俺、変えます。
今回はだいぶ長くなってしまいました。申し訳ありません。
※10月19日追記、ロンド×ロッド〇
最新話「俺、思案します」にて修正が加わってます。
-8話 俺、変えます。-
「狩り場を変えようと思うんだ」
オーク3体をまとめて倒した翌日、ミルとならもう少し強いファントムでも勝てる気がしていた。
「どこ?」
「ガールヴン山道・入り口にしようと思ってるんだが、どうだろう」
ガールヴン山道とは、ガールヴン火山へ続く道で、その入り口に棲まうファントムを倒そうと言う提案をしている。ここ旅立ちの街、メイフィストから約1時間半歩いた所に位置する。いつもオークを狩っているのはメイフィスト北口の方だから、ガールヴン山道は真逆、南口から出発する事になる。
「シュウならもっと強いファントムでも狩れる」
「いや、死にたくないし安全策で行こうぜ」
「シュウが買ってくれた杖の効果、覚えてる?」
唐突にそんな事を聞いてくるミル。
「えーと、なんだっけ」
確かいい効果だったのは覚えているのだが、どんな効果かは忘れてしまった。
「微量のHP回復とバフ効果2倍なの」
「あー、そうだったな」
今聞いてもなかなかに良い杖だ。高いだけあるな、うん。
「それでねっ、聞いてっ」
何故かこころがぴょんぴょんしているミル。何があった。
「これ、ドロップしたのっ」
「ん・・・なんだこれ?」
両手で水をすくう手の形をし、その上になにやら透明な、歪な円錐型をした鉱石のようなものと、半透明のまんまるい紫色の鉱石のようなものを持っていた。大きさは、円錐型の方は親指の爪程度、まんまるい方は少し大きめなビー玉ほどの大きさだ。
「これはねっ、オークの涙とオークの魂霊球なのっ」
「と言いますと」
「昨日シュウが狩ったオークがレアドロップしたの。2ひきもだよっ。それがこれなのっ」
いつになくはしゃいでいるミル。何がどうしたと言うのだろうか。
「で、それがどうしたんだ」
「この杖ね、進化度がまだ一段階なの」
「あー、なるほどな」
理解した。この特殊ドロップアイテムで
「進化させたら、特殊能力が付与されるのっ」
そういうことだ。
「そうだな、進化させるか」
「うんっ」
満面の笑みで返事をする。やっぱお前可愛いなぁ・・・。いかん、惚れそうになった。
「そ、それにしてもよくもまぁこんなにドロップしたもんだな」
紛らわすため論点をずらす。
「うん。それはね」
言いながらさほど長くないポニーテールを結んでいたシュシュを取り、差し出してくる。何が言いたいのかは何となく分かった。
「これ、お母さんからもらったの。御守りだって。前に効果を見たら『レアドロップ率25%アップ』って書いてあったの」
「にじゅ・・・!?」
絶句した。なんだそのシュシュ!ただの白いシュシュにしか見えないのに、どこにそんな効果があるんだよ!
そうつっこもうとしたが、明らかに顔色が暗くなっていることに気づき、怪訝に思った俺は何も言わなかった。
「・・・お母さんはもういないけど、このシュシュがあるから平気なの」
お母さんはもういないのか。どこまで境遇が似てるんだよ、俺達。
「・・・そうか。でも、お母さんは何の能力だったんだ?」
「お母さんは能力持ってなかったの。でも、毎日毛糸を編んだり、裁縫してた」
「じゃあそのシュシュは」
「そ。お母さんが作ったの」
言わんとしている事は言うまでもなく伝わっていたのだろう。ミルは儚げな表情で虚空を見つめ、小さく頷きそう言った。
俺が掛けてやれる言葉は見当たらず、そのまま時間に体を預けた。
「それじゃ、進化させにいこっ」
暫しの時間が経ち、ミルからそう切り出した。
「そうだな、行こう」
内心ありがたかった。自分から切り出すのは何か気が引けていたのだ。きっとその空気を読み取って、自ら切り出し、明るく振る舞って見せたのだろう。
「オークのレアドロだからな。攻撃力が2倍とかそこらへんだろうな」
「これでシュウはもっと活躍できる。私楽できる」
「楽するなアホ」
ていっ、とチョップを入れる。
「ひうっ」
またしても変な声をだすミル。チョップされると変な声でるのがセオリーなのかこいつは。
「こりゃまた凄いものをドロップしたもんだねぇ」
涙と魂霊球を差し出し、特徴のある声で唸っているのは言わずもがな、鍛冶屋のおっちゃんだ。
「これで、この杖を進化させたいんだ。できるか?」
「あ、あぁ、できるさぁ。そりゃもうとびきり一級品の武器がねぇ」
「そうか、じゃあ頼む」
そういうとおっちゃんは懇願するように
「そ、そうだ、50万ゴールド、いや、60万ゴールド払う、これを譲ってくれねぇか?」
と問うてきたのだが。
「却下」
「ふぇ?」
なぜなの!?と目が訴えている。ん?デジャヴか、以前にもこんなことがあったような。
「じゃ、じゃあ80万、80万でどうだ?」
「俺、別に金に困ってる訳じゃねぇよ」
「いや、しかし、譲って頂く訳には・・・?」
「いかないです。今回は縁がなかったということで」
「そ、そんな・・・」
ガーンと、BGMが聞こえてきそうなほどがっくりとうなだれるおっちゃん。すまんな、今回は無理なんだ。
「で、どんな効果がつくんだ?」
「あぁ、攻撃力が2倍に、バフだと対象の人間の攻撃力が2倍になるっていう、トンデモアイテムでさぁ。・・・譲って頂く訳には・・・?」
なるほど、予想したとおりだったな。
「じゃあ、涙は何の効果だ?」
「あぁ、与えたダメージの2%を回復、バフもまた同じく対象の人間が与えたダメージの2%回復するっていう、トンデモアイテムでさぁ。・・・譲ってくれんか・・・?」
なるほどな。こりゃ強い。おっちゃんを振り続けてもなお食い下がる理由も納得できる。
「じゃあ、それで進化してくれ。素材2つだから・・・5万ゴールドだな。頼んだ」
「どうしてもダメかい?なぁ、もっと使い道は他にも」
「そろそろうるせえぞ。青い霧にされたいなら別だけどな」
「ひっ!わ、分かったよぉ、進化させればいいんだろぉ・・・」
「ん、頼む」
未だにがっくりとうなだれているおっちゃんは、埃臭い作業台にステッキ、涙、魂霊球を並べ、目を瞑り、そこに手をかざす。少し遅れて手の近くに掌と平行な薄紫色の魔法陣が発生する。進化の準備をしているらしい。
魔法陣に照らされたステッキなどは光に包まれている。
そしてなにやらゴニョゴニョと呪文のようなものを唱えていたおっちゃんが唇を止め、目を開ける。
ピカーン!とステッキたちは光を飛ばし、目がくらむ。反射的に目の前に手をかざし、光が目に入らないようにする。
光が止まった。かざした手をよけ、ステッキの姿を確認する。
「おぉ・・・!」
その輪郭を露わにしたステッキは、最早ステッキではなく、ロンドだった。
三日月状になった先端の中に、どういう原理で浮いているのかが不思議な、薄紫色の球体が浮遊しており、その周りを月のように回転する妖精のような光。根元部分はさほど変わっておらず、変化を挙げるとすると、少し槍状に尖っている事だろうか。
その華美なロンドをみて感嘆していたら、おっちゃんが一言。
「・・・もったいねぇよぉ・・・」
「余計なお世話だっての」
「はぁ・・・それは、至極の逸品だからなぁ?大切に、たいっせつにあつかうんだぞぉ?」
「それは俺に言われても、なぁ?」
そして、催促するようにミルを横目で見やる。
ずっと黙っていた彼女であったが、その意味は言わずとも見て取れた。
「うぅ、うんっ・・・ありがと・・・ありがとっ、おじさんっ」
涙目で瞳が潤んでいる彼女は、光に照らされその眼は輝いている。そして、感謝を述べたのち、優しく微笑み、その笑顔を俺ではなくおっちゃんへと向ける。
その姿はまさに、聖母マリア様を思わせるほど美しく、神々しかった。
そんな悩殺スマイルを直に受けたおっちゃんはというと。
「あ、いやぁ、あは、あははぁ、そ、その、ねぇちゃん、お礼なんていらないんだよぉ!あの、あのなぁ、こ、ここ、かこ、こここれは仕事だからぁ!いいいつでも、ま、また来てくれていいからねぇ!べべべつに、二人で食事とか、そ、その、行きたければ、おおおごるし、あ、あは、あははぁ!」
完全に惚れてしまったらしい。まぁ、こんなのをまともに食らって平常心でいられる方がおかしいが。
「良かったなミル」
そう言うと
「うんっ、ありがとっ!シュウ大好きっ!」
「ぬぉぉ」
飛びついてきたのだ。あはは、あはははは、こりゃ、だめだ。ああぁぁぁぁぁ。
「仲間だろ、いつでも頼れよ」
「うんっ」
キリっと決め、頭をぽんぽんして、俺の好感度をあげておいた。ミルがこの変態じじぃルートとかにいったらマジでつまんないからな。このエロじじぃ、そのうち痛い目見させてやる。
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「あ、あれは若かったの」
装備を新調したミルと共に装備を整える為一旦家に戻った。
「そうかい」
「べ、別にシュウのこと大好きじゃないしっ。そ、それに、シュウのことなんて、な、なんとも思ってなんかないんだからっ」
俺に飛びつき、大好きと叫んだ事を訂正したいらしい。訂正しなければ俺ルート確定だったのによ。訂正した事を訂正しろ。
「わかったから落ち着け」
「むぅ・・・絶対わかってないもん」
「はぁ、まあそれはともかく、さっき話した内容で異議はないな?」
「うん、ない」
「よし。じゃあ行こうか」
話した内容は、至って単純なもので。
「シュウ、装備もつよくなったの。ガールヴン火山・火口もいけるわ」
「確かに強くはなったがなぁ。まだ安全じゃない。危険が伴う。それに、相手もどんなのが出てくるか分からないぞ」
「ファントム狩りは常に危険は伴ってるの。あと、相手ならわかる。暇だったときファントム辞典を読み漁ってたの」
「そのうち行くことになるだろ?なら、山道入り口で下積みした方が身のためじゃないか?」
「いや。シュウならできるの。火口に行くの」
「安全策を取るべきだ。山道入り口に行くぞ」
「むぅ・・・」
「ぐぬぬ・・・」
「「ガールヴン火山・中腹ならいい」」
お?
「今、何ていった?」
「・・・中腹ならいいっていったの」
「あぁ、俺もそう言った・・・」
「・・・」
「・・・」
「決まりだな」
「うん。きまり」
こういう流れな訳だ。
やはり、相性は良いらしい。
「うん、いこっ」
「っと、その前に道具屋に寄るぞ」
そう言った俺をキョトンとした目でみて、
「なんで」
と問われたため
「トランジション・ストーンを買いに行くんだよ」
と言った。
「それなに」
「言わば転移するための石だな。トランジション・ストーンは親結晶と子結晶ってのがあって、俺達は親結晶を持ち歩くんだよ。子結晶は、転移したい場所で割るんだ。だから例えば、家の前でトランジション・ストーンの子結晶を割ると、親結晶に転移場所として記録されるんだ。記録されると次からそこに転移することが出来る。それを、ガールヴン火山・中腹で割って、次から歩いて行かなくていいようにするんだよ」
「なるほどっ。シュウかしこい」
「とにかく、道具屋に行くか」
「ありがとうございましたー」
まじかよ・・・。
「シュウ、大丈夫なの?」
「あ、あぁ。問題・・・ない・・・はずはない・・・」
トランジション・ストーンを購入したのはいいのだが、親結晶が10万ゴールド、子結晶が1つ2万ゴールドもしたのだ。高すぎる!
オーク狩りで半年稼いだお金はもうほとんど残っておらず、1ヶ月暮らせるか否かといった具合になってしまった。
今は昼の12時30分くらいだ。火山中腹までは2時間と少しくらいかかる。
夜の8時まで狩るとして、約5時間だ。せめて、25万は稼ぎだいところだ。
「じゃあ、行くぞ」
「おー」
メイフィスト南口で1つ子結晶を割り、親結晶に登録させる。これで帰りはすぐだ。
狩り場を変え、今日からオークの数倍強い相手と『2人』で戦います。
・・・普通5~6人パーティーでいくもんじゃねぇのかよここって。
俺とミルはガールヴン火山・中腹に歩みを進めた。
次回、狩り場を変えたシュウとミル。その結果はいかに・・・?




