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10.



翌朝。


いつものように食堂へ向かうと、セドリックは既にいた。


わたしは席につき、コーヒーを飲んでるセドリックにひと言、挨拶をする。



「おはよう」



セドリックは一瞬動きを止め、こちらにゆっくり視線を向ける。



「...あぁ、おはよう」



そして、すぐに目を伏せた。


相変わらず何を考えているかわからないが、わたしは気にせず朝食をとり始める。



さて、今日はどうしようか。


朝食を終え、わたしは今日の予定を考えながら廊下を歩いている。


昨日のように書庫で本を読みに行くのもいいけど、またセドリックが来てしまう可能性はある。


かといって、屋敷の探索は屋敷の主がいるときにはやっぱりやりにくい。


うーんと頭を抱えていると、ふと視線の先に一室の扉が開いているのが見えた。


この部屋は確か、屋敷来た当初から鍵が閉まってて開かなかった部屋だ。


辺りを見回す。


どうせどこかで監視されてると思うから意味ないけど、心情的に悪いことをしている気分なのでつい体がそう動いてしまう。



「失礼、しまーす...」



小さな声で呟きながら部屋の中を確認し、誰もいないとわかると、ゆっくりと中に入る。


扉の向かい側に大きな窓があり、その手前に机が置かれている。


扉から向かって右の壁には本棚があり、ここの本棚にもびっしり本が並べられていた。


ここも書庫なのかしら...?


部屋の中を歩いて回っていると、見覚えのあるローブが壁に掛かっている。


セドリックのローブ...


ということは、ここはセドリックの書斎...!?


さすがに家主の書斎を本人の許可なしで入るのは良くないと、急いで部屋から出ようとしたが、机の上に置いてあるものに目が止まる。


封筒に『セドリックへ』と書かれている手紙だった。


それはとても見覚えのある文字で、思わず目を見開く。


これ、アンドリューの...文字だ。


震える手で手紙を手に取る。


頭ではいけないことだとわかっているのに、体が勝手に動いてしまう。


でも見ずにはいられなかった。


わたしは封筒から手紙を取り出し、読み始めた。





親愛なるセドリックへ


君がこの手紙を読んでいるということは、僕が何らかの形で、いなくなったってことだね。

いやぁー、突然いなくなってビックリさせてるかな?怒ってるかな?それとも、悲しんでくれてるかな?

僕もまさか自分が死んじゃうなんて、夢にも思わないさ!!冗談のつもりで今この手紙を書いてるんだもん!!

だから、君がこの手紙を読まないことを願っていたんだけど、読んでしまってるなら仕方がない、うん!!


セドリック、君には出会った当初から随分苦労をかけさせてるね。

君がいなかったら、僕は今頃学校を退学させられていたよ、絶対に。

君には本当に感謝している。

僕にとって君はとても大切な友人だ、君にとっても僕は友人であったらとても嬉しいな。


そんな大切な友人に、僕の最後の我儘を聞いてほしい。

僕の、世界で2番目に大切な妹、アンナのことだ。

1番目はもちろん、僕さ!!僕は僕が大好きだから!!

でも同じぐらい、アンナのことも大切で、大好きなんだ。

僕がいなくなって一番悲しむのはアンナだ。そして、彼女は間違いなく僕の後を追って死ぬことを選ぶだろう。

どうして、そう言い切れるかだって?

だってもしアンナが死んだら、僕も同じように死を選ぶからだ。片割れがいない世界なんて生きてても意味がないからね。


だけど、僕は我儘だから、アンナには死んでほしくないんだ。

僕がいない世界で、彼女は悲しみに暮れ、苦しむだろう。

でも、生きていて欲しいんだ。


勘のいいセドリックならここまで書けば、もうわかるだろう。

僕は、君にアンナが僕の後を追って死なないようにしてほしいんだ。どんな手を使っても。


最後の最後に、とんでもないことをお願いして、ごめんね。

でも今まで、散々僕のことで、苦労したんだ。これぐらい君になら出来るだろう。

だって君はこのアンドリュー・グランヴィルの一番の親友なんだから!!


じゃあ後は、頼んだよ。

ありがとう



君の友人 アンドリューより





「何、これ...」



手紙は、実にアンドリューらしい自分勝手で、思わず笑ってしまうような内容だった。


扉のほうから物音がした。


音に振り向くと、扉の前にセドリックが立っていた。


彼の視線は、わたしの手にある手紙に落ちている。



「...読んだのか?」



セドリックの問いに、わたしは頷く。


セドリックはゆっくりと近づいてきたので、思わず身構える。


そして、彼は静かに言った。



「すまなかった...」



その瞬間、体中の血が一気に沸き立った。



「すまなかったて、何よ...」



胸の奥に溜まっていたものが溢れ出てくる。



「謝るぐらいだったら...、最初から、邪魔しないでっ!!!!」



アンドリューは全てわかっていて、わたしを生かしたかった。


セドリックは、アンドリューのために、わたしを死なせなかった。


でも、そこにわたしの意思は存在していなかった。


わたしは、自分の意志で、死ぬことさえ出来なかったのだ。


それが一番、腹立たしい。


一度、溢れ出てきてしまったら、もう止めることは出来なかった。



「どうして...どうしてよ!!!全部知ってたのに、どうして死なせてくれなかったのよ!!!」



セドリックは答えない。



「わたしが、いつ死のうがあなたに関係ないじゃない!!アンドリューはもういない!!!わたしが生きる意味なんてもうないんだから!!!」



セドリックは何も言わない。


部屋に、わたしの悲痛な叫び声しか響かない。


どんなに叫んでも喚いても、わたしの声は、届かない。


それは、なんて虚しいことなのだろうか。


死ぬこともできないわたしは、ひとりぼっちのままだ。



「どうせ、あなたにはわたしの気持ちなんてわかるわけない!!」



喉が焼けるように痛い。


でも叫び続けた。



「あなたに、兄を、アンドリューを失った気持ちなんてわかるはずがないんだから!!!」



その時、ガンっと大きな音がした。


セドリックの拳が、机に触れていた。


強い力で叩いたのか、机に小さな傷が出来ていた。


今まで何の反応もなかったセドリックがゆっくりと顔を上げる。


その瞳は、いつもの静かな色ではなかった。



「失ったのは、君だけじゃない」



低い声だった。


しかしいつもの冷静さはなく、感情がこもっていた。



「アンドリューは、わたしの親友だったんだ...」



震えて、消え入りそうなその声に、言葉を失った。


部屋が沈黙に包まれる。


わたしは、手にしている手紙に視線を落とす。


読んでいるときは気付かなかったが、インクが所々滲んでいる。


....セドリックだって、アンドリューがいなくなったことに、悲しんでいたのだ。


そう気付いた瞬間、息が止まる。


手紙を持つ手がわずかに震える。



「...アンドリューは馬鹿よ。突然死んで、勝手にいなくなってしまうんだもの」



返事はない。


ただ、すぐそばで気配だけがある。



「セドリックも馬鹿よ。あんな馬鹿のために、こんなことまでして」



わたしを死なせないために、婚約や屋敷の改造をするなんて、とんだ大迷惑よ。


二人とも、とんでもない大馬鹿野郎よ。


でも



「でも...」



そんな二人の優しさに生かされてることに気づかなかった、わたしが一番の大馬鹿野郎だわ...!


最後の言葉は涙で喉がつっかえてて、口にすることが出来なかった。


その代わり、大きな声で泣いた。


たくさん、たくさん泣いた。


泣いてる間、セドリックは声をかけたり、肩を抱いたりなど、慰めるような行動は一切しなかった。


ただ、泣き止むまで、ずっと傍にいてくれた。



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