11.
大泣きした次の日。
わたしはセドリックの書斎の扉の前に立っていた。
部屋の主であるセドリックに用があるのだが、何せ昨日の今日だ。ノックするのを、躊躇ってしまう。
昨日、気が済むまで泣いた後、当然のように気まずい空気が二人の間に流れた。
いや、セドリックはわたしが泣き止むと同時に何事もなかったようにハンカチを渡してきたから、気まずかったのはわたしだけだったのかもしれない。
その後は、きっと最初から部屋の外で待機していたサラとセシルを呼び付け、わたしが疲れているからという理由で部屋に連れて行くように指示していた。
わたしは、泣きすぎてもうわけわかんなくなっていたので、されるがまま連行されて、ぐしゃぐしゃの顔を洗わされて、気付いたらベッドの上にいた。
全ての事情を知っているであろうサラとセシルがいつもより優しく介抱してくれたので、正直居た堪れなかった。
色んな感情に悶えながら、結局昨日はほとんどベッドの上で過ごしていた。
そして、今である。
サラに聞いて、この部屋にいるのは確認済み。
あとは、扉をノックするだけなのに、その一歩が踏み出せない。
ええい、ここはもう勢いだ!!いつまでウジウジしたって、仕方ないじゃない!!
扉の前で30分ぐらい悩んだ末、半端ヤケクソになりながら、扉をノックした。
「誰だ」
部屋の中から、すぐに返事が返ってきた。
「ア、アンナです」
「...入れ」
少し間はあったが、入室の許可を貰えた。
恐る恐る部屋に入ると、セドリックは机で作業していた。
入れてもらえたのはいいが、セドリックが作業を中断する気配はなく、こっちには見向きもしない。
沈黙が続く。今までで一番空気が重く感じる。
震えを抑えるようにわたしは両手を握り、大きく息を吸った。
「...昨日は、ごめんなさい」
セドリックの手が止まる。
「あなたに、たくさん酷いことを言ってしまったわ。傷つくことも、言ってしまった」
正直、感情的になっていて何を口走ったのかはあまり覚えていない。
それでもセドリックがわたしの言葉で一瞬揺らいだのを見てしまった。
だから、謝りたかった。
「それと、手紙...勝手に読んでしまったことも謝るわ。本当に、ごめんなさい」
そもそも、勝手に他人宛の手紙を読むこと自体道徳的に反している。
たとえそれが、死んでしまったアンドリューからの手紙であってもだ。
セドリックが顔を上げる。灰色の瞳と、目が合う。
「必要ない」
短く返された言葉に胸がギュッと縮こまる。
大丈夫、許してほしいわけじゃない。
「君が、謝る理由はない」
しかし、続けて出た言葉は意外なものだった。
「...どうして?」
「確かに、君を死なせないようにアンドリューからお願いされたが、それを実行したのはわたしの意思だ。アンナ嬢、君がその責任を負う必要はない」
「でも...、手紙は...」
「あれは、片付けていなかったわたしの落ち度だ」
拍子抜けである。
怒るどころか、自分が悪いって言ってくるあたり、どれだけ人間力が高いのだろうか、この人。
手紙を勝手に読まれた挙句、心無い言葉浴びせられたら、わたしだったら数日口きかないどころか、絶交まで考えるのに。
逆に、この反応強すぎる。
でも、このぐらいの人格者じゃなきゃ、あのアンドリューに付き合いきれないものね。
妙に納得してしまった。
「そう...。でも、わたしが謝罪したかっただけだから...」
「...わかった。それは、受け取ろう」
緊張が一気に解れて、ホッと息を吐いた。
とりあえず、目的の半分は達成された。
もう半分を言うために、わたしは姿勢を正す。
「セドリック。あなたに、お願いしたいことがあるの」




