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25.



「はぁ...」


「8」



気怠げな昼下がり、庭に植えた花を眺め、ため息を吐く。


あの舞踏会のあと、全身傷だらけのわたしは屋敷に戻るとすぐに治療を施された。


顔と背中に打撲痕、手首の縛り傷、そして足の捻挫。


さすがに転んだだけと言うには苦しすぎたので、起きたことを正直に話すと、母様に無茶のしすぎだとものすごく叱られた。


自分が思ってた以上に重症だったらしく、全治するまでに約一ヶ月はかかった。


その間、ずっと寝ていることしか出来なかったため、舞踏会での出来事を繰り返し思い出していた。


主にセドリックのことなのだけど。


思い出しては悶えを繰り返していくうちに、セドリックが最後に言ったあの言葉がどういう意味なのか考えるようになった。


何故、わたしの身に何か起きたらセドリックが困るのか。


考えて、考えて、考えた末に結論が出る。


わたしはまだセドリックにとって保護対象なのだと。



「はぁ...」


「9」



考えたら簡単なことだった。


セドリックは責任感の塊みたいな人だ。


死んだアンドリューの無茶なお願いのために、わたしと婚約するほどまでに義理堅い。


そんな人がたかが婚約破棄した程度で、突然態度を変えるわけがない。


つまり、舞踏会の行動は全部アンドリューの妹を守るためのものだったってこと。


アンドリューに対しての責任感で動いているに過ぎない。


そこにわたしに対する特別な意味など含まれていないはずだ。


だから、セドリックの最後の言葉を解釈すると、こうなる。



アンドリューに託された君に、もしものことで何かあったら、アンドリューに申し訳なく思うので、とても困る。



結局、セドリックの中で、アンドリューの存在はまだまだ大きいということだ。


セドリックの行動に胸を躍らせていた自分が馬鹿みたいだ。



「はぁ...」


「10回。アンナお嬢様、これで今日は10回ため息つきましたよ」



今日も今日とて、リースが目の前でお茶を飲んでいる。



「...よく数えてたわね」


「だって、ここ最近ずっとですもん。いい加減鬱陶しいですよ」


「鬱陶しいって...」



リースの言葉に傷つくも、自分でもそう思う。


いつまでも引きずってちゃダメだものね。


前に進まなくっちゃ。


あっ、でもこの間の舞踏会でセドリックにお別れ言うの忘れてたな...。


もしまた会えたら今度こそ言わなくちゃ。


セドリックとの別れをふと想像して、胸の奥が静かに痛んだ。



「はぁ...」


「11回目。もぉー、なんで更に拗らせてるんですかーーー!」



リースのぶつける先のない叫びが、小さな庭に木霊した。


ため息を呑み込むようにお茶を啜っていると、屋敷の方から別の使用人が駆け寄ってくる。



「お嬢様ー、お手紙です」


「...手紙?」



手紙を受け取ると宛名には確かにわたしの名前が書かれている。


もしかして、セドリックから...!?


胸を躍らせながら、送り主を確認すると、そこには意外な人物の名前が記されていた。



「ベアトリクス・スカルエッティ...?」





「本日は、お越しいただきありがとうございます!アンナ様」



ベアトリクスが笑顔でお茶の用意をしている。


先日届いたベアトリクスからの手紙はお茶会の招待状だった。


舞踏会で助けてもらったお礼を改めてと書いており、断る理由もなかったので行くことにした。


スカルエッティ子爵の領地はグランヴィルの領地の真反対側にあるが、王都に別邸があり、そちらにお邪魔することになった。



「アンナ様、改めてお礼をさせてください。先日の舞踏会で助けていただき、本当にありがとうございました」



お茶の用意を終えたベアトリクスがわたしの前に座り、深々と頭を下げる。



「そんな、大したことはしてないんだけど...」


「いえ、いえいえ。そんなことありません。それにあの後、あの男性の腹いせに巻き込まれたアンナ様が怪我をされたと聞いて、わたし、本当に申し訳なくて...」



ベアトリクスがティーカップの柄に手を添えながら、目を伏せる。


改めて近くでベアトリクスを見ると、小柄で色白で、庇護欲を掻き立てる雰囲気を醸し出している。


こんな女性が目の前にいたら、声をかけたくなるのはわかる。


わかるけど、舞踏会でのあの輩のやり方はやはりよろしくない。


今思い出しても、腹が立つ。


...そういえば、あの輩はあの後どうなったんだろう。


わたしが気にすることでもないけど、王宮主催の舞踏会であんな派手な騒動を起こしたのだから、当分そういう場の出入りは禁止されるはず。


下手したら、爵位剥奪や領地没収の可能性もあるかも。


まぁ、どうでもいいんだけどね。


心を落ち着かせるために、お茶を一口飲む。



「...!おいしい...」


「わかりますか!?この茶葉、うちで採れたものなんですよ」



あまりの美味しさに驚き、声を上げると、ベアトリクスが嬉しそうに目を輝かせる。


スカルエッティ子爵の領地は西諸国との国境付近。


リスタータ王国で消費されているお茶の半数以上は西諸国からの輸入品だから、国境付近のスカルエッティ子爵の領地で栽培していても不思議ではない。



「こんなに美味しいのは初めてだわ...」


「ですよね!ですよね!わたしも、うちのお茶が一番だと....」



興奮気味に語り始めていたベアトリクスが動きを止める。


そして恥ずかしそうに肩を縮こませた。



「申し訳ありません...。舞い上がってしまって、つい取り乱しました...」



そんな姿がとても可愛らしくて、思わず吹き出してしまうと、ベアトリクスは照れくさそうに小さく笑い返してくれた。




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