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14.



「こんなもんかなっと...」



最後の苗を土に植え、ふーっと大きく息を吐く。


先日、冬の終わりを祝う祭りで買ってもらった苗を植えたいとセドリックに相談したところ、敷地内の好きなところに植えていいと言われた。


苗を欲張ったせいで、わたし一人だと植えるだけで何日もかかりそうだったので庭師を一人貸してもらえた。



「お疲れ様です、アンナ様」


「マーチもおつかれ様。色々、ありがとう」



庭師のマーチは笑顔が眩しい中年の男性である。


マーチは苗を植えるのを手伝ってくれるだけではなく、花に適した土を耕し、用意してくれていた。


おかげでだいぶ早く全ての苗を植えることが出来た。



「いえいえ、こちらこそ。まさかこの屋敷で花を植える日が来るなんて夢にも思いませんでした」


「そうなの?」


「ええ。セドリック様は花に関心がありませんから。だから、大量の苗が届いたときは驚きました」


「あー、それはごめんなさい...」


「いえいえ、庭師として芝を刈るだけじゃ退屈でしたので」



確かに敷地内の庭は広いけど、花とか観葉植物の類は一切ない。


セドリックらしいと言えばそうだけど、窓から見える景色が少し寂しいなといつも思っていた。



「しかし、この場所を知っていたなんて驚きです。どうやって、ここを」



わたしが苗を植えたのは、屋敷の目の前にある庭から少し離れた小高い丘。



「あの離れの塔のバルコニーから見つけたの」


「確かにあそこからなら見えますね」



マーチは納得したように頷く。


実はあの、離れの塔にはたまに行っている。


もちろんまだ監視付きだが、変な動きさえしなければ行くこと自体は禁止されていない。


あそこからは屋敷と敷地を一望することができるからちょっとした気分転換になる。


ずっとこの丘に花とか植えられたら、バルコニーから見える景色も見違えるのにって考えてたから、ちょっとした達成感がある。


花が咲くのが待ち遠しい。



「アンナ様ー!!アンナ様ー!!」



マーチとそんな会話をしながら木陰で休んでいると、屋敷の方からサラが慌てた様子で駆けてきた。



「どうしたの、サラ」


「お、お客様が...、アンナ様に、お客様が訪ねてきていらっしゃいます!!」



サラの言葉に、わたしは首を傾げた。



「お客様って、わたしに?」


「はい!!とりあえず急いでご支度を!!」



何やら急いでいる様子のサラは、返事を待たずにわたしの手を引いた。


わたしに、お客様って誰だろう...?


まったく心当たりはないが、引っ張られるまま丘を後にした。





屋敷に戻ると、作業着から急いで着替えさせられ、身なりを整えられた。


そのまま何も説明されないまま応接間へと移動させられ、一人ポツンと部屋の中にいる。


それにしてもわたしに会いに来るお客様って誰だろうか。


舞踏会に参加したこともない辺境の子爵令嬢であるわたしに王都に知り合いはいない。


セドリックの屋敷に来てからも殆ど屋敷の中で過ごしていたので、新しく知り合いが出来たわけでもない。


うーんと腕を組みながら考えていると、何やら廊下が騒がしくなってきた。



「困ります、殿下。いらっしゃるならひと言、わたしに言ってくださらないと」


「ええい、うるさい!!セドリック、貴様は一々細かいぞ!!俺が何しようと、俺の勝手だ!!」



セドリックと、もう一人、誰か別の人の声が聞こえる。


廊下の騒ぎに耳を傾けていたら突然、扉が大きな音を立てて開いた。



「俺が、来てやったぞ!!!」



やけに身なりのよい金髪長髪の男が仁王立ちで部屋の前に立っている。


突然のことで呆気にとられていると、わたしの姿を見つけた金髪男が、大股で詰め寄ってきた。



「ほほう!!これがアンドリューの妹か。なるほど、確かに似ているな」



ものすっごい至近距離で人の顔を凝視してくるので、思わず後ずさる。


なんか、この人の顔、どっかで見たことあるような...どこだっけ。


初めて会う人のはずなのに、どこか既視感のある顔が引っかかる。


というか、顔近すぎるでしょ、この人。



「ん?どうした?俺の顔が美しくて、見惚れているのか?よい、もっと見ることをゆる、グヘッ!!」



身動きがとれないまま固まっていると、男はくぐもった声を発して離れていった。



「セドリック、貴様!!首を絞め上げるとはどういうつもりだ!!」


「申し訳ありません。殿下が、言う事を聞かないのでつい」



どうやらセドリックが男の首元を掴み、後ろに引いてくれたらしい。



「俺は、この国の次期、王だぞ!!貴様の言うことなど聞く必要あるまい!!」


「民の言うことに耳を傾けることも王の務めでは」


「それはそうだな!!だが、それはそれ、これはこれだ」



目の前で繰り広げられる二人の掛け合いの中で『王』という言葉が聞こえ、ピンときた。


この男、寄宿学校の壁に掛けてあった癖の強い王族たちの肖像画の雰囲気と顔がそっくりだ。


ということは、本物の王族!!



「申し訳ございません、殿下。殿下とは知らず、

大変なご無礼を...」



わたしが、ソファから急いで立ち上がり、頭を下げようとすると男の声がそれを遮った。



「よい、顔を上げよ。今日は王太子ではなく、アンドリューの友人として貴殿に会いに来た。アンナ・グランヴィルよ」


「しかし...」


「よいと言っている。楽にせよ」



男の言うことを信じて、恐る恐る顔を上げると、何故か満足そうに頷いている。



「それに、顔を見てもすぐに王太子と気付かなったあたり俺の魅力もまだまだということって、あだだだだだ」



男がなんか意味のわからないことを呟いていると、突然奇声を上げ始めた。


足元を見てみると、セドリックの足が思いっきり王太子を名乗る男の足を踏み潰している。



「セドリック、きーさーまー!!どういうつもりだ!!」


「失礼。見慣れない床の模様があったので、つい」


「俺の足が、床の模様に見えるのか貴様は!!」



騒ぐ王太子とやり取りをしているセドリックがいつもの感じとちょっと違っていて、戸惑ってしまう。


...それにしても、殿下さっき、アンドリューの名前を口にしてなかった...?




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