12.
これが歴代の王様たちなのね...
肖像画に描かれてる人物は皆金髪の美丈夫なのだが、やたらと圧が強く感じられる。
なんか、いろんな意味ですっごい癖がありそうな一族ね。
壁に掛けられた歴代の王の肖像画をぼんやり眺めていると、横目でセドリックが歩いてくるのが見えた。
「すまない。許可を取るのに、少し時間がかかった」
「大丈夫よ」
「それじゃあ、こっちだ」
セドリックは長い廊下を進んでいくので、わたしはその背中を追った。
王都で一番大きな寄宿学校らしいが、今日は祝日で人の気配がない。
廊下には、わたしとセドリックの足音だけが静かに響いていた。
普段なら生徒以外立ち入り禁止だそうだが、祝日で人がいないことと、侯爵家のセドリックからの依頼ということで、特別に訪問を許可してもらった。
長い廊下を抜け、広い庭を横切ると、建物が密集しているのが見える。
伝統ある学校らしく、建設当初から残っているような木造の建物もあれば、最近建てられたのであろうレンガ造りの建物もある。
外から眺めているだけでも、なかなか面白い。
その中の一つ、石造りの建物にセドリックが入っていく。
中に入ると、すぐに大きなホールがあり、左右に続く廊下、そして目の前には階段があった。
セドリックは止まることなく階段を上り、3階の廊下の奥に進んだ。
そして、たくさんある部屋の一つの前で止まった。
「ここだ」
セドリックが扉を開ける。
そこには、机がずらりと並んでいた。
ここが、アンドリューが学んでいた教室...。
誰もいない教室に入り、机に近づく。
一つ、また一つと机を確かめてく。
「アンドリューの席は...」
「大丈夫、もう見つけたわ」
その机の表面には荒々しくもくっきりと彫られていた。
アンドリュー・グランヴィルという名前が。
きっと、アンドリューが勝手に彫ったのだ。
その名前に触れると、自然と笑みがこぼれる。
「...座っても?」
「あぁ、問題ない」
席に座って、教室をぐるりと見渡す。
今まで学校に通ったことがなかったので、ちょっと落ち着かない。
「なんか、不思議な感じ」
「アンドリューは、ほとんど席にはいなかった」
「ふふっ、アンドリューらしい」
ほとんど座らないくせに、しっかりと自分の席だと自己主張するところとか。
同じ場所でじっとしてられなくて、すぐ逃げ出すところとか。
想像するだけで、思わず笑ってしまう。
その時、窓の外で風が吹き、木々が揺れる音が聞こえた。
さっきまで雲の影で薄暗かった部屋に木漏れ日が差し込んでくる
窓の景色を見ると、空が高く広がり、庭の緑が太陽の光で鮮やかに光っている。
...これが、アンドリューの見てた景色なのね。
胸のロケットにそっと触れる。
胸の奥がちくりと痛んだが、支えていたものが少しずつ溶かされていく。
わたしは木々が風で流れていく様子を静かに眺めた。
・
寄宿学校の校門から、馬車に向かう途中、少し離れた空で空砲が鳴った。
太鼓の音や人の笑い声が遠くから聞こえてくる。
少し立ち止まり、音のする方を見ていると、セドリックが隣に立つ気配が感じられた。
「何か、お祭りかしら...」
「あぁ。今日は、冬の終わりを祝う日だからな」
もうそんな季節になるのか。
アンドリューが死んでから、暦を見る余裕がなかったので、気付かなかった。
もうすぐ冬が、終わるのか。
「...行ってみるか?」
「え!?」
セドリックから意外な提案をされて少し驚く。
「いいの?」
「問題ない」
王都の祭りなんて行ったことないので、心がほんのちょっと浮き立ってしまう。
お祭りで道が規制されてるため、馬車を途中で降り、お祭りが行われてる中心街までは徒歩で向かった。
中心街に近づくにつれ、人通りが少しずつ増えていく。
ここまでの規模ではないが、アンドリューとも領地の町のお祭りによく参加してたなー。
なんて思い出に浸っていると、足元に段差があったらしく、思いっきり踏み外してしまう。
あっ、やば
不意打ちだったので絶対に顔面から落ちると覚悟して、目をぎゅっと瞑る。
......?
しかし、痛みは感じられず、むしろなんか変な浮遊感があるなと目を開けると、セドリックに体を支えられていた。
「ご、ごめんなさい!!」
慌ててセドリックから体を離す。
セドリックがじっと見下ろしてくる。
「痛むところはあるか?」
「ない、です...」
「そうか」
そして、そのまま歩き出す。
心なしかさっきよりセドリックの歩く速度が少しだけゆっくりになった気がした。




