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22.



「いったい!!やめて!!痛いってば」


「うるさい!!!黙ってろ!!」



体を地面に押さえつけられ、両手首を乱暴にロープのような紐で縛り付けられる。


抵抗しようと体を捻ったりするが、さすがに力では勝てず、されるがままになる。


縛られていく手首の痛みに耐えながら、周りを見渡す。


使われていない農具や、土埃の積もり具合が目に入る。



「っ...!?」



突然髪を引っ張られ、今度は強引に体を起こされる。


目の前には、先ほどベアトリクスに言い寄っていた男が険しい表情でこちらを睨んでいた。



「あなた...」


「よぉ...。さっきはよくもコケにしてくれたな」



男が髪を引っ張る力を強める。


痛みで顔がひきつる。


こいつ、まだ会場内にいたのね。


恐怖で震えそうな体を押さえ込むように奥歯をきつく噛み締め、負けじと男を睨み返す。



「あなた、こんなことしてどうなるかわからないの?」


「バレなかったらいい話だ。生憎、ここは数年間、放置されている。逢引にだって使われていない」


「...大声で叫ぶわよ」


「叫びたいなら叫べばいい。誰かに、聞こえればの話だがな」



男がにたりと厭らしく笑う。


自信ありげな言動からすると、この場所は舞踏会の会場から離れた距離にあるらしい。


これは、かなりまずいかも...。


全身から嫌な汗がじんわりと滲み出る。


縛られている手首をなんとか解こうとするも、相当きつく締め上げられたのか、動かしても手首が痛くなるだけ。


足は自由だが、ヒールを履いてるし、ドレスが邪魔して、走って逃げてもすぐに追いつかれる。


指を掌に強く突き立てる。



「...さすがにこの状況じゃ、さっきの威勢は出なくなるよな」



勝ち誇ったように笑う男を睨み上げる。



「クズが...」


「どうとでも言え。それじゃあ早速...」



男が詰め寄り、胸元に手を近付けてくる。


...こんなやつに、触られてたまるか!!!


わたしはその手に勢いよく噛み付いた。



「いって!!?」



予想だにしない反撃に驚いた男は咄嗟に手を引っ込めようとする。


だが、怒りに任せ、噛みちぎる覚悟のわたしは噛む力をますます強くする。



「っこの!!ふざけるなよ!!!」



痛みに耐えきれなくなった男が髪を掴んでいたもう片方の手で頬を殴りつけてくる。


殴りつけられた衝撃で背中から壁にぶつかり、木材が割れる音がした。


ぶたれた頬がじんじんと熱い。


背中が割れるように激痛が走り、体が動かない。


経験したことない痛みと恐怖で、声が出てこない。


それでも絶対に屈したりなんかしないという意地で、男を睨み続ける。



「...なめやがって...!!!!」



怒りでわなわなと震える男が再度、髪を引っ張り上げる。


もう抵抗する力は残っていない。



「痛い目みねぇとわかんねぇようだなっ!!!」



そのまま顔面ごと地面に叩きつけられそうになり、唇をギュッと噛み締める。


その瞬間


雷が落ちたような大きな音が鳴り響き、薄暗かった小屋に静かな月の光が差し込む。



「アンナ嬢!!!」



誰かがわたしの名前を叫ぶと同時に、隣の男が一瞬にして姿を消した。


消したっていうか、顔を叩きつけられた衝撃で、そのまま地面にめり込んでいた。


な、何事ーーーー!?


あまりにも一瞬の出来事だったので、状況の理解が追いつていない。


はっ、えっ、何が、えっ!?



「アンナ嬢」



大混乱な頭の中が、一瞬にしてはっきりする。


視線を上にずらすと、灰色の瞳と目が合う。


月夜に照らされる灰色の髪があまりにも綺麗で、思わず見惚れてしまう。


わたしが呆けている間に、セドリックは拘束されていた手首を解いてくれた。



「せ、セドリック...」



やっとの思いで出た声はあまりにも弱々しく、震えていた。



「...あぁ」



セドリックはわたしの声に応え、触れることをためらうように、わずかに指先を寄せる。



「セドリック」


「あぁ」


「セドリック」


「...大丈夫だ、ここにいる」



躊躇いがちにセドリックは指先をわたしの手に添える。


指先の暖かさが、ゆっくりと伝わってくる。


張り詰めてていたものが解けていく。


ぽろりと、涙が溢れてくる。



「ーーっ」



声にならない嗚咽が喉を通っていく。


怖かった。


セドリックがそこにいる。


ただそれだけで、こんなにも感情が乱されていく。


涙が止まらない。


それでもやっぱりセドリックは静かにそこにいてくれるだけだった。




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