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13/19

13.



中心街に入ると、通りは祭りの人々で溢れていた。


道の両脇には屋台が並び、焼いた肉や甘い菓子の匂いが漂ってくる。


広場には藁で作られた大きな冬人形が設置されている。


その周りには大道芸人が芸を披露し、少し離れた場所では音楽隊が賑やかな曲を奏でていた。


蕾がつき始めた木々には色とりどりのリボンが結ばれており、花のように咲いて見える。


客を呼ぶ声や笑い声が通りに溢れ、街全体が冬の終わりを祝う賑わいに包まれている。


領地の祭りより、ずっと賑やかだった。


そして、冬の終わりの祭りらしく、花の苗を売る店があちこちに並んでいる。


他の屋台や出店の比ではない数の店が花の苗を扱っている。


一つの店の前で立ち止まり、苗を近くで見てみる。


さすが王都。地元では見ないような花の苗がたくさん並んでいる。


どんな花が咲くんだろうなって想像していると、横から腕が伸びてきた。



「これを一つ...いや、五つほど用意してほしい」


「はい、ラナンキュラスの苗ね。少々お待ちを」



セドリックからの注文で、店の人がテキパキと準備を始める。



「他にも、何か欲しい苗はあるか?」


「...えっ!?もしかして、わたしに聞いてる?」


「他に誰がいる」



セドリックが怪訝そうに眉をひそめる。


まさか、わたしがじっと苗を眺めてたから、欲しがってるように見えたのかしら。



「いや、いやいや。大丈夫よ、セドリック!わたし、別に強請ってるつもりで見ているわけじゃないのよ!!」


「だが、気になっているだろ」


「そうだけど、あなたに買ってもらう理由がないわ」


「婚約者にプレゼントするのに、理由が必要なのか?」



開いた口が塞がらなかった。


いや、確かにそうだけど...なんか違うじゃん!!そういう普通の婚約者っていう関係ではないじゃない、わたしたち!!


しかも、そういうことをこの場で恥ずかしげもなく言えるのもさすがというか、やっぱり強い。



「はい、ラナンキュラスの苗五つ。用意できたよ!!」



色々と思考を巡らせているうちに、店の人が苗の入った箱をセドリックに渡す。


お金を払うと、セドリックはその箱をわたしの前に差し出す。



「いらないのか?」



うぅぅ...


ここまでされたら、受け取らない方が逆に失礼である。



「あ、ありがとう...」



渋々と箱を受け取り、中の苗を見下ろす。


ここ数週間、花を愛でる気持ちなんてなかった。


でもグランヴィルの屋敷にいるときはよく、自分で苗を買ってきて庭に植えていたなぁと少しだけ懐かしい気持ちになる。


店先には、まだまだ色々な苗が並んでいる。


つい一つ一つ見てしまい、気づけば視線があちこちをさまよっていた。


……どうせなら、もう少し欲しい。


そう思ってしまった自分に気づき、慌てて首を振る。


いくらなんでも、それは欲張りすぎだ。


だけど...


ちらりと、セドリックを見上げると、目が合った。



「本当にもうちょっとだけ、買っていいの?」


「最初から問題ないと言っている」


「じゃ、じゃあ...」



わたしは気になっていた苗を片っ端から指差した。


その結果、ちょっとどころじゃない量の苗が目の前に積まれている。


やってしまった...


あまりに量が多すぎるので、セドリックが業者に運搬を依頼している。



「他に欲しいものは...」


「もうないです!!!」



これ以上はさすがに図々しすぎる!!


てか、結構な額だったはずなのに、セドリックが涼しい顔しすぎている。


これが、侯爵家の財力か...


でも早く苗を植えたいなと浮足立っている自分がいるのも確かだ。


苗を買ってる間にだいぶ時間が経ったのか、辺りが暗くなってきた。



「...まだ、体力は残っているか?」


「?...ええ」


「日が沈んでから、広場の人形に火がつけられる」


「...はぁ」


「.......」



よくわからない沈黙が流れる。


祭りの最後に冬の象徴である枯れた植物で作られた人形を炎に焚べて、冬に別れを告げ、春の訪れに感謝するという儀式的な行事のことを言っているのだろう。


領地の町でも行われていたから、見たことがある。


アンドリューは炎に目を輝かせてはしゃいでたけど、わたしは特別思い入れがあるわけでは...


そこで、気付く。


もしかして、アンドリューが好きだったものをわたしに見せようとしてる...?


うわー、そうだ。アンドリューなら絶対に見てるはずだもん、こんな派手なイベントを見逃すわけない。


でも、双子だからって同じものが好きだとは限らないのよーー!



「そうね。せっかくだから、見てみたいわ」



ちょっとの間、固まっていたセドリックだったが、わたしの返事を聞いて、ホッとしたような安堵の表情を見せる。


人形が燃えるところには興味は湧かないけど、セドリックの気遣いが少しくすぐったかったので了承してしまった。



「それでは、行こうか」



セドリックの左手が差し出される。


わたしはセドリックの手と顔を交互に見る。


え、掴まれと?



「結構です」


「暗くなると、足元が見えなくなる」


「気を付けて歩くわ」


「人も増えてきた」


「ちゃんと、見失わないように歩くわ」



咄嗟に拒否の反応をすると、セドリックが意外にも食い下がってくる。


一瞬、二人の間に無言の攻防が繰り広げられたが、セドリックが小さく息を吐く。


お、諦めてくれるかと安堵したのも束の間、セドリックはまたもやとんでもない提案を繰り出してきた。



「なら、わたしが君の腕を組もう」


「な、なんでそうなるの!?」


「君がわたしの手を掴むか、わたしが君の腕を組むか、どっちかだ」


「なっ...!?」



なんでその2択しかないのよ...!?


あまりに横暴すぎると抗議したかったが、セドリックがちょっとずつ距離を詰めてくる。


このままだと本当に腕を組まれかねないと危惧したわたしは、仕方なくセドリックの手を掴んだ。


手を引かれながら広場に来ると、冬の終わりの儀式を見ようと昼間よりたくさん人が集まっていた。


セドリックが誘導してくれたおかげで人集りの間を軽々と抜け、広場の中心までなんなく来れた。


わたしだけだったら、今頃人の波に飲まれ、いつの間にか街の端に追いやられていたかもしれない。


昼間の活気のある雰囲気とは違い、人が多いが夜は静謐な雰囲気だった。


所々に設置されているランプの光が空間を暖かく照らしている。


夕暮れの鐘が鳴ると同時に、藁の冬人形に火が灯された。


瞬く間に炎が大きくなり、空を舞う火花が、ランプの光と相まって、とても幻想的に見えた。



「とても綺麗ね、アンド...」



無意識にアンドリューの名を口にしかけて、隣を向くが、そこにいるのはアンドリューではなくセドリックだった。


...そっか、もうアンドリューと同じ景色を見ることは二度とないんだ。


いつも、わたしの思い出の中にはアンドリューがいた。


でも、これから出来る思い出に、アンドリューはいない。


そんな当たり前のことが、今更になって胸に突き刺さる。


冬の終わり、春の訪れを喜ぶ人々の歓声が少しだけ苦しくなり、不思議と泣きそうになる。


人々が炎が燃えるのを見上げている中、わたしは一人涙を堪え、下を向く。


一際大きな歓声が聞こえて、視線を少し上げると、冬人形が崩れ、炎が広く舞い上がる。


その光景を目の当たりにし、堪えていた涙が溢れ、流れてきた。



さようなら


さようなら、アンドリュー



冬の終わりとともに、わたしは大好きだったアンドリューに別れを告げた。


喧騒の中、一人涙を流すわたしは、握られていた右手に少しだけ力が込められていたことに気が付きはしなかった。




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