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2.



「はーなーしーてーーー!!!」



婚約者を名乗る男に、荷物のように担がれていた。


男から逃れるために全力で体をばたつかせ暴れるが、びくともしない。


しかも暴れるわたしに苦戦することもなく、確かな足取りで歩き始めている。


このままだと、本当にこの男の屋敷に連れて行かれる。


助けを求めるように使用人たちに目配せをしたが、主が無理やり連れ出されそうになってるのに誰も慌てる素振りは見せず、笑顔でお幸せにーと手を振っている。


薄情者たちが!!



「婚約者がいたなんて、わたし知らない!!!」


「つい先日、決まった」


「聞いてない!!!」


「グランヴィル子爵の承諾は得ている」


「な...!?そんな勝手に...」



自分の知らないところで勝手に話を進められていたことに腹が立つ。


今、この場にいない父親が親指を立てて、軽い気持ちで「めんご、アンナ」と笑顔で謝罪している姿が容易に想像できた。


いつか、必ず痛い目に合わせてやる...!!


抵抗も虚しく、男の腕から逃れる事が出来ず、屋敷の玄関ホールまで運ばれると、聞き覚えのある声が響いてきた。



「セドリック様」


「お母様...!」



グランヴィル夫人、お母様の登場でやっと男の足が止まる。


今がまたとないチャンスだと母親に助けを求めようとした。


助けてくれると、信じて疑わなかったのに。



「娘をどうか...、よろしくお願いいたします」



母親が男に対し深く頭を下げる姿を見て、言葉を失う。


お母様まで...!!



「...承知しました」



最後で唯一の希望だった母親からも見放され、放心状態になってしまったわたしは腰に回されている男の腕の力が少しだけ強くなったことに気付くことはなかった。





暫く放心状態になっていて、気付いたら馬車に揺られていた。


目の前には婚約者を名乗る誘拐犯。


身を守るために膝を抱え、隅っこで恨みがましく睨んでいると、男と目が合った。



「疲れたのか?」



睨まれていることを特に気にする様子もなく、男は淡々と聞いてくる。



「ええ、とっても。あなたのせいでね」


「そうか。疲れたなら横になったほうがいい」



皮肉たっぷりで答えたつもりなのに、まるで効いていない。


そのことがますます苛立たせる。



「必要ありません。というか、他に言うことがあるんじゃない?」


「他に...?」



質問の意図がよくわかっていないのか、男は腕を組み、少し首を傾げる。


いやいやいや、嘘でしょ!?



「な・ま・え!わたし、あなたのこと、どこのどなたさんか、まったくわからないんですけど」



少しだけ声を張り上げると、男は腑に落ちたように頷いた。



「....セドリック・レッドフィールドだ。聞き覚えはあるはずだ」


「......何が?」


「何がって...わたしのことについてだが...」


「あなたが、今答えたのは名前だけでしょ。それ以上のことはわからないわ」



想定外の返答だったのか、誘拐犯、セドリックは口元を手で覆い、考え込む。



「...なるほど」


「何か?」


「いや、何でもない」



何かを呟いてたように聞こえたが、誤魔化される。



「....レッドフィールド侯爵家の人間だ。それでわかるか?」


「...侯爵...?」



いきなり身分の違いを突きつけられ、一瞬怯む。


侯爵って、社交界の頂点だったはず...

えぇぇー、この人、そんなに偉い人だったの!?


自分の今までの行動を振り返って、なんか粗相をしてなかったか思い出そうとする。


しかし、そもそも許可なく拉致されてるのは自分だったということに気付いた。



「侯爵家の人間は、何の断りもなく淑女を担いで、誘拐するのがお好きなんですね」


「....それは、」



嫌味たっぷりに言ってのけると、セドリックが気まずそうに視線を下げる。


どうせ、婚約者だからとかで押し切られるんでしょ。


しかし、意外にも、セドリックは躊躇いなく頭を下げてきた。



「...不快な思いをさせた、すまない。次は配慮する」


「え、あ...」



想像と違う反応をされて戸惑ってしまう。


ここまではっきりと謝られると、逆に責めづらい。



「もういいわ。....まだ、着きそうにないのよね」


「あぁ、あと半日はかかる」


「そう....」



窓から流れる景色をボンヤリと眺めているうちに、瞼がどんどん重くなる。


わたしは、そのまま抗えずに意識を手放した。


——知らない男の屋敷へ向かう馬車の中で。




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