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21.



いったい、何が起こったのやら...


二人が立ち去った後、わたしは呆然とその場に立ち尽くしていた。



「あの...」



声をかけられて顔を上げると、先ほど男に絡まれていた小柄な女性が、不安そうにこちらを覗き込んでいた。



「先ほどは助けていただき、ありがとうございます!!わたし、ベアトリクス・スカルエッティと申します」



小柄の女性、ベアトリクスが小さく頭を下げる。



「わたし、こういう場が初めてで、どうすればいいかわからなかったんです...」



眉をひそめ、今にも泣き出しそうな表情でそう語るベアトリクスは女性のわたしから見ても素直に可愛いと思える人だった。



「でも、最終的にわたしが助けたわけでは...」


「いえ、アンナ様に声をかけてもらえてなかったら今頃どうなっていたことか...。あっ、アンナ様って呼んでも、よろしいでしょうか?」


「別に問題な...」



言いかけて、ふと違和感に気づく。


やけに視線が集まっていると思い、周囲を見渡すと、遠巻きにこちらを窺う人影がいくつも目に入った。


そういえば、さっきリチャード殿下が大きな声でわたしの名前を呼んでいた。


つまり今この場にいるほとんどが、わたしが“あの”アンナ・グランヴィルだと知っている。


侯爵家の子息と短期間ながら婚約した、噂の魔性の女。


向けられる視線の大半は好奇心だが、はっきりとした棘も混じっている。


値踏みするような目。面白がるような視線。

そして、隠そうともしない嫌悪。


ひそひそと交わされる声が、耳に刺さる。


中には、あからさまにわたしを貶める言葉も混じっていた。


...まずい。


このままだと良からぬことに巻き込まれると直感した。



「ごめんなさい、わたしちょっと用事を思い出してしまって...!!」


「あっ、アンナ様...!!」



引き止める声を背に、わたしはその場を離れる。


人の波を縫うように歩きながら、無意識に視線を避ける。


さっきよりもはっきりと、見られていると感じた。


胸の奥が、わずかにざわつく。


逃げるように、わたしは人目の少ない方へと足を向けた。



ざわつく胸を落ち着かせようと、人目がないところを探すために建物内を歩き回るが中々見つからず、廊下を一人で歩いている。


というか、誰もいないと思って入った部屋で密会中の男女に出くわしたり、人影がない庭園に行ったら茂みから声が聞こえたりと、結構衝撃的な場面を何度か目撃してしまった。


いったい、どうなってるのよ...。


これが貴族の舞踏会か...とげんなりしてしまう。


なんか、思ってたのとちょっと違ってたな。


見た目通りもっと華やかでキラキラしてるとこだと思っていたけれど、現実は欲望や嫉妬とか様々な感情が渦巻いていた。


こんなとこ、やっぱり来るんじゃなかった...。


小さくため息を吐く。


でも


灰色の髪が脳裏に浮かぶ。


セドリックに、会えた。


それだけで、不思議と胸の奥に溜まっていたもやもやが、すっと引いていく。


さっきまでのざわめきが、少しだけ遠くなった気がした。


そういえばと、この後セドリックとの時間を作ってくれるってリチャード殿下が言ってたのを思い出す。


そうか、今からまたセドリックに会えるのか...。


あの時は何が起こっているのかわからず呆然としてたけど、今になって緊張してきたのか、体が強張っていく。


ふと、窓に映る自分の姿が見えた。


リースが綺麗に着飾ってくれたから、普段の自分より見栄えがよく見える。


...セドリックは、どう思ってくれてたのかな。


この時のわたしは、だいぶ浮かれていた。


そのせいで、わたしに忍び寄る人の気配に意識を向けることが出来なかった。


近づいてくる足音に気付いたときには、背後から伸ばされた手に口を強く塞がれる。


「――っ!?」


声にならない悲鳴が喉の奥で潰れた。


逃れようと身をよじるが、背中に固い体が押し付けられ、びくともしない。


息が、苦しい。


鼻先にかかる知らない匂いに、ぞわりと背筋が粟立った。


そのままわたしは、身動きがとれないまま引きずられるように暗闇の中へと連れて行かれる。


光が、急速に遠ざかっていった。




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