俺、共闘します。
-7話 俺、共闘します。-
「おきて、シュウ」
遠くでミルが俺を呼んでいる。意識外からの侵食を受けている。いやまぁわかっちゃいるが起きたくない。というより起きれないのが長年のニート生活で我が身を蝕んでいる一つである。
「シュウ、おきて」
聞こえてるよ、起きてるよ、ただ、目を開けたら負けな気がするんだよな、これ。
ん?あれ、息できねぇ。鼻に感触が。なるほど、つままれているのか。なんと卑劣な!だが甘いな。人間には口というもう一つの呼吸器官があるのだな。ふっふっふ。これで気道確保。
ちょいまて、口も塞いだなコイツ。おい、息できねぇんだが。お前殺しにかかってねぇか?
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朝、何かと戦った俺はミルに起こされリビングにて食事を食べている。
「どう、おいしい?」
ミルが不安げな表情で問い掛ける。
「・・・あぁ、うまいよ」
「・・・よかった」
安堵する彼女。
いやお前ら勘違いすんなよ?コイツ、あたかも自分で作ってるように語ってるけど朝ご飯俺作ったからな。
殺されかけ、目を開けると案の定そこにはミルがいた。
「ようやく起きた。シュウお寝坊さん」
ベットの横に立ち、髪の毛が顔にふれる距離で前屈みする彼女。
「・・・まだ朝じゃん」
俺が言い放つと驚いた顔で一言。
「昼じゃん」
「・・・すみません」
ムクっと立ち上がり、目をこすりボサボサの髪の毛を掻きながら軽く会釈する。
「もうお腹すいたの」
「適当にそこらへんの食べて良かったんだぞ」
「・・・そこらへんって何」
ジト目でこちらを見やる彼女。
「ほら、パンとか置いてあるだろ」
「焼かないと食べれないの」
「あぁ、焼けば良いじゃないか」
「・・・火はこわいの」
恥ずかしそうに彼女。
「そうかい」
「だ、だから何かつくって」
恥ずかしさを取り繕うようにして話題を変える。
「何かって?」
「何でもいい。おいしいの」
「よし、ならとっておきがあるぞ」
そして今に至る訳なのだが。
俺が作ったのは母直伝のパンにマーガリンもしくはバターを塗ってその上にベーコンを乗せ、お好みで溶いた玉子の焼いたものを乗せる。といった具合のジャンクフードだ。
それを見た途端に嬉しそうに頬張り、ものの数秒で皿が片付いてしまった訳だ。
そして暇を持て余したのだろう。新妻ごっこでも始めたらしい。
「食べ終わったらお皿は流しにおいといてね」
お前どうせ洗わないだろうが。
昨日出会ってすぐに打ち解け、家に住み始め、これから二人で過ごしていく訳なのだが。
「おい、金ないから稼ぎにいくぞ」
「ん。いってらっしゃい」
コイツ養われる気しかねぇ!
「いってらっしゃいじゃねぇよお前も働くんだよ」
「・・・疲れるのキライ」
「てめぇはバフ掛けるだけだろが!」
「魔力もいっぱい使うから疲れるの」
あぁ、聞いたことはある。魔法は少し使う分には何も支障はないけど、枯渇すると100メートルを全力で走った程度には疲れると。しかし。
「こちとらずっと体動かして戦っとんじゃワレ」
「むぅ・・・わかった」
しぶしぶといった所で了解してくれた。
「それに、お前のバフをかけられる前と後での比較もしないといけないからな」
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やってきましたは街郊外近郊。そこまで強い敵はいないがオークがでるスポット。
ちょうどよくと言えばいいのかタイミング悪くと言うべきなのか、15メートルほど先に3体のオークがリスポーンした。
「あいつら、狩れるかな」
「シュウならいけるわ」
迷いなくそう言うミル。何を根拠に言ってるんだこいつは。
そして生憎と3体同時にこちらに気づいた。
こちらを見据えるや否や走り出したオーク。
3体同時は流石にやばいだろ。と思い、逃げ出す提案をしようと思ったが、一つ聞いていなかったことを思い出し、問う。
「ところでお前のバフはどんな能力なんだ?」
「全能力500%アップ」
「え、思ってたより強いじゃないか。何でないがしろにされてたんだ?お前」
今までいらない子扱いされていたと聞いたからどんなヘボバフが来るのかと思っていたがなんだ、案外強い能力で驚いたぞ。
「前も言ったけど私、攻撃魔法も回復魔法も使えないの」
「でもよ、それが無いのも納得できるほどの能力じゃないか?」
俺がもし攻撃力アップの能力だとしたら喉から手がでるほど欲しいけどなぁ。
「特殊能力と、自身の能力は効果を受けないの」
「ん?・・・つまり?」
「もし攻撃力アップの能力を持った人がいて、その人にバフをかけても攻撃力は上がらないの。他の防御力とかスピードとかが上がるの」
「うわぁ、いらねぇ」
「・・・毎回ひどい」
なるほどな・・・確かに攻撃力アップの奴が欲しいバフは攻撃力アップのバフで、防御力アップの奴が欲しいバフは防御力アップのバフだよな。そういっている間も走ってくるオーク。足は遅いためまだ10メートルほどのところにいる。
「その、特殊能力ってのはなんだ」
「鍛冶スキルとかの戦闘系じゃないの」
「まぁ、鍛冶職人のスピードが上がったところで手の動きが機敏になるだけだからな」
確かに、それだと必要とされてこなかったのもわかる。これだとどのパーティーもないがしろにしていたことは頷け・・・いや、待てよ。通常の能力が500%上がるけど、自身の固有能力は上がらないという欠点。その欠点は、欠点のある奴にかければどうなるだろう。例えば
『運動神経アップ(大)煌+++』
『動体視力アップ(大)狂+++』
の能力だとしたら。
元々特殊能力ではあるが、世間体でも必要とされなかったこの能力。攻撃力も無く、防御力もへなちょこ、スピードも遅くはないが早くない。こんな欠点だらけの俺だが。しかし運動神経が良い、つまりアクロバティックな動きが可能と言うわけだ。動体視力が良い、つまり相手の行動をしっかりと読み取り対応する事が出来る。そしてそこに通常能力+500%がつけば。攻守共に並みの男よりも強くなり、スピード、魔力が上がっているためさらにアクロバティックな動きが可能となる。魔力はまぁ、俺にはいらない要素ではあるが、攻守速が常人を超えてしまえばまさに百人力である。運動神経と動体視力が元から上がってる俺にしか成し得ない業だと言っても過言ではない。
つまり、無双出来る訳だ。
「俺とお前、相性最高みたいだな」
言うとミルは
「そう思ってシュウを選んだの」
そう言い微笑み返事をした。
オークは4~5メートルほどとかなり近くなった。
「頼んだ」
「任せて」
両者ともに短い簡潔な言葉で意志疎通した後、俺は両腰に携えたチェーンソーを抜き取り走り出した。そして、ミルも何やら詠唱を始めた。
狩りの始まりだ。
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俺は両腰に携えたチェーンソーを抜き取り走り出した。そして、ミルも何やら詠唱を始めた。
正面、オークと1,5メートルほどの距離で体が黄色い光で覆われた。ミルがバフをかけてくれたのだろう。
体が軽い。
3体のオークが一斉に武器を天にかざし、俺に向かって振り下ろしてくる。
見える。
それを2メートルほどオークの頭上を飛んでかわし、オークの背後をとる。オークは振り下ろしたそれぞれの武器で地面を殴り、ゆっくりと姿勢を直す。時間にして約3秒。深く抉られた地面がその威力を物語る。あんなものを一振りでも食らってみろ。俺の頭がああなるぞ。
全員こちらに振り返り、向かって右のオークから走って殴りかかろうとする。
今度はこっちの番だ。
自らもオークめがけ走り出す。バフをかけられた俺の足の速さはそれは凄まじい事だろう。体感速度はいつもの12倍ほどか。
零コンマの世界でオークの正面に入る。オークも対応しきれず、ただ止まっている。それを容赦なく逆手にもったチェーンソーでお腹を切り裂く。凄まじい速度で斬られたオークは、跡形と無く霧となった。続く二頭も閃光の如く速さで霧散させられる。そして残ったのはワインレッドの残光のみだった。ジグザグと残った残光はオークの末路を語っていた。
俺が戦闘態形に入って1秒ほどの出来事はあっけなく終了した。
「シュウ、かっこよかった」
キラキラとスターでも見るかの目で迫ってくるミルだが、今はそれが心地よかった。
「・・・初めてファントム狩りが楽しく感じた。ありがとな、ミル」
「私も初めて活躍できた気がして嬉しかった」
暫しの沈黙ののち、二人向き合い微笑み合い、付き合いたてのカップルのような甘酸っぱい時間が流れた。
俺達ならうまくやっていける。そう確信した。




