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1/18

1.



息が詰まるほどの甘さが、口の中に押し込まれた。


強引に唇を割られ、何かを流し込まれる感覚。


——死ぬはずだったのに。


ぼやけていた意識が、一気に引き戻される。


双子の兄が死んだ。


兄がいなくなり、生きる気力を失い、食事を摂らなくなって数日。


このまま何も口にせず、静かに後を追うつもりだった。


なのに、どうしてーー?


ぼやけた視界の先、白い天蓋がゆらりと揺れていた。淡い光と薬の匂い。どうやら自室のベッドらしい。


唇に残るのは、妙に甘ったるい味。


舌先でなぞると、それがチョコレートだとわかる。


放心状態のまま、ゆっくりと視線を巡らせた先、ベッドの傍らに立っている男と目が合った気がした。


その男は、光の中でも浮かぶように整った顔立ちをしていた。


淡い灰色の髪と、感情の読めない静かな眼差し。まるで場違いなほど落ち着いている。


何事もなかったように親指で自分の唇を拭っている。


......もしかして、わたし、この男にキスされた?


状況を理解するより先に、視界が一気に騒がしくなる。



「...あ、」


「おっ嬢様ーーーーー!!!!」



横からの勢いで視界が埋まる。



「よかった!!アンナお嬢様!!一時はどうなるかと思いました!」


「...リース...」



自ら発せられた声が思ったより弱々しい。


使用人のリースが泣き声を上げながら、強く抱きしめてくる。



「アンドリュー様が亡くなられたばかりなのに、アンナ様までいなくならないでください...」


「....」



そっか、わたし、死ねなかったのね...。


気怠い体をなんとか起こす。


視線の端、先ほどの男がまだ立っている。


親指で拭った口元に、茶色い跡が見える。


口の中にはチョコレートの甘さがまだ残っている。



「目が覚めたようで何よりだ」



低く落ち着いた声が落ちる。


まったく見知らぬ男に、首を傾げる。


キスされた上に、アンドリューのところに逝くのを邪魔された...?


だんだんとはっきりしていく意識と同時に、目の前にいる男にじわじわと苛立ちが込み上げる。


よろけながらも、ベッドから抜け出し、男に掴みかかろうとする。


その瞬間。



「お嬢様あぁぁぁぁ」



今度は別のとんでもない重量が飛び込んでくる。



「本当に良かったです!!このまま栄養失調でお亡くなりになられたら、わたしが奥様に殺されるところでした!!!よかったぁぁ」


「テディ...重...い、おりて...」



熊のような体型の主治医に押しつぶされ、息が詰まる。


この主治医、医者なのに殺傷能力高すぎでしょ...



「先生、圧死してします」



ふいに圧が消える。


視線を上げると、男がテディを当然のように持ち上げていた。


その異常さだけが妙に鮮明だった。


テディを床に下ろした男が、わたしの前に片膝をつく。



「それでは、行こうか」



目の前に手が差し出される。



「...行くって、どこに?」


「わたしの屋敷にだ。アンナ嬢、君はわたしの婚約者になったんだ」


「...は?」



アンナ・グランヴィル


双子の兄が死んで、すべてを止めたはずの世界に、見知らぬ婚約者が現れた。




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