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24.



どれくらい見つめ合っていたのだろう。


すごい長くも感じたが、一瞬だった気もする。


セドリックが何か呟こうと、口を開く。



「セドリックーーーーーー!!!!!」



その瞬間、静寂を叩き割るような怒号が空間に響いた。


声を聞いた瞬間、セドリックは立ち上がり、上着をわたしの肩に掛ける。


少しすると、早足でこちら近づいてくる人影が現れる。


リチャード殿下だ。



「貴様!!俺を置いて、勝手に突っ走るな!!護衛の意味、わかっているのか!?」



かなり怒っているのか、すごい剣幕でまくし立てる。



「アンナ・グランヴィルが姿を消したという報告を受けてから、勝手に俺の元を離れたのは百歩譲って許す。だが、その後、件の小屋に着いたら既に現場にいないとはどういうことだ!!!貴様を探し回ったおかげで、俺の髪が乱れた!!!どうしてくれる!!!」



自分の側から勝手に離れたことではなく、容姿が乱れたことに対しての怒りだったらしい。



「殿下の足が遅いのが問題では?」


「俺が鈍間だと言いたいのか!!??」



リチャード殿下が感情的になっているのに対し、セドリックは冷静だった。


二人のやり取りを座ったまま見ていると、殿下と目が合った。


立ち上がってお辞儀をしようとしたが、殿下がそれを制す。



「そのままでよい、アンナ・グランヴィル」



リチャード殿下はセドリックの横を通り過ぎ、わたしの前まで来た。


そして、そのままわたしの目線まで膝を折り、小さく頭を下げる。



「今回の件、全て俺の責任だ。不快な思いをさせて、申し訳なかった」


「そ、そんなことありません!!!顔をお上げください、殿下!!!」



まさか行動に驚き、手を全力で振り、おかしな挙動を取ってしまう。


しかし、リチャード殿下はそのままの体勢で続ける。



「出席者への検閲を怠った上に、警備が十分ではなかった。それと、先ほどの騒動でこのような事態になると想定出来なかった俺も浅はかだった。重ね重ね、申し訳ない」



普段のキャラとまるで違うリチャード殿下にどう反応していいかわからず、大人しく謝罪に耳を傾ける。


自分が取った行動で、リチャード殿下が責任を感じていることに罪悪感を感じてしまう。



「...わたしも考えなしに行動し過ぎました。申し訳、ありません」


「うむ。貴殿が気にすることは何一つないが、その心遣い受け取っておこう。今夜は疲れたであろう、遣いを寄越す、先に戻って休め」



満足そうに頷いた殿下は立ち上がり、セドリックに向かい合う。



「ということだ、セドリック。責任は俺が取る。グランヴィル嬢にもこれ以上無理はさせられない」


「......」


「そんな怖い顔をするな。護衛にはフレデリカの護衛騎士の一人を遣わせる。彼女たちならグランヴィル嬢も気を使わずにすむだろう」


「...わかりました」



小さく息を吐き、セドリックは渋々了承した。



「お前は、俺の護衛に戻れ。これ以上の職務怠慢はさすがに目に余る。俺は先に戻るが、護衛騎士が来たらすぐに戻ってこい」



リチャード殿下は、再度こちらに向き直る。



「それでは、グランヴィル嬢。俺の美貌がこれ以上見られなくて残念だと思うが、しっかりと休むがいい。もし俺の美しさを再認識したいなら、いつでも声をかけるとよい」



マントを翻し、背中を向けたリチャード殿下は大きな笑い声とともに小広間から出て行った。


本当に、嵐のような人ね...。


リチャード殿下がいなくなり、再びセドリックと二人っきりになる。


先ほどのこともあり、顔を合わせづらくて、俯く。


居心地の悪い沈黙が少し流れる。


それを先に破ったのは、セドリックのほうだった。



「...アンナ嬢」


「ひゃ、ひゃいっ!!」



動揺で声が裏返ってしまった。


恥ずかしい、意識していることがバレてしまう。


セドリックが近づいてくる気配に顔を上げると、すぐ目の前で片膝をついた彼と、視線が重なる。


近すぎる距離に、心臓が跳ねる。



「感情的になりすぎた、申し訳ない」



...どれの、ことだろうか?


さっきまでの一連の流れを頭の中で猛スピードで思い出してみるが、セドリックが感情を露わにした場面が見つからない。


むしろわたしの情緒が不安定すぎる。



「...アンナ嬢?」


「えっ!?あっ、全然大丈夫よ!!ほら、体のほうもこの通り全然問題なっ...いったい!」



自分がしでかしたことが急に恥ずかしくなり、誤魔化すように肩を大きく広げたら、激痛が走った。



「あまり、無理をするな」



セドリックが肩に触れる。その動きに迷いは見られなかった。



「あ、ありがとう...」



セドリックの視線が、やけに熱を帯びている気がする。


窓から差し込む月明かりが、二人を包む。


肩に触れられている手に力が入る。



「君に、何かあったら、とても困る」



それって、どういう意味...?と口にしようとしたその時、廊下から足音が近づいてきた。



「アンナ・グランヴィル様、お迎えにあがりました」



声をしたほうを向くと、軍服に身を包んだ長身の女性が小広間の入り口付近に立っていた。


彼女の姿を一瞥すると、セドリックはかすかに息を漏らした。



「.....後で」



名残惜しそうにそう言い残し、セドリックは離れて行った。


セドリックと入れ違いに、軍服の女性が近づいてくる。



「馬車までお送りいたします。失礼します」



わたしの腕を引くと、自身の首に巻き付かせ、体を背中でおぶる。


そのままゆっくりと、歩き出す。


女性の背中で運ばれながら、さっきのことを思い出す。


セドリックの視線、息遣い、触られたときの熱が鮮明に思い出されていく。


どうしようもなく胸が苦しくなる。


そして、最後のあの言葉。



『君に、何かあったら、とても困る』



あれは、どういう意味だったのだろう。


わたしはぎゅっと手を強く握った。




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