもわかっている。


だってわたしに、このネックレスをつける勇気はないのだから。


暫くその場で立ち尽くしていると、扉がノックされた。



「どうぞ」



視線を向けることなく返事をすると、扉が開き、リースがいつもより少し低めの声で遠慮気味に言った。



「お嬢様、王宮からのお呼び出しの手紙が届いております」



わたしはゆっくりと、扉の方に視線を向けた。




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